日本主導:この研究は、筆頭著者・責任著者、または著者の主要所属が日本の研究機関である研究です。
掲載誌:Supportive Care in Cancer
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
婦人科がんの治療では、近年治療法が進歩した現在も、細胞傷害性の抗がん剤による化学療法が標準的な選択肢です。化学療法中は吐き気や味覚の変化など、食欲低下につながる症状がよく起こります。食欲低下は食事量の減少や生活の質(QOL)の低下と関係することが知られていますが、これまでの研究の多くは進行がんの患者や、消化器がん・肺がんの患者を対象としていました。
婦人科がんは、消化器がんや頭頸部がんと違い、食べる・飲み込む・消化するといった働きを直接妨げることは一般にありません。また、比較的早期の段階でも手術後の補助療法として化学療法を受けることが多くあります。研究チームは、こうした患者で食欲低下がどのような意味を持つのかは十分に調べられていないとして、化学療法中の食欲低下に伴う食事の変化を詳しく明らかにすることを主な目的としました。あわせて、食欲低下と他の副作用やQOLとの関係も調べました。
何をどのように調べたか
主な解析では、京都大学医学部附属病院で2022年7月から2026年3月にかけて募集した、初めて化学療法を受ける婦人科がんの患者を対象としました。治療開始前と、化学療法の3回目の前の2時点で、過去1か月の食習慣を尋ねる日本人向けの簡易な食事歴質問票と、がん患者のQOLを測る国際的な質問票に回答してもらいました。最終的に105人が解析対象となりました。
食欲低下の有無は、3回目の化学療法の前に「食欲がなかったか」という質問に「まったくない」と答えた人を食欲低下なし、「少し」以上と答えた人を食欲低下ありとして分けました。著者らは、重い食欲低下に限らず、軽い症状でも食事やQOLの変化と関係するかを確かめるためにこの区分を用いたと説明しています。この区分では、食欲低下ありと分類されたのは41人(39.0%)でした。
さらに補足的な解析として、国内5施設で2020年6月から2024年3月に登録された婦人科がん患者127人のデータを用い、15週間にわたって患者自身が報告したQOLや症状の推移を機械学習の手法で分析し、食欲低下がQOLの変動とどの程度結びついているかを調べました。
主な結果
食欲低下ありの群では、なしの群と比べて、治療開始前から3回目の化学療法前までの1日のエネルギー摂取量がより大きく減っていました(両群の変化量の中央値の差は約321キロカロリー)。たんぱく質、脂質、炭水化物の摂取量も同様に、より大きく減っていました。一方で、エネルギーのうち、たんぱく質・脂質・炭水化物がそれぞれ占める割合の変化には、はっきりした差は見られませんでした。つまり、食事のバランスが変わるというより、全体の量が減っていたことになります。食欲低下が強いほど、エネルギーや三大栄養素の減り方が大きい傾向も報告されています。
食品の種類別では、食欲低下ありの群で赤身肉・加工肉の摂取量がより大きく減っていました。鶏肉、魚介類、野菜、果物、菓子類、ご飯などの穀類では差は見られませんでした。調べた16種類のビタミン・ミネラルのうち13種類で、食欲低下ありの群の方が摂取量が大きく減っており、特に鉄、亜鉛、マグネシウム、ビタミンB₂で差が大きく出ていました。ただし、摂取エネルギー1000キロカロリーあたりの量に換算すると、どの栄養素でも統計的に意味のある差はなくなりました。著者らは、食事に含まれる栄養素の密度はおおむね保たれており、減少は主に食事量全体の減少によるものと解釈しています。
副作用との関係では、調べた症状のうち味覚の変化だけが食欲低下の程度と有意に関連していました。吐き気、疲労、便秘、口内炎、下痢、口の渇きには有意な関連は見られませんでした。
QOLとの関係では、食欲低下が強まった人ほど、全般的なQOLが低下する傾向が見られました。生活の機能の面では、仕事や家事などの役割、認知、社会生活、気持ちの面との関連が比較的強く、身体機能との関連は弱く、統計的に意味のあるものではありませんでした。一方、5%を超える体重減少の割合や、血液中のアルブミン値、栄養状態の指標とされる数値の変化には、両群で差は認められませんでした。
多施設の補足解析では、QOLが化学療法の各周期の中で、投与後1週目に下がり、2週目に回復するという変動を示していました。機械学習モデルでは、食欲低下がQOLの悪化と改善の両方に関わる、最も影響の大きい要因の一つとして一貫して挙がりました。
研究が示すこと
著者らは、婦人科がんの化学療法中に、軽い程度も含む食欲低下が、食事量全体の減少やQOLの低下と結びついていること、そして味覚の変化と食欲低下が密接に関連していることを報告しています。ただし、食欲は直近1週間、食事は直近1か月について尋ねており、時間の範囲が一致していないため、どちらが原因かは判断できず、示されたのはあくまで関連です。亜鉛の摂取減少と味覚変化との結びつきも、血液中の亜鉛を測っていないため仮説の段階にとどまるとしています。
こうした限界を踏まえつつも、研究チームは、食欲低下を化学療法中の臨床的に重要な症状であり、支持療法(治療に伴うつらさを和らげるケア)の対象になりうるものとして位置づけています。消化器への直接的な影響が少ないとされる婦人科がんでも、食欲の変化が食事やQOLと関わっていることを示した点に、この研究の意味があります。
