この研究は、中国の研究機関の研究論文です。

掲載誌:Foods

ライセンス: CC BY 4.0 対象: 公開論文 確認元: Crossref

何を明らかにしようとした研究か

ムラサキイガイの仲間であるムール貝(ヒバリガイモドキ、学名 Mytilus coruscus)は、中国沿岸で広く養殖される重要な水産物です。新鮮なうちは独特の風味と食感が好まれますが、水分が多く組織が繊細なため傷みやすく、長期保存には冷凍が使われます。ただし冷凍中にも、水分の移動、たんぱく質の分解、脂質の酸化、氷の結晶による組織の損傷などが進み、保水力の低下や食感・風味の変化につながることが知られています。

ムール貝は雌雄が分かれており、繁殖期には生殖巣の色で見分けられます。これまでの報告では、雌雄で脂質の蓄え方やたんぱく質の組成、エネルギー代謝などに違いがあるとされてきました。そこで研究チームは、冷凍保存中の品質低下と風味に関わる成分の変化が、保存期間だけでなく貝の性別によってもどう異なるのかを調べることを目的としました。従来の研究では、味に関わる成分、脂肪酸の組成、においの成分がそれぞれ別々に調べられることが多く、これらを合わせて捉えた比較は限られていた点に、著者らは着目しています。

どのように調べたか

研究チームは、山東省日照で2026年3月に採取した養殖ムール貝を用い、生殖巣の色から雌雄を判別しました。橙黄色のものを雌、乳白色のものを雄としています。これらを−18℃で保存し、保存0日(新鮮な状態)、90日、150日の3時点で分析しました。0日を新鮮な対照、90日を中間段階、150日を長期保存の段階と位置づけています。

調べた項目は大きく二つに分かれます。一つは品質の指標で、遠心分離したときに失われる水分の割合(遠心損失。保水力の目安になります)、揮発性塩基窒素(TVB-N。たんぱく質などの分解で生じる窒素化合物の蓄積量で、鮮度の指標として使われます)、マロンジアルデヒド(MDA。脂質が酸化したときにできる物質で、酸化の進み具合を示します)、色の変化、硬さや噛みごたえといった食感です。

もう一つは風味に関わる化学成分です。味に関わる遊離アミノ酸と5′-ヌクレオチド、うま味の強さを一つの数値で表す「等価うま味濃度」、脂肪酸の組成を測定しました。においの成分については、ガスクロマトグラフィー・イオンモビリティ分光法(GC-IMS)という手法を用いました。これは揮発性の成分を素早く高感度に測り、指紋のように見比べられる分析法です。得られたデータには多変量統計解析や相関分析を組み合わせています。

報告された主な結果

まず品質の指標では、保存150日後の遠心損失が新鮮時のおよそ1.2倍(雌)、1.5倍(雄)となり、雄のほうが保水力の低下が大きいと報告されました。一方TVB-Nは、新鮮時に対して雌がおよそ2.7倍、雄がおよそ2.4倍に増えましたが、中国の食品安全国家標準が冷凍貝類に定める上限値(100gあたり15mg)は下回っていたとしています。脂質酸化の指標であるMDAは、雌雄とも新鮮時のおよそ3.3倍に増加し、どの時点でも雌の値は雄のおよそ1.7倍でした。著者らは、増加の倍率が雌雄で近いことから酸化の進み方自体は同程度であり、雌で絶対量が高いのは酸化されうる脂質の量の違いを主に反映している可能性があると述べています。食感については、硬さと噛みごたえが雌雄とも冷凍後に大きく低下し、その変化の多くは最初の90日間に起きていました。

味に関わる成分では、うま味・甘味・苦味の各アミノ酸と遊離アミノ酸の総量が雌雄とも保存にともなって増え、後半ではその増え方が緩やかになりました。全体としては雄のほうが遊離アミノ酸の量が高く、一方で等価うま味濃度は、いくつかの時点で雌のほうが高い値を示したと報告されています。アミノ酸に似た性質を持つタウリンは他のアミノ酸群とは異なる動きを示し、どの時点でも雌のほうが高い値でした。5′-ヌクレオチドについては、ATPとADPが保存中に大きく減少し、その分解の大部分も最初の90日間に起きていました。

においの成分では、GC-IMSによって雌雄で異なるプロファイルが確認されました。保存90日後の雌ではアルデヒド類が多く、雄ではケトン類やエステル類に関わる特徴がより目立ったと報告されています。著者らは雌雄や保存期間を区別する鍵となる揮発性成分を14種類選び出しました。さらに相関分析により、揮発性成分の変化がヌクレオチドの分解、アミノ酸の変化、脂肪酸の組成、脂質酸化と結びついていることが示されました。とくに1-ペンテン-3-オンという成分は、MDAとは正の相関を、EPA・DHA・アラキドン酸とは負の相関を示したとされています。なお、これらは統計的な関連であり、因果関係を示したものではありません。

この研究が示すこと

この研究は、ムール貝の冷凍保存中に起きる品質の低下と風味成分の変化が、保存期間だけで決まるのではなく、同じ種の中でも雌と雄で異なる形で進むことを、複数の指標を組み合わせて示したものです。保水力の低下は雄でより大きく、脂質酸化の絶対量は雌で高く、においの成分の傾向も雌雄で分かれる、という具合に、一つの指標だけを見ていては捉えきれない違いが浮かび上がりました。また、多くの変化が保存の最初の90日間に集中していた点も共通する特徴です。

著者らは、これらの結果が冷凍保存中の風味に関わる化学的変化について性別に応じた新たな知見をもたらし、水産業におけるムール貝の品質評価や冷凍保存の方法を改善するための科学的な基礎になると位置づけています。なお、雌雄差の背後にある仕組みそのものについては、さらなる検討が必要だと論文中でも繰り返し述べられています。

著者:Ruoshu Li(College of Food Science & Engineering, Ocean University of China, Qingdao 266404, China)、Xiaojian Xiu(Qingdao Institute of Marine Bioresources for Nutrition & Health Innovation, Qingdao 266109, China)、Jiangbo Xiang(China Resources Wind Power (Shanwei) Co., Ltd., Shanwei 516600, China)、Kai Xu(Qingdao Institute of Marine Bioresources for Nutrition & Health Innovation, Qingdao 266109, China)、Jixin Luo(Quanzhou Institute of Marine Bioresources Industry, Quanzhou 362700, China)、Yaqing Wang(Qingdao Institute of Marine Bioresources for Nutrition & Health Innovation, Qingdao 266109, China)、Xiaoming Jiang(College of Food Science & Engineering, Ocean University of China, Qingdao 266404, China)、Ye Liu(Qingdao Institute of Marine Bioresources for Nutrition & Health Innovation, Qingdao 266109, China)、Tingyu Feng(Qingdao Institute of Marine Bioresources for Nutrition & Health Innovation, Qingdao 266109, China)、Changhu Xue(College of Food Science & Engineering, Ocean University of China, Qingdao 266404, China)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Ruoshu Li, Xiaojian Xiu, Jiangbo Xiang, et al. Sex-Dependent Changes in Quality and Flavor-Related Chemical Profiles of <i>Mytilus coruscus</i> During Long-Term Frozen Storage. Foods 2026-09-01. DOI: 10.3390/foods15183351. 原著ライセンス:CC BY.