この研究は、中国の研究機関の研究論文です。
掲載誌:Foods (Basel, Switzerland)
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: Europe PMC
研究の目的:茶葉に含まれる量ではなく「溶け出す量」を知る
お茶には、カリウムやカルシウム、マグネシウムをはじめとするさまざまなミネラル(無機元素)が含まれています。しかし研究チームが指摘するのは、茶葉にどれだけ含まれていても、湯を注いで抽出液(茶湯)に溶け出さなければ人が口にすることはできない、という点です。つまり、お茶の栄養面での貢献を評価するには、茶葉の含有量だけでなく、実際の淹れ方のなかで各元素がどれだけ、どのタイミングで溶け出すのかを明らかにする必要があります。
また著者らは、ミネラルが単に栄養成分であるだけでなく、茶湯中でポリフェノールや有機酸と結びつくなどして、酸味・甘味・苦味・渋味・塩味といった基本の味や、コク・後味といった複雑な口当たりの形成に関わりうることを先行研究から紹介しています。そこで本研究は、中国福建省武夷山で生産される烏龍茶「武夷岩茶」の代表格である大紅袍を対象に、11元素の含有量と繰り返し抽出時の溶出挙動、風味との関連、そして人の食事摂取基準に対する寄与を、まとめて検討することを目的としました。
調べ方:9つの製品を5回続けて淹れ、元素と風味を同時に測定
研究チームは2025年10月、武夷山の茶製造企業から大紅袍の完成品9点(D1〜D9)を集めました。原料の茶葉はいずれも2025年5月に摘まれ、萎凋・発酵・揉捻・乾燥という同一の工程で加工されており、加工条件の違いが結果に混ざらないよう揃えられています。一方で、産地の異なる3つの地域からそれぞれ3か所の茶園を選ぶ形で採取され、産地による元素組成のばらつきを評価できる設計になっています。
抽出は、武夷岩茶の実際の飲み方に沿って行われました。茶葉8.0 gに対して茶と水の比を1:15とし、95℃の超純水を用いて連続5回淹れます。抽出時間は1回目が5秒で、以降3秒ずつ延ばして2回目8秒、3回目11秒、4回目14秒、5回目17秒とし、1煎目から5煎目までをT1〜T5としました。茶葉と各煎の茶湯について、カルシウム、カリウム、ナトリウム、マグネシウム、鉄、亜鉛、銅、マンガン、セレン、クロム、モリブデンの11元素を、誘導結合プラズマ質量分析法(ICP-MS、微量の元素を高感度で定量する分析手法)で測定しています。
風味の側面は、機器による測定で捉えられました。においについては電子鼻(金属酸化物半導体センサーが揮発性成分に反応して電気抵抗の変化を示す装置)で9種類のセンサー応答を、味については電子舌(人の味覚受容のしくみをまねた脂質膜センサーで電位差を測る装置)で酸味・苦味・渋味・後味B・後味A・うま味・コク・塩味・甘味の9つの味指標を得ています。さらに、累積の溶出率が抽出時間に対してどう変化するかを一次速度モデルで当てはめ、元素の含有量・溶出率と香り・味の指標との関連を相関ネットワークとして解析しました。最後に、中国住民の日常的な食事からの元素摂取量の平均値と、2023年版の中国住民食事摂取基準に示された各元素の適正摂取量とを参照し、5回の抽出で溶け出した総量から、各集団にとっての「適切な1日の茶摂取量」を計算しています。
報告された主な結果:元素ごとに大きく異なる溶けやすさ
茶葉中の含有量では、カリウムとカルシウムが最も多く、カリウムは3944.91〜5532.93 mg/kg、カルシウムは1913.70〜2909.92 mg/kgの範囲でした。マグネシウム、鉄、亜鉛、マンガン、銅は中程度で、ナトリウム、セレン、クロム、モリブデンは最も少ないという分布です。平均値ではカリウム(4532.25 mg/kg)、カルシウム(2415.45 mg/kg)、マグネシウム(652.64 mg/kg)の順でした。
ところが、5回の抽出を通じた累積の溶出率は元素ごとに大きく異なっていました。マグネシウムが最も高く67.24〜70.94%に達した一方、鉄・カルシウム・カリウム・亜鉛はおおむね10%を下回り、ナトリウム・銅・マンガン・モリブデンは25%超、セレンとクロムは15〜26%の範囲でした。平均溶出率ではマグネシウム(69.50%)、ナトリウム(31.96%)、銅(31.48%)の順となっています。含有量が多い元素が必ずしもよく溶け出すわけではない、という対比が示された形です。著者らは、マグネシウムの溶けやすさについて、クロロフィル(葉緑素)のポルフィリン環の中心イオンという構造上の位置づけとイオンとしての性質によるものとして説明しています。
煎を重ねたときの変化も特徴的でした。11元素すべてで、1回ごとの溶出量はまず増えてから急速に減り、2煎目(T2)で最大となります。T1からT2にかけての増加が特に大きかったのはナトリウム(140.74%)、モリブデン(147.36%)、セレン(96.04%)、鉄(76.32%)、クロム(74.91%)で、その後T2からT5にかけてはカリウム、ナトリウム、鉄、セレン、クロム、モリブデンなどが50%を超える大幅な減少を示しました。つまり最初の1〜2煎が元素の放出のほとんどを担い、以降の寄与は目立って小さくなります。累積溶出率は11元素すべてで一次速度モデルによく当てはまり(決定係数R²は0.93〜1.00、いずれも有意)、序盤に速く溶け出して次第に平衡へ近づく曲線として記述されました。速度定数はマグネシウム・カルシウム・銅が小さく(約0.032〜0.034)緩やかに溶け出すのに対し、カリウム・ナトリウム・モリブデンは大きく(約0.087〜0.089)、初期に一気に放出されて急減する挙動を示しています。
茶葉中の総含有量と5回分の総溶出量の関係を回帰分析したところ、鉄を除く10元素で有意な正の相関が認められ、とくに亜鉛・銅・マンガン・クロム・モリブデンは相関が強い(R² > 0.90)ものでした。鉄だけが例外だった理由について、著者らは茶ポリフェノールと安定な不溶性の複合体をつくりやすい性質のためではないかという可能性を述べています。
