日本主導:この研究は、筆頭著者・責任著者、または著者の主要所属が日本の研究機関である研究です。

掲載誌:Scientific Reports

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的:糖質と脂質の比率だけでなく、ビタミンやミネラルの充足にも注目する

食事のバランスというと、これまでは糖質と脂質の割合など、エネルギー源となる栄養素の比率が主に議論されてきました。糖質を減らして脂質を増やす「低糖質・高脂質(LCHF)食」は、減量や血糖コントロールへの効果が報告されてきた一方、肥満への効果はまだはっきりしていません。また、こうした研究の多くは糖質と脂質の比率に注目しており、ビタミン、ミネラル、食物繊維が推奨量を満たしているかどうかはあまり考慮されてこなかったと著者らは指摘しています。

研究チームはこれまでに、「日本人の食事摂取基準」に沿って33種類の栄養素を適切なバランスにそろえた「Optimized Nutri-Dense Meal(以下、最適化食)」を開発し、血圧や内臓脂肪面積などへの好ましい変化を報告してきました。ただし、以前の試験は何も介入しない群との比較で、適切に設計された比較用の食事を置いていませんでした。そこで今回の試験では、栄養素が不足した対照食と比べることに加え、微量栄養素の量はそろえたまま糖質と脂質の比率だけを変えた食事も用意し、違いが栄養素の充足によるのか、糖質と脂質の比率によるのかを見分けようとしました。

何を調べたか:300人を3種類の食事に割り付けて4週間比較

試験は東京で行われ、平均年齢およそ48歳、BMIが平均26程度の参加者300人を、くじ引きのように無作為に3つのグループへ分けました。1つ目は食事摂取基準どおりの糖質・脂質比率(エネルギーのうち糖質54.5〜61.5%、脂質21.5〜28.5%)で33種類の栄養素を整えた最適化食、2つ目は同じ栄養素の水準を保ちながら糖質を減らし脂質を増やした低糖質・高脂質版の最適化食(糖質44.5〜51.5%、脂質31.5〜38.5%)、3つ目は同じ献立でビタミンやミネラルが基準を満たさない対照食です。

食事は冷凍の弁当などとして提供され、参加者は電子レンジで温めて食べました。1日のエネルギー量は個人ごとに調整せず、男性は約2,150kcal、女性は約1,600kcalにそろえられています。参加者は自分のグループを知っていましたが、測定にあたる医療スタッフにはどのグループかが伏せられていました(単盲検)。

主に評価した項目(主要評価項目)は、お腹の内臓のまわりにつく脂肪の断面積である「内臓脂肪面積」と、ストレスや睡眠のリズムに関わるホルモンとして唾液中のコルチゾールとメラトニンです。あわせて、LDLコレステロール、血圧、腸内細菌、血液中の代謝物、そしてDNAの化学的な目印(メチル化)から推定する「生物学的年齢」なども調べました。なお本論文は試験の一部報告で、スマートウォッチなどの機器から得たデータは別の論文で報告される予定とされています。

主な結果:主要項目に差はなく、LDLコレステロールなどに違い

4週間で、内臓脂肪面積は3つのグループすべてで同じように10平方センチメートルあまり減りましたが、グループ間に差はありませんでした。唾液中のコルチゾールとメラトニンにも、はっきりした変化は見られませんでした。つまり、主要評価項目では、食事摂取基準に基づく食事が比較対象の食事を上回ることは示されませんでした。

副次的な項目では違いが見られました。LDLコレステロールは、最適化食群で平均16.5mg/dL、低糖質・高脂質版の最適化食群で16.8mg/dL下がり、対照食群の8.2mg/dLより大きく低下しました。収縮期血圧(上の血圧)は、低糖質・高脂質版の群で対照食群より有意に下がり、最適化食群でも低下傾向がみられました。一方、拡張期血圧(下の血圧)や体重、BMIの変化はグループ間で同程度でした。

