著者の所属・活動拠点の国は、イタリアです。
掲載誌:Frontiers in Epidemiology
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
地中海食は、果物、野菜、全粒穀物、豆類、ナッツ、オリーブオイルを多くとり、魚は適度に、赤身肉や加工食品は控えめにする食事パターンです。これまでの研究で、心血管の健康との関連が数多く報告されてきました。近年は食事だけでなく、よく体を動かす、人とのつながりを保つ、十分に眠るといった地中海地域の暮らし方全体に目を向けた「地中海式ライフスタイル」という考え方も提唱されています。
ただし、この枠組みを地中海地域の外で検討した研究はまだ多くありません。そこで研究チームは、英国の高齢者を長期に追跡している調査「English Longitudinal Study of Ageing(ELSA)」のデータを使い、地中海式ライフスタイルの実践度やその構成要素と、高血圧、心臓発作(心筋梗塞・冠動脈血栓症)、脳卒中との関連を調べました。
何をどのように調べたか
分析の対象は、2018〜2019年の調査時点で65歳以上だった地域在住の565人です。車いすなどの移動補助具を使う人や、がん、パーキンソン病、認知症などの重い慢性疾患がある人は除外されました。この時点を出発点とし、2023〜2024年の調査までのおよそ6年間を追跡しています。
地中海式ライフスタイルの実践度は0〜24点で評価しました。内訳は、食物摂取頻度の質問票から算出した地中海食への適合度(0〜18点)と、身体活動、水を飲む量、社会的孤立の少なさ、睡眠時間、自宅での調理の5項目(合計0〜6点)です。点数が高いほど、地中海式の暮らし方に近いことを意味します。
心血管疾患の発症は、前回の調査以降に医師から新たに診断を受けたかどうかの自己申告で判断しました。分析には、ある時点での関係をみる横断的な分析と、出発点で病気がなかった人がその後に発症したかどうかをみる縦断的な分析の両方を用いています。発症した人の数が少なかったため、統計モデルでは年齢と性別のみを調整しました。
主な結果
出発点の時点で高血圧があったのは96人、心臓発作の経験者は14人、脳卒中の経験者は10人でした。追跡期間中に新たに確認された人は、高血圧が42人、心臓発作が16人、脳卒中が13人でした。
横断的な分析では、地中海式ライフスタイルの点数が1点高いごとに、高血圧である見込みを表すオッズが低いという関連がみられました(オッズ比0.849)。一方、縦断的な分析では、点数と高血圧、心臓発作、脳卒中の新たな発症との間に統計的に意味のある関連は認められませんでした。著者らは、発症数が少なかったため推定の精度に限りがあったと述べています。
構成要素ごとにみると、地中海食への適合度が高い人ほど、追跡期間中に心臓発作を新たに起こすオッズが低いという関連がみられました(オッズ比0.670)。ただし、この結果は信頼区間が有意かどうかの境目に近く、多くの組み合わせを検定したことによる補正もしていません。そのため著者らは、偶然の可能性を否定できない探索的な結果と位置づけ、十分な規模の研究で確かめる必要があるとしています。
結果の意味と注意点
この研究から、英国の地域在住高齢者では、地中海式の暮らし方を多く実践している人ほど高血圧が少ないという関連が示されました。一方、約6年の追跡では、新たな心血管疾患の発症との関連は確認されませんでした。著者らは高血圧との関連について、単一の要素ではなく、複数の生活習慣が組み合わさっていることが重要な可能性があると考察しています。
結果の解釈にはいくつかの注意が必要です。調整したのは年齢と性別だけで、体格、喫煙、糖尿病、降圧薬の使用、社会経済的な状況などの影響は除けていません。生活習慣も診断も自己申告です。また、横断的な関連については、高血圧と診断された人が医師の助言で生活を変えた可能性もあり、どちらが原因かは判断できません。今回の結果は因果関係を示すものではなく、地中海地域以外の高齢者で地中海式ライフスタイルと心血管疾患の関係を検討した一つの報告として受け止めるのが適切です。
原著論文の著者・所属:Hélio José Coelho-Júnior(Department of Geriatrics, Orthopedics and Rheumatology, Università Cattolica Del Sacro Cuore; Fondazione Policlinico Universitario Agostino Gemelli IRCCS)、Emanuele Marzetti(Department of Geriatrics, Orthopedics and Rheumatology, Università Cattolica Del Sacro Cuore; Fondazione Policlinico Universitario Agostino Gemelli IRCCS)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Hélio José Coelho-Júnior, Emanuele Marzetti. Associations between Mediterranean lifestyle and its components with cardiovascular outcomes among community-dwelling older adults. Frontiers in Epidemiology 2026-10-21. DOI: 10.3389/fepid.2026.1933837. 原著ライセンス:CC BY.