著者の所属・活動拠点の国は、中国です。
掲載誌:Foods
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
小麦を製粉すると、粒の15〜20%ほどにあたる「ふすま(小麦ふすま)」が副産物として大量に出ます。ふすまは食物繊維やミネラル、ポリフェノールなどを含む一方、栄養の利用を妨げる「抗栄養因子」も多く含み、主に家畜の飼料として低い価値で使われてきました。研究チームは、ふすまを食品素材として活用する道を広げるため、加工によって成分や消化のされやすさを改善できるかを調べました。
著者らが加工法として選んだのは固体発酵です。これは、水分を少なめにした固体の材料の上で微生物を育てる発酵法です。発酵に使ったのは、中国で「Fuling」と呼ばれ、日本などでも茯苓(ぶくりょう)として食用・薬用に長く使われてきたキノコの仲間、Wolfiporia cocos(茯苓菌)です。著者らは、この菌が植物の細胞壁を分解する酵素を出し、ふすまに閉じ込められた成分を引き出したり、菌自身がトリテルペノイドと呼ばれる成分を作ったりすることで、ふすまの質が変わるという仮説を立てました。
何をどう調べたか
研究チームはまず、菌の接種量、材料と水の比率、温度、発酵日数を変えながら、発酵後のふすまの抗酸化能を指標にして条件を絞り込みました。抗酸化能の評価には、鉄を還元する力から抗酸化の強さを測る「FRAP値」などを用い、統計的な手法(応答曲面法)で最適な組み合わせを推定しました。その結果、接種量5.20%、固液比1:2.35、28℃で17日間という条件が選ばれ、このときのFRAP値は1グラムあたり115.20マイクロモルで、未発酵の原料の69.09マイクロモルより66.7%高い値でした。
次に、この条件で発酵させたふすまと、菌を植えない以外は同じ水分・殺菌・温度・日数で処理した未発酵のふすまを比べました。比較したのは、タンパク質や灰分、食物繊維などの基本成分、代表的な抗栄養因子であるフィチン酸、ポリフェノール類・フラボノイド・トリテルペノイドといった機能性が期待される成分です。さらに、口・胃・腸の3段階の消化を試験管内で再現する方法で、消化の過程で成分がどれだけ溶け出すかも調べました。
主な結果
論文によると、発酵後のふすまでは粗タンパク質が1グラムあたり195.22ミリグラムから226.54ミリグラムへと16.0%増え、水に溶ける食物繊維は43.20ミリグラムから87.53ミリグラムへと102.6%増えて、調べた成分の中で最も大きく変化しました。一方、セルロースの量には有意な変化がなく、著者らは菌が主にヘミセルロースなどを選んで分解した可能性を示しています。抗酸化能も、FRAP値に加えてDPPHという試薬を使った測定や還元力の測定のいずれでも高まりました。
抽出できる成分量は、総ポリフェノールが40.53%、フラボノイドが188.55%、トリテルペノイドが28.86%増加しました。フィチン酸は1グラムあたり8.72マイクロモルから7.15マイクロモルへと18.0%低くなりましたが、ばらつきが大きく統計的に有意な差ではなかったため、著者ら自身はこれを確定した効果ではなく傾向として扱っています。
試験管内の消化試験では、発酵ふすまのほうが腸の段階で栄養素や機能性成分をより多く放出し、タンパク質の消化率は55.5%から74.2%に高まりました。消化液の抗酸化能も高く、相関分析ではポリフェノールやフラボノイドの放出との関連が示されましたが、著者らはこの関係を探索的なもので、さらに確認が必要だとしています。
なお著者らは、発酵による材料の重さの減少(乾物の損失)を測っていないため、成分の増加の一部は、菌が材料の一部を消費したことで相対的に濃縮された影響を含む可能性があると述べています。また、粗タンパク質は窒素量から換算した推定値であり、菌に由来するタンパク質以外の窒素も含まれうる点にも注意を促しています。
研究が示すこと
この研究は、茯苓菌による固体発酵が小麦ふすまの成分構成を変え、水溶性食物繊維や抽出できる機能性成分を増やし、試験管内での消化のされやすさを高めることを報告したものです。著者らは、これらの結果が、飼料として扱われがちな低価値の副産物であるふすまを、機能性食品の素材として生かす取り組みを後押しするものだと位置づけています。
原著論文の著者・所属:Shiji Zhao(College of Science and Technology, Hebei Agricultural University, Cangzhou 061100, China)、Zixian He(College of Science and Technology, Hebei Agricultural University, Cangzhou 061100, China)、Xinyu Jiang(College of Food Science and Pharmaceutical Engineering, Zaozhuang University, Zaozhuang 277160, China)、Bowen Tan(College of Science and Technology, Hebei Agricultural University, Cangzhou 061100, China)、Huilin Li(College of Science and Technology, Hebei Agricultural University, Cangzhou 061100, China)、Wei Ma(College of Food Science and Pharmaceutical Engineering, Zaozhuang University, Zaozhuang 277160, China)、Wendi Fan(College of Science and Technology, Hebei Agricultural University, Cangzhou 061100, China)、Baojie Jiang(College of Science and Technology, Hebei Agricultural University, Cangzhou 061100, China)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Shiji Zhao, Zixian He, Xinyu Jiang, et al. Modification of Wheat Bran by Solid-State Fermentation with Wolfiporia cocos: Enhanced Bioactive Release, Reduced Anti-Nutritional Factors, and Improved In Vitro Digestion Properties. Foods 2026-10-23. DOI: 10.3390/foods15213796. 原著ライセンス:CC BY.