著者の所属・活動拠点の国は、トルコです。
掲載誌:Frontiers in Food Science and Technology
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的:粉にすると傷みやすいメロン種子
メロンの種子は、たんぱく質や脂質に加え、食物繊維、ミネラル、フェノール化合物などを含みます。それでも食品素材としてはあまり活用されていない資源です。粉末にすれば食品に混ぜ込みやすくなりますが、粉砕によって種子の細胞構造が壊れます。すると、種子にもともと含まれる酵素、脂質、酸素が互いに触れやすくなり、脂質の劣化(いわゆる油の「酸敗」)が進みやすくなります。
著者らが特に注目したのは二つの酵素です。リパーゼは油脂を分解して遊離脂肪酸を生じさせ、加水分解による劣化を引き起こします。リポキシゲナーゼ(LOX)は不飽和脂肪酸の酸化を促し、好ましくない風味やにおいの原因となる物質の生成につながります。研究チームは、マイクロ波処理でこれらの酵素の働きを抑えると、メロン種子粉末の保存中の劣化を遅らせられるかを調べました。あわせて、品質をどこまで保てるかも評価しました。
論文は、処理直後に酵素活性が下がっただけでは安定化に成功したとはいえず、その後の保存中に脂質の劣化がどう進むかまで見る必要があると指摘しています。この研究の特徴は、酵素の失活と60日間の保存中の劣化を結びつけて評価した点にあります。
何を調べたか
研究チームは、地元の市場で購入したメロンから種子を取り出しました。種子を洗浄・乾燥してから粉砕し、ふるいにかけて粉末を作りました。この粉末50gを厚さ約3mmに広げ、周波数2450MHzの電子レンジでマイクロ波を当てました。出力は100W・200W・300Wの3段階、照射時間は30秒・60秒・90秒の3段階です。これを組み合わせた9通りの処理に、未処理の対照を加えた計10群を比較しました。
処理直後には、リパーゼとLOXの活性、水分・たんぱく質・脂質などの成分、色、総フェノール量、DPPHラジカル消去活性(抗酸化性の指標の一つ)、吸水性と吸油性を測りました。保存試験では、粉末を密閉容器に入れ、暗所・25℃前後で60日間保管しました。15日ごとに三つの指標で劣化の進み方を追っています。遊離脂肪酸量は加水分解による劣化を示します。過酸化物価は酸化の初期段階でできる物質の量を表し、TBARSは酸化がさらに進んでできる物質の量を表します。
なお、論文によると、マイクロ波処理中の試料温度は測定しておらず、処理中の温度変化や最高温度はわかっていません。
主な結果:300Wで60秒が最も良好
マイクロ波処理は全体として、未処理の粉末に比べて二つの酵素の活性を有意に低下させたと報告されています。最も効果が大きかったのは300Wで60秒の条件(試料1gあたりの名目エネルギー投入量は360J)です。この条件でリパーゼ活性は78.2%、LOX活性は69.0%低下しました。
60日間保存した後も、この条件の粉末は未処理の粉末より劣化が抑えられていました。遊離脂肪酸量は未処理の5.65%に対して2.45%でした。過酸化物価は試料1kgあたり12.80meqに対して5.97meq、TBARSは試料1gあたり2.18µMに対して1.02µM(マロンジアルデヒド換算)でした。また、この条件では総フェノール量と抗酸化活性が高まり、吸水性と吸油性も向上しました。
一方で、同じ300Wのまま照射を90秒に延ばしても、酵素の失活や保存中の劣化抑制はそれ以上改善しませんでした。むしろ酵素の残存活性は60秒の場合より高くなりました。著者らはこれを、処理を強めるほど効果が増すわけではない「非直線的」な反応だと述べています。さらに、処理を強めるほど粉末の水分は減り、色は暗く、赤みと黄みを帯びる方向に変化しました。たんぱく質や脂質の割合のわずかな変化について論文は、実際の量が増減したというより、水分が減った影響などを反映している可能性があると説明しています。
研究が示すこと
著者らは、今回の実験条件の範囲では、300Wで60秒のマイクロ波処理が最もバランスのよい条件だったと結論づけています。この条件で、酵素の失活、保存中の脂質劣化の遅れ、評価した品質特性の維持が両立していました。脂質の多い種子粉末を安定させるには、処理を強くすればよいわけではありません。酵素を十分に抑えつつ過剰な処理を避ける「ちょうどよい強さ」を見極めることが大切だ、という点がこの研究から伝わります。
原著論文の著者・所属:Gulcin Yildiz(Department of Gastronomy and Culinary Arts, Igdir University, Iğdır, Türkiye)、Gökçen Yıldız(Department of Food Engineering, Bursa Technical University)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Gulcin Yildiz, Gökçen Yıldız. Microwave-assisted stabilization of lipid-rich melon seed powder: enzyme inactivation, oxidative stability, and quality changes during storage. Frontiers in Food Science and Technology 2026-10-27. DOI: 10.3389/frfst.2026.1994939. 原著ライセンス:CC BY.