この研究は、イタリアの研究機関の研究論文です。

掲載誌:Foods

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的

フィンガーライム(Citrus australasica)はオーストラリア原産のかんきつで、指のような形の果実の中に色鮮やかな「さのう」(果汁を含む粒)が詰まっています。粒がはじける食感から「シトラスキャビア」と呼ばれ、料理の飾りや風味づけに使われる高付加価値の作物として、近年ヨーロッパやアジアなど各地で関心が高まっています。近縁のフォーストライム(Citrus × faustrimedin)は、フィンガーライム、ライム、キンカンを祖先にもつ交雑種で、イタリアではフィンガーライムと並べて栽培されることが多い作物です。

論文の著者らは、こうした果実の市場価値が見た目・香り・味といった感覚的な品質に大きく左右される一方で、これまでの研究は成分だけ、あるいは香り成分だけといった単一の側面に偏っていたと指摘しています。品種によって果実の形、成分、香り、官能特性がどれだけ違うのかは、まだ十分に整理されていませんでした。そこで研究チームは、イタリア中部で栽培したフィンガーライムの2品種('Pink Ice'と'Rainforest Pearl')とフォーストライムについて、形の計測、成分分析、組織の顕微鏡観察、揮発性成分の測定、官能評価を組み合わせ、品種ごとの品質像(「統合的な品質フィンガープリント」)をまとめることを目的としました。

何をどう調べたか

研究チームは、イタリア中部ラツィオ州セッツェの農場で、2024年10月10日に3つの系統の果実を手で収穫しました。これは地中海の栽培条件下で商業的な収穫期が始まる時期にあたります。木の上部・中部・下部から系統ごとに18個の果実を採取し、用途別に振り分けて分析に用いています。

調べた項目は多岐にわたります。果実の重さ、断面の面積や直径などはスキャナー画像から計測し、果皮の色は色彩計でCIELAB表色系(明るさ、緑〜赤、青〜黄の3軸)として数値化しました。糖度は屈折計で、糖の種類ごとの量は高速液体クロマトグラフィーで測定し、酸味の強さは滴定による酸度として求めています。ポリフェノール(抗酸化性で知られる植物成分)の総量は比色法で、果皮部と果肉部に分けて測定しました。

さらに、果実の断面を薄く切り出して共焦点顕微鏡で観察し、香りのもとになるテルペノイド類を染色によって、色素などに関わるフラボノイド類を自ら発する蛍光によって可視化し、その分布面積を測っています。香り成分そのものは、試料を前処理せずに素早く測れるPTR-ToF-MSという質量分析装置で、容器内の空気中に放出された揮発性成分として捉えました。加えて、かんきつの官能評価の経験がある10名の訓練されたパネルが、見た目、口の中でのはじける感じ、甘味、酸味、シトラス香、シトロネラ香など13項目を9点尺度で採点しました。

報告された主な結果

果実の大きさは3系統で明確に異なり、フォーストライム>Pink Ice>Rainforest Pearlの順でした。フォーストライムの断面積は平均17.42 cm²で、Pink Ice(9.65 cm²)のほぼ2倍、Rainforest Pearl(6.42 cm²)の約3倍にあたります。生の重さも同じ傾向で、フォーストライムは約30.95 gでした。一方、さのう自体の大きさの違いは小さく、著者らはさのうの形態は果実全体の大きさより保存されやすい性質かもしれないと述べています。果皮の色では、フォーストライムが最も明るく黄色みが強く、Pink Iceは赤みを示すa*値が最も高い(16.26)ことで特徴づけられました。

成分面では、糖度はRainforest Pearlが19.2 °Brix、Pink Iceが17.8 °Brixと高く、フォーストライムは10.1 °Brixでした。果糖とブドウ糖の濃度はRainforest Pearlで最も高く、フォーストライムは3種の糖すべてで最も低い値でした。酸度は別の傾向を示し、Pink Ice(クエン酸換算11.56%)が最も高くなっています。ポリフェノールは、果皮ではどの系統も高く統計的な差は認められませんでしたが、食べる部分である果肉ではPink Iceが最も高い値(919.09 mg GAE/kg FW)を示し、フォーストライム(503.06 mg GAE/kg FW)より有意に高かったと報告されています。