著者:Ayami Koike(Department of Gynecology and Obstetrics, Graduate School of Medicine and Faculty of Medicine, Kyoto University, 54 Kawahara-cho, Shogoin, Sakyo-ku, Kyoto, 606-8507, Japan)、Rin Mizuno(Department of Gynecology and Obstetrics, Graduate School of Medicine and Faculty of Medicine, Kyoto University, 54 Kawahara-cho, Shogoin, Sakyo-ku, Kyoto, 606-8507, Japan. [email protected])、Nozomi Higashiyama(Department of Gynecology and Obstetrics, Graduate School of Medicine and Faculty of Medicine, Kyoto University, 54 Kawahara-cho, Shogoin, Sakyo-ku, Kyoto, 606-8507, Japan)、Yoshihide Inayama(Department of Gynecology and Obstetrics, Graduate School of Medicine and Faculty of Medicine, Kyoto University, 54 Kawahara-cho, Shogoin, Sakyo-ku, Kyoto, 606-8507, Japan)、Maki Umemiya(Department of Gynecology and Obstetrics, Graduate School of Medicine and Faculty of Medicine, Kyoto University, 54 Kawahara-cho, Shogoin, Sakyo-ku, Kyoto, 606-8507, Japan)、Kaori Ikeda(Department of Diabetes, Endocrinology and Nutrition, Kyoto University Graduate School of Medicine, Kyoto, Japan)、Nozomi Kubo(Department of Gynecology and Obstetrics, Graduate School of Medicine and Faculty of Medicine, Kyoto University, 54 Kawahara-cho, Shogoin, Sakyo-ku, Kyoto, 606-8507, Japan)、悠 徳重(Department of Obstetrics and Gynecology, Osaka Red Cross Hospital, Osaka, Japan)、Takayuki Nagasawa(Department of Obstetrics and Gynecology, Iwate Medical University School of Medicine, Iwate, Japan)、Noriomi Matsumura(Department of Obstetrics and Gynecology, Kindai University Faculty of Medicine, Sakai, Japan)、Taito Miyamoto(Department of Gynecology and Obstetrics, Graduate School of Medicine and Faculty of Medicine, Kyoto University, 54 Kawahara-cho, Shogoin, Sakyo-ku, Kyoto, 606-8507, Japan)、Mana Taki(Department of Gynecology and Obstetrics, Graduate School of Medicine and Faculty of Medicine, Kyoto University, 54 Kawahara-cho, Shogoin, Sakyo-ku, Kyoto, 606-8507, Japan)、Koji Yamanoi(Department of Gynecology and Obstetrics, Graduate School of Medicine and Faculty of Medicine, Kyoto University, 54 Kawahara-cho, Shogoin, Sakyo-ku, Kyoto, 606-8507, Japan)、Ryusuke Murakami(Department of Gynecology and Obstetrics, Graduate School of Medicine and Faculty of Medicine, Kyoto University, 54 Kawahara-cho, Shogoin, Sakyo-ku, Kyoto, 606-8507, Japan)、Ken D Yamaguchi(Department of Gynecology and Obstetrics, Graduate School of Medicine and Faculty of Medicine, Kyoto University, 54 Kawahara-cho, Shogoin, Sakyo-ku, Kyoto, 606-8507, Japan)、Masaki Mandai(Department of Gynecology and Obstetrics, Graduate School of Medicine and Faculty of Medicine, Kyoto University, 54 Kawahara-cho, Shogoin, Sakyo-ku, Kyoto, 606-8507, Japan)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Ayami Koike, Rin Mizuno, Nozomi Higashiyama, et al. Appetite loss during chemotherapy is associated with reduced dietary intake and quality of life in patients with gynecologic cancer: a prospective observational study. Supportive Care in Cancer 2026-10-01. DOI: 10.1007/s00520-026-11276-8. 原著ライセンス:CC BY.