風味との関連については、相関ネットワーク解析から多くの有意な関係が報告されました。たとえば溶出率でみると、カルシウムは塩味・酸味と正、苦味とは負の相関を示し、マグネシウムはコクと後味Aに正の相関、鉄とセレンはコク・後味A・渋味に正の相関、モリブデンは甘味・うま味・渋味に正で塩味・酸味に負の相関を示しました。一方、総含有量でみると、カルシウム・カリウム・亜鉛は渋味と正の相関を示すなど、別のパターンが現れます。注目されたのはマグネシウムで、コクや後味Aに対して溶出率では正、総含有量では負と、相関の向きが逆になりました。著者らはこれを、溶け出す画分と茶葉に蓄えられた総量とでは、風味成分への関わり方のしくみが根本的に異なる可能性を示すものとして議論しています。なお、これらはあくまで統計的な関連であり、因果関係が確かめられたものではありません。
食事摂取基準との対照では、元素ごと・集団ごとに「お茶で補いうるか」を計算し、必要となる1日あたりの茶の量が示されました。0〜3歳の乳幼児では、1〜3歳がカルシウムを補える計算になるものの必要量は851.15 g/日と現実的な量を大きく超えており、著者らは乳幼児にとってお茶はミネラル補給の適した経路ではないと述べています。4〜17歳ではカルシウム、カリウム、マグネシウム、セレンが対象となり、年齢が上がるほど必要な茶の量も増えるとされました。18歳以上の男女では、カルシウム(2628.08 g/日)、カリウム(2939.85 g/日)、セレン(803.45 g/日)などが挙げられ、マグネシウムは年齢とともに143.59 g/日から77.42 g/日へ減る計算です。妊娠・授乳期の女性では、亜鉛が各妊娠期で17.03 g/日、鉄が授乳期で75.13 g/日など、比較的少ない量で該当する元素もありました。著者らは総じて、お茶は補助的な手段にとどまり、日常の食事からの摂取に取って代わるものではないと位置づけています。
この研究が示すこと
この研究が描き出したのは、「茶葉に多く含まれる元素」と「実際に湯に溶け出す元素」が一致しないという事実です。含有量で上位のカリウムやカルシウムは溶出率が10%に満たず、逆にマグネシウムは7割近くが茶湯へ移りました。お茶の栄養面を語るとき、茶葉の分析値だけを根拠にすると実態からずれてしまうことを、数値をもって示した点に意味があります。
また、元素の放出が最初の1〜2煎に集中し、一次速度モデルで整然と記述できるという結果は、淹れ方という日常の行為が茶湯の組成を規則的に左右していることを示しています。さらに、元素の含有量や溶出率が香り・味の指標と多様に関連していたことは、ミネラルをお茶の栄養成分としてだけでなく、風味を形づくる要素の一つとして捉える見方を裏づけるものです。そして摂取基準との対照は、お茶が補える元素と補えない元素を集団ごとに切り分け、お茶の位置づけをあくまで補助的なものとして冷静に示しました。
著者:Jia M(College of Life Science, Fujian Agriculture and Forestry University, Fuzhou 350002, China.)、Qiu M(College of Life Science, Fujian Agriculture and Forestry University, Fuzhou 350002, China.)、Wang Y(College of Life Science, Fujian Agriculture and Forestry University, Fuzhou 350002, China.)、Wang A(College of Life Science, Longyan University, Longyan 364012, China.)、Jia X(Fujian Key Laboratory of Big Data Application and Intellectualization for Tea Industry, College of Tea and Food Science, Wuyi University, Wuyishan 354300, China.)、Ye J(Fujian Key Laboratory of Big Data Application and Intellectualization for Tea Industry, College of Tea and Food Science, Wuyi University, Wuyishan 354300, China.)、Wang H(College of Life Science, Longyan University, Longyan 364012, China.)、Wu Z(College of Life Science, Fujian Agriculture and Forestry University, Fuzhou 350002, China.)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Jia M, Qiu M, Wang Y, et al. Dissolution Behavior of Mineral Elements in Dahongpao Tea, Its Association with Flavor Quality, and Potential Contribution of Infusions to Dietary Reference Intakes. Foods (Basel, Switzerland) 2026-09-02. DOI: 10.3390/foods15173119. 原著ライセンス:CC BY.