掲載誌:Postharvest Biology and Technology
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
何を明らかにしようとしたのか
収穫した野菜や果物を人の手ではなくロボットのハンド(グリッパー)でつかんで運ぶ技術は、収穫後の損失を減らす手段として期待されています。しかし機械が果実に加える力は、見た目では分からない内部の傷みを引き起こす可能性があり、その影響を確かめる必要があると研究チームは指摘しています。
そこでこの研究では、ロボットグリッパーの設計と動作条件が、トマト(Solanum lycopersicum)とイチゴ(Fragaria × ananassa)の品質にどのような影響を与えるかを評価しました。比較したのは、柔らかいシリコーン製と硬いゴム製という素材の違い、指が2本か3本かという構造の違い、そして吸着に用いる圧力(1.8〜3.0バール)の違いです。
どのように調べたか
研究チームは3つの実験を通して、果実に条件をそろえた把持(つかむ)処理を加えました。その後、果実全体のレベルでの測定として、呼吸量、重量の減少、色、硬さを調べています。
さらに、グリッパーが実際に触れた接触部分に絞った分析も行いました。具体的には、その部分の硬さ、電解質漏出(細胞の膜が傷むと細胞内の成分が外へ漏れ出す現象で、目に見えない損傷の指標になります)、ポリフェノールオキシダーゼ(PPO)という褐変に関わる酵素の活性、そしてストレスに反応して早い段階で働く遺伝子の発現です。果実の外側の状態は顕微鏡でも観察されました。
トマトについては、赤熟した果実を色のa*値(赤みの強さを表す数値)にもとづいて2つの段階に分け、a*値が高いほど赤熟がより進んだ段階として扱っています。
報告された主な結果
トマトでは、赤熟がより進んだ段階の果実を硬い素材の2本指グリッパーで扱った場合に、呼吸量の増加と軟化が見られました。ただし、細胞壁の分解は検出されなかったと報告されています。
イチゴでは、硬いグリッパーと、柔らかい素材の3本指グリッパーを使ったときに、損傷の発生率と程度がより高くなりました。柔らかい2本指グリッパーと比べると、柔らかい3本指グリッパーは両方の圧力条件で接触部分の軟化が大きく、3.0バールでは重量の減少も大きくなっています。
注目すべき点として、目に見える傷がない場合でも、顕微鏡観察や生化学的・分子的な分析によって、果実表面のクチクラ(表皮を覆う膜)の破損、電解質漏出の増加、ストレス関連の経路が早い段階で活性化していることが確認されました。また、接触部分でPPO活性が局所的に高まると、貯蔵中の色の変化も大きくなったと報告されています。
この研究が示すこと
研究チームは、傷みの程度を決めるのは品種がもつ性質、グリッパーの構成、そして動作圧力であるとまとめています。柔らかい素材であれば安全、指が多ければ優しい、といった単純な関係ではなく、条件の組み合わせによって結果が変わることが示されました。
そして、外見の検査だけでは潜在的な損傷を見逃すおそれがあるため、果実全体から接触部分の生化学・分子レベルまでを見る多角的な評価が欠かせないと述べています。ロボットによる取り扱いを品質の損失が少ないものへと調整していくうえで、こうした見えない変化を捉える視点が重要になるという示唆です。
著者:Silvia E. Langer、Rafail M. Tomzas、Dimitra Pantazopoulou、Davide Belletti、Aneesh Chauhan、Julian C. Verdonk、Leo F. M. Marcelis
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Silvia E. Langer, Rafail M. Tomzas, Dimitra Pantazopoulou, et al. Multi-scale postharvest quality assessment of tomato and strawberry handled with robotic grippers. Postharvest Biology and Technology 2026-09-17. DOI: 10.1016/j.postharvbio.2026.114722. 原著ライセンス:CC BY.