日本主導:この研究は、筆頭著者・責任著者、または著者の主要所属が日本の研究機関である研究です。

掲載誌:Clinical and Experimental Nephrology

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的

腎臓の働きが失われ、血液透析や腹膜透析が必要になった人では、食欲の低下、尿毒症(腎不全で体内に老廃物がたまる状態)、食事制限、炎症などが重なり、栄養状態が悪化しやすいとされています。食事から十分なエネルギーやたんぱく質をとれないことは、体のたんぱく質やエネルギーの蓄えが大きく減る「たんぱく質・エネルギー消耗状態」の主な原因の一つで、死亡や入院などの好ましくない経過と結びつくと報告されています。

透析を始める時期は、体調が不安定で食事量が落ちやすいうえ、栄養の目標が変わる節目でもあり、栄養摂取を評価する重要なタイミングです。しかし、食事日記や聞き取り調査は患者の負担や記憶違いの問題を抱え、血液検査などから栄養摂取を推し量る指標も、体内の水分過多や分解の亢進といった栄養以外の要因に左右されやすいため、体調が安定していない透析開始時には信頼性がはっきりしないと著者らは述べています。

そこで研究チームは、入院中に病棟看護師が日常業務として記録している「食事をどれだけ食べたか」という摂取率に注目しました。この記録から推定したエネルギーとたんぱく質の摂取量が、透析開始後2年以内の死亡や入院と関連するかどうかを調べることが、この研究の目的です。

何を調べたか

研究は、1か所の高度医療を担う病院で過去の診療記録をさかのぼって調べる観察研究として行われました。対象は2016年から2018年の間に入院して血液透析または腹膜透析を始めた18歳以上の患者で、一時的な透析にとどまった人、透析開始時に口から食事をとれなかった人、肥満度を表すBMIが30以上の人などを除いた114人が分析に含まれました。年齢の中央値は72歳で、約9割が血液透析で治療を始めていました。

この病院では、腎不全の入院患者に、ガイドラインの推奨に沿ったエネルギーとたんぱく質の量があらかじめ決められた食事が出されます。看護師は毎食、主食と副食それぞれについて、食べた割合を0〜100%の10%刻みで記録しています。研究チームは、透析を始めた日から連続3日間の摂取率を、出された食事の栄養量に掛け合わせて1日の摂取量を推定し、さらに標準的な体重で割って、体重1kgあたりのエネルギー摂取量とたんぱく質摂取量を求めました。

調べた結果は、透析開始から2年以内に「あらゆる原因による死亡」または「合併症の治療のための入院」のどちらかが起きたかどうかです。年齢や持病、検査値、透析開始時の急な体調不良の有無などの影響を統計的に調整したうえで、摂取量との関連を分析しました。

主な結果

透析開始後3日間の摂取量の中央値は、エネルギーが体重1kgあたり1日24.8kcal、たんぱく質が同0.90gでした。2年以内に死亡または入院が起きたのは114人中49人(43%)で、内訳は死亡11人、入院38人でした。

さまざまな要因を調整した分析でも、エネルギー摂取量とたんぱく質摂取量はいずれも、死亡・入院の起こりやすさと有意に関連しており、摂取量が多いほど死亡・入院が起こりにくいという関係がみられました。この関連は、透析開始時の急な体調不良の有無を考慮しても保たれ、退院前日の摂取量でも同様の関連が確認されたと報告されています。一方、血液中のアルブミン値と体重から計算する既存の栄養指標(GNRI)では、有意な関連はみられませんでした。

患者の背景別にみると、年齢、性別、糖尿病の有無、心血管病の既往で分けたどのグループでも関連がみられました。また、計画外の緊急的な透析開始だった人、虚弱またはその前段階にあった人、BMIが25未満の人のグループでは関連がみられた一方、それぞれ反対側のグループでは有意な関連はみられませんでした。

死亡・入院を見分ける目安を求める分析では、予測の精度は中程度で、目安となる値はエネルギーが1日24.0kcal/kg、たんぱく質が0.9g/kgと示されました。これを下回るグループでは、上回るグループに比べて死亡・入院の割合が有意に高くなっていました。BMI30以上の人を加えた分析でも、関連は保たれていました。

研究が示す意味

著者らは、示された目安がガイドラインで推奨される摂取量のおよそ8割にあたることから、出された食事の8割以上を食べているかどうかが、経過を見通す簡便な手がかりになりうると考察しています。また、透析前に多く行われるたんぱく質制限の量はこの目安より低いため、透析開始時から十分なたんぱく質をとれるよう配慮する必要性を指摘しています。

この方法は、すでに日常業務として記録されている情報を使うため、追加の訓練や特別な道具、患者の負担がほとんど要らない点が特徴です。ただし、1施設の少人数を対象とした過去の記録の分析であり、示されたのはあくまで関連で、摂取量はおおまかな推定値であることや、ほかの評価方法との比較による検証ができていないことを、著者ら自身が限界として挙げています。

それでも、看護師が毎食つけている身近な記録が、透析を始めたばかりの人の栄養状態に目を向けるきっかけになりうることを示した点に、この研究の意味があります。

原著論文の著者・所属:Yoshifumi Hamasaki(Department of Hemodialysis and Apheresis, The University of Tokyo Hospital, 7-3-1 Hongo, Bunkyo-ku, Tokyo, 113-8655, Japan)、Mai Fujiwara(Clinical Nutrition Center, The University of Tokyo Hospital, Tokyo, Japan)、Mikie Imafuku(Department of Hemodialysis and Apheresis, The University of Tokyo Hospital, 7-3-1 Hongo, Bunkyo-ku, Tokyo, 113-8655, Japan)、Kana Suzuki(Department of Hemodialysis and Apheresis, The University of Tokyo Hospital, 7-3-1 Hongo, Bunkyo-ku, Tokyo, 113-8655, Japan)、Marie Morota(Department of Nephrology and Endocrinology, The University of Tokyo Hospital, Tokyo, Japan)、Teruhiko Yoshida(Department of Clinical Laboratory, The University of Tokyo Hospital, Tokyo, Japan)、Yohei Komaru(Department of Emergency and Critical Care Medicine, The University of Tokyo Hospital, Tokyo, Japan)、Masaomi Nangaku(Department of Nephrology and Endocrinology, The University of Tokyo Hospital, Tokyo, Japan)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Yoshifumi Hamasaki, Mai Fujiwara, Mikie Imafuku, et al. Dietary energy and protein intake assessed based on meal intake rate at dialysis initiation might be associated with 2-year mortality and hospitalization. Clinical and Experimental Nephrology 2026-10-17. DOI: 10.1007/s10157-026-02958-y. 原著ライセンス:CC BY.