この研究は、コスタリカの研究機関の研究論文です。

掲載誌:UNED Research Journal

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的

魚は死後まもなく、においや食感、見た目が変わっていきます。こうした変化の速さは魚種によって違うため、流通や販売の現場では「氷で冷やしたまま何日くらい食べられる状態が保たれるのか」を魚ごとに把握することが重要になります。ところが、大規模な漁業の対象になっていない魚、つまり地元で消費されるだけの魚については、こうした情報がほとんど公表されていません。

著者らが取り上げたのは、コスタル・コンガー(Cynoponticus coniceps)というウナギ目の魚です。東太平洋のカリフォルニア湾からペルー北部にかけて分布し、砂泥底やマングローブ帯に生息します。コスタリカでは以前は他の漁の混獲として得られていましたが、現在ではニコヤ湾の小規模漁業が底延縄で狙う対象種になっています。それにもかかわらず、この魚の死後変化や保存特性についての研究はほとんどないと論文は述べています。著者らの知る限り、この魚の切り身について、官能(五感による評価)・物理・化学の各指標をまとめて調べた研究は発表されていませんでした。そこで本研究は、氷蔵中の切り身で鮮度に関わる変化を記述することを目的としました。

何をどう調べたか

著者らは、漁獲から約4時間後にプンタレナス市内の集荷場で入手した切り身(1枚あたり約190〜350g)を大学の研究室に運び、フレーク状の氷とともに発泡スチロール製の保冷箱に入れました。氷と切り身の比率は2対1を保ち、融けた水が抜けるよう排水口を設けています。著者らは、この扱い方はコスタリカの水産業で実際に行われている商業的な取り扱いに近いと説明しています。

測定は保存開始から0、2、4、7、9、11、14、16日目の計8回。各回ごとに別の切り身3枚を無作為に選び、一度使った切り身は再利用していません。評価に用いた指標は次の4つです。ひとつ目は品質指標法(QIM)と呼ばれる官能評価で、生の身の食感、血の色、におい、色、つや、割れの有無といった項目を、訓練を受けた3名以上のパネルがそれぞれ0〜3点で採点し、合計点(品質指数)を出します。点数が高いほど劣化が進んでいることを意味します。パネルには、その切り身が食用として受け入れられるかどうかも併せて判断してもらいました。

ふたつ目はK値です。魚の筋肉にあるATP(エネルギーの元になる物質)は死後、ADP、AMP、IMPを経てイノシン、ヒポキサンチンへと段階的に分解されます。K値は、分解の最終段階にあたるイノシンとヒポキサンチンが全体に占める割合を百分率で表したもので、値が大きいほど生化学的な分解が進んだことを示します。著者らは高速液体クロマトグラフィー(HPLC)でこれらの物質を定量しました。三つ目は物理的な指標として、トリメーターという機器で筋肉の誘電特性(電気の通りやすさに関わる性質)を測る方法です。表示は0〜16で、16が非常に新鮮、0が劣化した状態を示します。四つ目はpHです。加えて、保存開始時点(0日目)の切り身4枚について、水分・灰分・粗タンパク質・粗脂肪の一般成分も測定しました。なお統計処理は記述的な扱いにとどめ、各測定日の間で差があるかどうかの検定は行っていません。

報告された主な結果

保存開始時の成分は、タンパク質が19.3±0.58%と高く、脂質は2.5±0.18%で、著者らはこれを「半脂性魚」に特徴的な中程度の量としています。水分は78.85±0.69%、灰分は1.22±0.29%で、いずれも他の海産魚で報告されている範囲に収まる値でした。ただし論文は、魚の成分は餌や個体差、生理状態、季節などで変わるため、これらは分析した一群についての一時点の記述として解釈すべきだと注意を促しています。

官能評価では、当初の切り身は表面につやがあり、半透明で身が締まっていました。保存日数が進むにつれ、つやが失われて身が白濁し、弾力が徐々に落ち、繊維に沿った割れや裂け目が現れました。これに対応して品質指数の点数は日数とともに段階的に上昇しました。K値も保存期間を通じて上昇し、ATPとその初期の分解物が減る一方でイノシンとヒポキサンチンが増えるという、死後の生化学的変化と一致する推移を示しました。ただし著者らは、K値の最大値は氷蔵された他の海産魚で報告されている値と比べると比較的低く、これは魚種によるヌクレオチド分解速度の違いを反映している可能性があると述べ、K値はあくまで記述的な補助指標として用い、規制や衛生上の基準値を定める意図はないとしています。

トリメーターの読みは保存開始時に比較的高く、その後ゆるやかに下がっていきました。著者らはこれを、細胞の一体性が失われ組織構造が劣化することによる誘電特性の変化と関連づけています。なお、切り身は漁獲から約4時間後に入手したものなので、最初の測定値は漁獲直後の状態ではなく、初回測定の時点ですでに死後変化が始まっていた点が明記されています。pHは保存の初期に下がり、期間の後半にかけて安定する動きを示しました。著者らはこれを、まず自己消化(魚自身の酵素による分解)が進んで酸性に傾き、その後は塩基性の物質が蓄積して初期の酸性化を打ち消す段階に入ったためと解釈していますが、pHについては統計的な検定を行っていないため、確かめられた増加ではなく全体的な傾向として読むべきだとしています。

官能評価にもとづくと、保存9日目には食用として受け入れられないと分類される特徴が現れました。著者らはこの日を、本実験条件下での官能的な受容限界の運用上の目安としています。実務的な観点では、官能的な受容性が保たれていた最後の測定日が7日目であったことから、著者らは実質的な可食期間を約7日と見ています。

この研究が示すこと

官能評価、K値、誘電特性、pHという性質の異なる4つの指標が、いずれも同じ方向の劣化を描き出しました。著者らはこれを、他の海産魚について報告されている氷蔵中の変化と整合する挙動だとしています。地元で消費されてきて記録の乏しかった魚について、氷蔵という日常的な条件下で鮮度がどう推移するのかを一通り示したことが、この研究の成果です。漁獲後の取り扱いや保存を考えるうえでの、拠りどころとなる基礎データが得られたといえます。

著者:Cristian Fonseca-Rodríguez(Universidad Nacional, Estación de Biología Marina Juan Bertoglia Richards, Calle 4, Barrio Las Playitas, Puntarenas, Puntarenas, Costa Rica)、Luís Hernández-Noguera(Universidad Nacional, Estación de Biología Marina Juan Bertoglia Richards, Calle 4, Barrio Las Playitas, Puntarenas, Puntarenas, Costa Rica)、Steven Fallas-Fernández(Universidad Nacional, Estación de Biología Marina Juan Bertoglia Richards, Calle 4, Barrio Las Playitas, Puntarenas, Puntarenas, Costa Rica)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Cristian Fonseca-Rodríguez, Luís Hernández-Noguera, Steven Fallas-Fernández. Evaluación integrada de la frescura en filetes de congrio costero Cynoponticus coniceps (Anguilliformes: Muraenesocidae) durante el almacenamiento en hielo. UNED Research Journal 2026-09-23. DOI: 10.22458/urj.v18i1.6510. 原著ライセンス:CC BY.