探索的な解析では、腸内細菌のうちビフィズス菌が両方の最適化食群で対照食群より増えるなど、腸内細菌や血液中の代謝物にも変化がみられました。また、各グループで年齢が高い順に選んだ男性10人ずつという小さな集団では、最適化食群で、死亡リスクとの関連が知られるDNAメチル化に基づく生物学的年齢の指標「PhenoAge」が低い値を示しました。さらに、試験後に追加で行った機械学習の解析では、介入前のデータからLDLコレステロールや血圧が改善する人をある程度予測でき、予測精度の指標(ROC-AUC)は0.71〜0.76と報告されています。ただし著者らは、低糖質・高脂質版の群ではこの予測が不安定だったとしています。

試験期間中に報告された有害事象は、いずれも試験食とは関係ないと判断されました。

この研究が示すこと

この試験では、ビタミンやミネラルを食事摂取基準に合わせて整えた食事でも、内臓脂肪や睡眠関連ホルモンといった主要な項目では、栄養素が不足した食事や低糖質・高脂質の食事との差は見られませんでした。一方で、LDLコレステロールや血圧、腸内細菌、生物学的年齢の指標などでは差が観察されています。

著者らは、これらの副次的な結果はあくまで仮説を生み出すための探索的な知見であり、確認が必要だと位置づけています。糖質と脂質の比率だけでなく、微量栄養素の充足という観点も含めて食事の効果を比べる試みとして、今後検証すべき手がかりを示した研究といえます。

著者:Akihito Hishikawa(Division of Endocrinology, Metabolism, and Nephrology, Department of Internal Medicine, Keio University School of Medicine, Shinanomachi, Shinjuku-Ku, Tokyo, Japan)、Shintaro Fujii(Future Food Research & Development Division, Nissin Foods Holdings Co., Ltd, Hachioji-Shi, TobukimachiTokyo, Japan)、Jun Iimura(Future Food Research & Development Division, Nissin Foods Holdings Co., Ltd, Hachioji-Shi, TobukimachiTokyo, Japan)、Naohisa Shobako(Future Food Research & Development Division, Nissin Foods Holdings Co., Ltd, Hachioji-Shi, TobukimachiTokyo, Japan)、Takuo Nakazeko(Future Food Research & Development Division, Nissin Foods Holdings Co., Ltd, Hachioji-Shi, TobukimachiTokyo, Japan)、Yukio Hirano(Future Food Research & Development Division, Nissin Foods Holdings Co., Ltd, Hachioji-Shi, TobukimachiTokyo, Japan)、Futoshi Nakamura(Future Food Research & Development Division, Nissin Foods Holdings Co., Ltd, Hachioji-Shi, TobukimachiTokyo, Japan)、Masahiro Yagihashi(TES Holdings Co., Ltd, Higashiueno, Taito-Ku, Tokyo, Japan)、Atsushi Nakajima(Ueno-Asagao Clinic, Higashiueno, Taito-Ku, Tokyo, Japan)、Yoshinori Katsumata(Institute for Integrated Sports Medicine, Keio University School of Medicine, Shinanomachi, Shinjuku-Ku, Tokyo, Japan)、Kenichiro Kinouchi(Division of Endocrinology, Metabolism, and Nephrology, Department of Internal Medicine, Keio University School of Medicine, Shinanomachi, Shinjuku-Ku, Tokyo, Japan)、Jun Yoshino(Division of Nephrology, Department of Internal Medicine, Faculty of Medicine, Shimane University, Izumo-Shi, Shimane, Japan)、Junichiro Irie(Department Medicine II, Kansai Medical University, Hirakata-Shi, Osaka, Japan)、Kaori Hayashi(Division of Endocrinology, Metabolism, and Nephrology, Department of Internal Medicine, Keio University School of Medicine, Shinanomachi, Shinjuku-Ku, Tokyo, Japan)、Hiroshi Itoh(Center for Preventive Medicine, Keio University, Azabudai, Minato-Ku, Tokyo, Japan)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Akihito Hishikawa, Shintaro Fujii, Jun Iimura, et al. Optimized Nutri-Dense meals versus a low-carbohydrate high-fat diet: an exploratory randomized controlled trial. Scientific Reports 2026-10-03. DOI: 10.1038/s41598-026-73421-x. 原著ライセンス:CC BY.