顕微鏡観察では、テルペノイドの蓄積面積はRainforest Pearlが最大で、フラボノイドの蓄積面積はPink Iceが最大という、互いに逆の関係が見られました。著者らは、この2種類の成分がこの系統群では独立して変動し、テルペノイドは香りに、フラボノイドは色や組織の抗酸化性に寄与すると説明しています。揮発性成分の測定では、36のピークが暫定的に同定され、総放出量はRainforest Pearlが2048.08 ppbvと最も多く、Pink Ice(1118.76 ppbv)の約2倍、フォーストライム(480.34 ppbv)の4倍以上でした。テルペン類の総量も同じ順序でした。

興味深いのは、官能評価の順序が必ずしもこれと一致しなかった点です。テルペン放出量が最も少なかったフォーストライムが、シトロネラ香(8.2点)と切った果実全体の香りの強さ(9.0点)でいずれも最高の評価を得ました。著者らは、香りの印象は放出される総量だけでなく、含まれる成分の構成比によって決まるためだと解釈しています。口の中ではじける食感はRainforest Pearl(8.0点)が最高で、これはさのうの大きさの順序とは逆であり、大きさよりも粒の張りが関係していると考察されています。見た目はPink Ice(6.8点)が最も高く評価されました。味については3系統いずれも酸味が強く甘味は低いという分析値どおりの結果でした。多変量解析(PERMANOVA)では、形態と理化学特性をまとめて見たときに系統の違いが有意な効果を示し、2つのフィンガーライム品種が近く、フォーストライムが別のまとまりを形成しました。

この研究が示すこと

著者らは、この研究が地中海地域で栽培されたフィンガーライム2品種とフォーストライムについて、複数の分析手法を組み合わせた初めての統合的な品質記述であるとしています。3つの系統は互いに競合するものではなく、Pink Iceは濃い色と果肉のポリフェノールの豊富さ、Rainforest Pearlは糖と酸のバランスと強い香り成分の放出、フォーストライムは大きな果実と独特のシトロネラ香という、それぞれ異なる持ち味をもつ補完的な存在として位置づけられました。

方法の面でも一つの示唆があります。装置による測定は果皮に蓄えられた成分やその放出量を正確に捉えますが、人が実際に感じる香りの個性は成分の組み合わせから生まれます。著者らは、どちらか一方では他方を代替できず、品種を選ぶうえで両方が必要だと述べています。なお本研究は単一の産地・単一の生育期・単一の収穫段階で行われたものであり、著者ら自身がその点を研究の範囲として明記しています。

著者:Giulia Mozzo(Department of Agriculture, Food, Environment and Forestry (DAGRI), University of Florence, Viale Delle Idee 30, Sesto F.No, 50019 Florence, Italy)、Cosimo Taiti(Department of Agriculture, Food, Environment and Forestry (DAGRI), University of Florence, Viale Delle Idee 30, Sesto F.No, 50019 Florence, Italy)、Maria Alfonsi(Department of Agriculture, Food, Environment and Forestry (DAGRI), University of Florence, Viale Delle Idee 30, Sesto F.No, 50019 Florence, Italy)、Giovanni Spinelli(Department of Agriculture, Food, Environment and Forestry (DAGRI), University of Florence, Viale Delle Idee 30, Sesto F.No, 50019 Florence, Italy)、Diego Comparini(Department of Agriculture, Food, Environment and Forestry (DAGRI), University of Florence, Viale Delle Idee 30, Sesto F.No, 50019 Florence, Italy)、Bruno Bighignoli(Group of Agroecology, Centre of Plant Sciences, Sant’Anna School of Advanced Studies, 56127 Pisa, Italy)、Marta Beccaluva(Department of Biology, Università di Firenze, via Micheli 3, 50121 Firenze, Italy)、Stefano Mancuso(Department of Agriculture, Food, Environment and Forestry (DAGRI), University of Florence, Viale Delle Idee 30, Sesto F.No, 50019 Florence, Italy)、Elisa Masi(Department of Agriculture, Food, Environment and Forestry (DAGRI), University of Florence, Viale Delle Idee 30, Sesto F.No, 50019 Florence, Italy)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Giulia Mozzo, Cosimo Taiti, Maria Alfonsi, et al. Integrated Phenolic, Volatilomic and Sensory Profiling of Two Finger Lime Cultivars and Faustrime Grown in a Mediterranean Region. Foods 2026-09-16. DOI: 10.3390/foods15183266. 原著ライセンス:CC BY.