著者の所属・活動拠点の国は、エジプトです。
掲載誌:BMC Plant Biology
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
キュウリは世界で広く栽培される野菜ですが、根に寄生する「ネコブセンチュウ」に弱いことが知られています。ネコブセンチュウは土の中にいる微小な線虫で、根に入り込んで「こぶ(ゴール)」を作り、作物の生育や収量を落とします。論文によると、温室では最大88%の減収が報告されています。殺線虫剤による防除には毒性、費用、環境への負担といった問題があります。一方、病害虫に強い品種を使う方法は経済的で環境負荷も小さいとされますが、サツマイモネコブセンチュウ(Meloidogyne incognita)に強い実用的なキュウリ品種はこれまでありませんでした。
そこで研究チームは、栽培キュウリ(Cucumis sativus)、その野生変種であるハードウィッキー(C. sativus var. hardwickii)、そして抵抗性の供給源として期待される近縁種のキワノ(ツノニガウリ、C. metuliferus)の3系統を材料に、センチュウに強く、園芸的な性質も優れた自殖系統を育成することを目指しました。自殖系統とは、自家受粉を繰り返して性質をそろえた系統のことです。あわせて、抵抗性がどのような仕組みと結びついているのかも調べました。
何を調べたか
研究チームは2023年から2025年にかけて、小区画の圃場と温室で育種を進めました。センチュウを人為的に接種しながら、第2世代から第6世代までの5世代にわたって自家受粉を繰り返しました。各世代では、総収量が多く、こぶの数が少ない株を厳しく選び抜きました。
選抜を終えた系統と、センチュウに弱い市販品種(対照)を比べ、多くの項目を評価しました。生育・開花・果実・収量といった園芸形質のほか、こぶや卵塊、卵の数などのセンチュウの寄生状況を調べました。さらに、防御に関わる酵素(ペルオキシダーゼ〈POD〉、ポリフェノールオキシダーゼ、スーパーオキシドジスムターゼ)の活性、植物ホルモンのサリチル酸の量、根の組織の顕微鏡観察、防御関連遺伝子(LOX1、PR1-1A、PR3)の働きの強さも測定しました。
主な結果
5世代の選抜の結果、栽培キュウリから3系統、ハードウィッキーから3系統、キワノから5系統、合わせて11の自殖系統が得られました。系統内のばらつきを示す変動係数は世代を追うごとに小さくなり、第6世代ではおおむね11〜15%程度まで下がりました。研究チームは、性質のそろった系統になったと判断しています。また、自殖を重ねても株の勢いや収量の構成要素は低下しなかったと報告しています。
選抜した系統は、いずれも対照品種よりセンチュウに強い結果を示しました。対照品種では1株の根あたり2作期で555個と545個のこぶができたのに対し、キワノ由来の系統Cm-L4では75.29個と72.40個にとどまりました。対照品種と比べた減少率は、キワノ由来の系統で、こぶが81.08%、卵塊が94.21%、卵の数が96.5%でした。ハードウィッキー由来の系統ではそれぞれ76.09%、87.15%、80.24%、栽培キュウリ由来の系統では53.46%、81.43%、73.88%でした。接種したセンチュウは3000匹でしたが、収穫期の個体数は弱い対照品種でだけ接種時を上回りました(4457匹)。抵抗性の系統ではすべて接種時より少なくなりました。
根の組織を観察すると、センチュウが栄養をとるために植物に作らせる特殊な細胞「巨大細胞」が、抵抗性系統ではうまく発達していませんでした。巨大細胞の近くでは細胞が局所的に死ぬ「壊死」が見られ、壊死した摂食部位の割合は抵抗性系統で68.5%、対照品種で8.7%でした。根の中のセンチュウも多くが若い第2期幼虫のまま成長が止まっていました。著者らは、この反応が病原体を封じ込めるために細胞が自ら死ぬ「過敏感反応」に似ていると述べています。ただし、それを確かめる機能的な検査は行っていないため、「過敏感反応様」の反応と位置づけています。
防御関連酵素の活性も抵抗性系統で高く、特にキワノ由来の系統で一貫して最も高い値でした。サリチル酸は接種3日後に、キワノ由来のCm-L4で対照品種の9.68倍、ハードウィッキー由来のCh-L3で5.79倍に増えました。一方、栽培キュウリ由来のCs-L1では1.2倍以下にとどまりました。遺伝子の働きを総合的に検討した結果、著者らは、サリチル酸よりも、別の防御ホルモンであるジャスモン酸の経路に関わるLOX1遺伝子の活性化のほうが、抵抗性とより一貫して結びついていたと結論しています。
研究の意味
この研究は、キュウリ属の植物がネコブセンチュウに抵抗する性質を、育種、組織、酵素、遺伝子の働きという複数の面から結びつけて示しました。著者らは、育成した系統、特にCm-L4とCh-L3が、抵抗性を栽培品種へ取り込む育種や、接ぎ木の台木として役立つ可能性があると述べています。また、接種30日後のPOD活性やLOX1の働きの高まりは、抵抗性の系統を早期に選び出す目印の候補になるとしています。ただし、これらの仕組みに関する推論は相関に基づくもので、因果関係や効果の持続性を確かめるにはさらなる検証が必要だと、著者ら自身が強調しています。
原著論文の著者・所属:Eman El-Remaly(Cross-Pollinated Vegetables Research Department, Horticultural Research Institute, Agricultural Research Center, Giza, Egypt. [email protected])、Ahmed ASA El-Eslamboly(Vegetable Crops Production Under Protected Cultivation Research Department, Horticultural Research Institute, Agricultural Research Center, Giza, Egypt)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Eman El-Remaly, Ahmed ASA El-Eslamboly. Multi-trait assessment of Meloidogyne incognita resistance in developed Cucumis spp. inbred lines: horticultural, physiological, biochemical, and histological insights. BMC Plant Biology 2026-08-05. DOI: 10.1186/s12870-026-09586-4. 原著ライセンス:CC BY.