著者の所属・活動拠点の国は、オランダです。

掲載誌:Military Medicine

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

なぜ兵士の食事を調べたのか

兵士が健康を保ち、任務で力を発揮するには、十分な栄養が欠かせません。食事が足りなかったり偏ったりすると、体力や判断力の低下、けがや途中離脱のリスクの増加と関連することが、これまでの研究で指摘されています。一方で、オランダ軍の兵士が実際に何をどれだけ食べているかについてのデータは限られていました。

軍隊での食事には、大きく分けて3つの場面があります。野外訓練では携行用の戦闘糧食(レーション)に頼り、基地では食堂で用意された食事をとり、自宅では自分や家族が食材を選んで調理します。食べ物の手に入り方が場面ごとに違うため、食事の量や質も変わる可能性があります。そこでオランダの研究チームは、オランダ軽機甲旅団の兵士を対象に、この3つの場面でのエネルギーと栄養素の摂取量を調べました。

どのように調べたのか

調査は冬のオランダで、厳しすぎない気候のもとで行われました。どの場面でも、食事の時間や食べ物の量に制限はありませんでした。参加した75人のうち女性は3人だけで、個人の特定を避けるために分析から除かれ、男性兵士72人のデータが使われました。分析に含まれた人数は、野外訓練で61人、基地で55人、自宅で38人です。

野外訓練では、96時間にわたって摂取量を調べました。兵士には1日あたり約5,250キロカロリー分のレーションが配られ、食べ終えた包装ごみと未開封の食品を、日ごとに色分けした袋で回収しました。包装ごみから食べた量を割り出し、家から持ってきた食べ物や仲間と交換した食品、飲み物は、毎日の簡単な記録で補いました。

基地と自宅では、兵士がスマートフォンの食事記録アプリに、食べたものと飲んだものをすべて記録しました。基地では平日計8日間、自宅では週末計4日間です。あわせて活動記録アプリで日々の運動や軍務の内容を記録してもらい、その内容から消費エネルギーを推定しました。

摂取量は、軍人向けに作られた食事摂取基準(MDRI)と比べて評価しました。MDRIは、訓練や任務中の兵士の体の需要に合わせて定められた目安です。この研究では、野外訓練の負荷を「中程度」と判断し、必要なエネルギーを1日約3,400キロカロリーとしています。

主な結果

エネルギー摂取量は、3つの場面とも1日平均約2,750キロカロリー前後で、どの場面でもMDRIの目安を下回りました。目安を満たした兵士は各場面で2割未満でした。ただし基地と自宅では、活動記録から推定した消費エネルギー(基地で約2,990キロカロリー、自宅で約2,750キロカロリー)と摂取量はほぼ同程度でした。野外訓練では、体重を測れた50人のうち38人が体重を減らしており、その平均は約1.7キログラムでした。

栄養素の内訳を見ると、食物繊維はどの場面でも1日約21〜23グラムで、目安の34グラム以上を大きく下回りました。炭水化物は、基地と自宅では摂取エネルギーの約40%にとどまり目安(50〜55%)に届きませんでしたが、野外訓練では約51%で目安の範囲内でした。たんぱく質はすべての場面で目安を満たしていました。

反対に、脂質、飽和脂肪、ナトリウム(塩分)は、どの場面でも目安を上回りました。脂質は摂取エネルギーの34〜36%程度(目安は30%未満)、ナトリウムは1日約4グラム(目安は2.3グラム未満)でした。

場面同士を比べると、野外訓練では基地や自宅よりも炭水化物の割合が高く、たんぱく質と飽和脂肪は低いという統計的な違いが見られました。また、たんぱく質は自宅より基地で多くとられていました。

研究から見えてきたこと

野外訓練では、配られたレーションが推定必要量を大きく上回っていたにもかかわらず、摂取量は目安に届きませんでした。著者らは、食べ物が足りなかったわけではないと述べています。そのうえで、体重減少が限られていたことから、MDRIにもとづく必要エネルギーの見積もりが、今回の訓練での実際の活動量を十分に反映していなかった可能性を指摘しています。必要以上のレーションを配ると、兵士が背負う荷物が重くなり、食品ロスや補給の負担も増えます。著者らは、消費エネルギーをより正確に把握し、配給量を活動に見合ったものにすることが、こうした負担を減らしつつ十分なエネルギーを確保する助けになると考えています。

栄養の質については、著者らは食物繊維の多い炭水化物を増やすことが、エネルギー不足を補い、食物繊維の不足を改善する方法になりうると述べています。脂質、飽和脂肪、塩分を減らす工夫も検討すべきだとしています。なお、この研究は1つの旅団の男性兵士だけを対象としており、野外と基地・自宅で測定方法も異なるため、結果をオランダ軍全体に当てはめるには注意が必要です。それでもこの研究は、同じ兵士たちの食事を3つの場面で横断的にとらえ、場面ごとの特徴と共通する課題を示しています。

原著論文の著者・所属:Minke P J Geerts(Department of Human Performance, Unit Defence, Safety and Security, Netherlands Organization for Applied Scientific Research (TNO) , Soesterberg 3769DE,)、Leanne M van der Hout(Department of Human Performance, Unit Defence, Safety and Security, Netherlands Organization for Applied Scientific Research (TNO) , Soesterberg 3769DE,)、Pim J Scheiberlich(Department of Human Performance, Unit Defence, Safety and Security, Netherlands Organization for Applied Scientific Research (TNO) , Soesterberg 3769DE,)、Lotte G P Peters(Department of Microbiology and Systems Biology, Unit Health and Work, Netherlands Organization for Applied Scientific Research (TNO) , Leiden 2333BE,)、Diewertje Sluik(Sustainable Health and Readiness Department, Staff Defence Healthcare Organisation, Ministry of Defence , Utrecht 3584AB,)、Iris M de Hoogh(Department of Human Performance, Unit Defence, Safety and Security, Netherlands Organization for Applied Scientific Research (TNO) , Soesterberg 3769DE,)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Minke P J Geerts, Leanne M van der Hout, Pim J Scheiberlich, et al. Soldiers’ Dietary Intake in 3 Settings: In the Field, on Base and at Home. Military Medicine 2026-08-03. DOI: 10.1093/milmed/usag387. 原著ライセンス:CC BY.