著者の所属・活動拠点の国は、スペインです。
掲載誌:Frontiers in Microbiomes
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
抗菌薬が効きにくくなる「薬剤耐性(AMR)」は、病院の中だけでなく、川や海などの環境でも広がり得ます。そのため、人・動物・環境の健康を一体として捉える「ワンヘルス」の考え方で、沿岸環境の監視が重視されています。しかし、海の生き物の体内や表面にすむ細菌の集まり(宿主関連マイクロバイオーム)が、環境中の薬剤耐性にどう関わるのかは、まだよく分かっていません。
著者らは、海の生物にすむ細菌群集は周囲の海水の細菌を単に一部取り込んだものではなく、宿主の生理や免疫などによって選び分けられた独自の集団だと考えました。そこで研究チームは、海水、養殖されている地中海ムール貝(Mytilus galloprovincialis)、外来種のホヤ(Styela plicata)の三者を比べ、細菌の顔ぶれ、薬剤耐性遺伝子、遺伝子を細菌間で運ぶ「可動性遺伝因子」、さらに病原菌を含みうる細菌グループの違いを調べました。
何をどのように調べたか
主な調査地は、地中海でも有数のムール貝養殖地であるスペインのエブロ・デルタです。ここは農業排水や都市・工業からの影響を受け、季節によって淡水の流入量が変わります。研究チームは2022年7月から2023年7月にかけて海水、ムール貝、ホヤを採取しました。比較のため、淡水が直接流れ込まないブラネス港でも、2023年7月に三種類の試料を集めました。
細菌の種類の構成は、細菌が共通して持つ16S rRNA遺伝子の配列を読み取って調べました。薬剤耐性遺伝子と可動性遺伝因子は、多数の遺伝子を一度に測定できる高スループットqPCRという方法で、あらかじめ選んだ遺伝子群について量を測りました。また、文献をもとに、病原性をもつ可能性がある細菌として59属にわたる230の細菌の分類単位を選び出し、その分布も比較しました。
主な結果
細菌群集の構成も薬剤耐性遺伝子の組み合わせも、試料の種類ごとにはっきりと分かれました。薬剤耐性遺伝子の構成では、試料の種類による違いが全体のばらつきの約46%(R²=0.457)を説明し、採取時期よりも大きな要因でした。時期による変化は海水で特に大きく、海水の細菌群集では時期がばらつきの大部分(R²=0.927)を説明した一方、ホヤ(R²=0.638)やムール貝(R²=0.435)では影響が小さく、生物にすむ細菌群集は比較的安定していました。
検出された薬剤耐性関連遺伝子の種類数は、海水がムール貝やホヤより一貫して多い結果でした。ところが、細菌全体の遺伝子量(16S rRNA遺伝子量)に対する割合で見ると逆で、ムール貝とホヤでは、いくつかの遺伝子グループで海水より10倍から100倍高い値を示しました。生物側では、β-ラクタム系抗菌薬への耐性、複数の薬剤への耐性、可動性遺伝因子の目印となる遺伝子が多く、ホヤではバンコマイシンやテトラサイクリンへの耐性遺伝子も目立ちました。ただし著者らは、これは細菌群集の中での相対的な濃縮を示すもので、組織1グラムあたりの遺伝子の絶対量が海水より多いことを意味するわけではないと注意を促しています。
病原菌を含みうる細菌グループの構成も、試料の種類ごとに異なっていました。ムール貝では、その種類数がホヤより多く、Stenotrophomonas、Delftia、Chryseobacterium、Bacteroidesなど、人に病気を起こす種を含む属の割合が高くなっていました。VibrioとEndozoicomonasは三種類すべての試料で広く見つかりました。また、人に関わる病原菌候補の属は、薬剤耐性遺伝子の量と正の相関を示しました。ただし著者らは、属のレベルの分析は病原性の「可能性」を示すにとどまり、実際に病気を起こす菌がいることや、どの細菌がどの耐性遺伝子を持っているかまでは特定できないと述べています。
研究が示すこと
この研究は、沿岸の海水と、そこにすむ貝やホヤの細菌群集が、薬剤耐性の観点から異なる性質を持つことを示しました。海水は環境の変化を素早く映し出す一方、生物にすむ細菌群集は時間がたっても特徴が保たれ、特定の耐性遺伝子が相対的に濃縮された「たまり場」となりうることが報告されています。著者らは、海水だけでなく海の無脊椎動物も補完的な監視対象として加えることが、ワンヘルスの視点に立った沿岸の薬剤耐性モニタリングに役立つと結論づけています。
原著論文の著者・所属:Giulia Gionchetta(Institute of Environmental Assessment and Water Research (IDAEA - CSIC))、Elisabet Alacid(Center for Advanced Studies of Blanes (CEAB-CSIC), Blanes, Spain)、Jesús Zarcero(Center for Advanced Studies of Blanes (CEAB-CSIC), Blanes, Spain)、Margarita Fernandez-Tejedor(Institute of Agrifood Research and Technology (IRTA la Ràpita))、Jessica Subirats(Institute of Environmental Assessment and Water Research (IDAEA - CSIC))、Marta Turon(National Museum of Natural Sciences (MNCN - CSIC), Madrid, Spain)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Giulia Gionchetta, Elisabet Alacid, Jesús Zarcero, et al. Host-associated microbiomes act as reservoirs of antimicrobial resistance in Mediterranean coastal waters. Frontiers in Microbiomes 2026-11-03. DOI: 10.3389/frmbi.2026.1974573. 原著ライセンス:CC BY.