著者の所属・活動拠点の国は、メキシコです。
掲載誌:Beverages
ライセンス: CC BY 4.0 対象: 公開論文 確認元: Crossref
伝統的な発酵飲料にすむ細菌に注目
メキシコ南部や中米では、コヨルヤシ(学名アクロコミア・メキシカナ)の幹から採った樹液を自然に発酵させた飲み物が、伝統的なアルコール飲料として親しまれています。メキシコ南東部では「タベルナ」と呼ばれ、白く濁った見た目と発泡感、ほのかな甘みがあり、アルコール度数は一般に2〜6%程度と低めです。
この飲み物は無菌ではない環境で作られるため、周囲の環境や道具、ヤシの組織、甘い樹液に集まる昆虫などに由来する、さまざまな微生物が発酵に関わります。著者らによると、市販されているプロバイオティクス(適切な量をとったときに健康上の利益をもたらすとされる生きた微生物)の多くは乳製品由来で、こうした伝統的な発酵飲料にすむ微生物の調査はまだ十分ではありません。
そこで研究チームは、コヨルヤシの発酵樹液から細菌を分離して種類を特定し、プロバイオティクスとしての可能性に関わるいくつかの性質、すなわち胃や腸を模した条件での生き残りやすさ、腸内で問題となる細菌に対する抗菌作用、抗酸化作用を、試験管内の実験で調べることを目的としました。
分離した細菌と調べ方
研究チームは、メキシコ・オアハカ州の伝統的な生産者のもとで、発酵48時間と96時間の樹液を採取しました。乳酸菌を育てる培地で増えたコロニーの形や染色の性質から候補を選び、最終的に9株を得ました。内訳は48時間の試料から2株、96時間の試料から7株でした。
これらの株は、どの糖を利用して発酵できるかを調べる生化学的な検査と、細菌の種類を見分ける手がかりとなる遺伝子(16S rRNA遺伝子)の配列解析によって分類されました。その結果、ワイセラ・シバリアが3株、エンテロコッカス・フェシウムが1株、バチルス・ベレゼンシスとバチルス・ナカムライが各1株と判定されました。残る3株は遺伝子配列の一致度が種を確定するには不十分だったため、慎重に属のレベルまでの分類(ワイセラ属の1株、エンテロコッカス属の2株)にとどめています。
胃を想定した試験では、消化酵素ペプシンを加えたpH2の液に2時間、腸を想定した試験では、胆汁酸塩と膵臓由来の消化酵素を含むpH7の液に4時間、それぞれ細菌をさらしました。二つの試験は同じ培養液から別々に分けた試料で行われています。抗菌作用は、菌体を除いた培養液を中性付近に調整したうえで、大腸菌2株とサルモネラ菌2株に対して増殖を妨げる範囲(阻止円)ができるかで評価しました。抗酸化作用は、DPPHと呼ばれる試薬を用いて、培養液が不安定な分子(ラジカル)をどれだけ消去できるかを測定しました。
株によって大きく異なった性質
胃を模した条件では、株によって結果が大きく分かれました。生き残りの割合は生菌数の対数値の比で示されており、バチルス・ベレゼンシス、エンテロコッカス・フェシウム、ワイセラ・シバリアの1株(1AM1)が96〜98%と最も高い値を示しました。一方で、ワイセラ・シバリアの別の1株とエンテロコッカス属の1株は約68〜70%と有意に低く、ワイセラ・シバリアの1株、ワイセラ属の株、バチルス・ナカムライの3株は、処理後に生きた菌が検出されませんでした。胃の試験で検出された株について腸を模した条件で調べたところ、生き残りの割合はおおむね94〜99%で、株の間に統計的な差は見られませんでした。
抗菌作用が確認されたのは、エンテロコッカス・フェシウムP1M34とワイセラ・シバリア1AM1の2株だけでした。これらの培養液は、試験したすべての大腸菌とサルモネラ菌に対して直径およそ12〜16ミリメートルの阻止円をつくりました。ほかの7株では、この試験条件で阻止円は確認されませんでした。
抗酸化作用も株ごとに差がありました。比較対照として使った抗酸化物質トロロックスがほぼ100%の消去率を示すなか、細菌ではバチルス・ベレゼンシスが約79%と最も高く、ワイセラ・シバリアの株は約59〜74%、バチルス・ナカムライは約65%でした。エンテロコッカス属の株は、最も低いグループに分類されました。
今後の評価に向けた候補の絞り込み
この研究から、コヨルヤシの発酵樹液には複数の種類の細菌がすんでおり、胃腸を模した条件への耐性、抗菌作用、抗酸化作用が株ごとに大きく異なることが示されました。ただし、結果はいずれも試験管内での予備的な選別にとどまります。著者らは、抗菌や抗酸化の働きを担う具体的な物質はこの研究では特定していないと述べています。
また著者らは、エンテロコッカス属の細菌には病原性に関わる遺伝子や抗生物質への耐性を持つものがあるため、食品への利用を考える前に慎重な検討が必要だと指摘しています。今回の成果は、伝統的な発酵飲料から今後さらに詳しく調べる価値のある株を見つけ出した段階であり、食品や飲料への応用を考える前には、株ごとの安全性を包括的に確かめる必要があるとしています。
原著論文の著者・所属:José Agliberto Díaz-Rodríguez(Centro Interdisciplinario de Investigación para el Desarrollo Integral Regional-Unidad Oaxaca, Instituto Politécnico Nacional, Oaxaca de Juárez 71230, Oaxaca, Mexico)、Jorge Alejandro Santiago-Urbina(Dirección de División de Carrera de Agricultura Sustentable y Protegida, Universidad Tecnológica de los Valles Centrales de Oaxaca, San Pablo Huixtepec 71265, Oaxaca, Mexico)、Patricia Araceli Santiago-García(Centro Interdisciplinario de Investigación para el Desarrollo Integral Regional-Unidad Oaxaca, Instituto Politécnico Nacional, Oaxaca de Juárez 71230, Oaxaca, Mexico)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):José Agliberto Díaz-Rodríguez, Jorge Alejandro Santiago-Urbina, Patricia Araceli Santiago-García. <i>In Vitro</i> Assessment of Gastrointestinal Tolerance, Antibacterial Activity, and Antioxidant Activity of Bacterial Strains Isolated from Fermented Sap of <i>Acrocomia mexicana</i>. Beverages 2026-10-01. DOI: 10.3390/beverages12100123. 原著ライセンス:CC BY.