著者の所属・活動拠点の国は、カタール、ナイジェリアです。

掲載誌:Frontiers in Microbiomes

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的

膠芽腫(こうがしゅ、グリオブラストーマ)は、脳そのものから発生する悪性腫瘍のなかで最も進行が速いものです。手術や放射線治療、抗がん剤を組み合わせても、生存期間の中央値はおよそ15か月にとどまると論文は紹介しています。また、さまざまな地域で発生率が上昇しており、診断技術の向上だけでは説明しきれないことから、食事や環境など生活の中で変えうる要因への関心が高まっているといいます。

一方で、加工食品の普及により、人工甘味料や着色料、保存料などの食品添加物を口にする機会は大きく増えました。これまでの研究では、食品添加物が腸内細菌のバランスを乱すこと(ディスバイオシス)と、腸内細菌の乱れが脳の炎症や腫瘍に関わる仕組みに影響しうることが、それぞれ別々に報告されてきました。著者らは、この二つの研究の流れを、腸と脳が神経・免疫・代謝物を通じて互いに情報をやりとりする「腸脳相関」という考え方でつなぎ、ひとつの筋道として整理することを目指しました。

どのように調べたか

この論文は、新たな実験を行った研究ではなく、既存の研究をまとめて考察する「ナラティブレビュー」です。研究チームは複数の論文データベースから、食品添加物と腸内細菌に関する研究、そして腸内細菌と膠芽腫・神経膠腫に関する研究を、2015年から2026年に英語で発表された査読付きの原著論文を中心に探しました。

対象となった研究は、細菌だけを培養した実験や閉じた容器内での発酵実験から、鳥類の胚、マウスなどの齧歯類、ブタを使った研究、人を対象にした試験、さらにコンピューター上の解析まで幅広く、投与量や期間もまちまちです。そのため著者らは、研究同士の数値を比べることは避け、効果の大きさではなく「どちらの方向に変化したか」が一致しているかに注目して整理しています。また、系統的な手順に沿った網羅的な文献調査ではなく、結果をまとめる方法も統計的な統合ではないことを、論文自身が明記しています。

主な報告結果

食品添加物と腸内細菌に関する23件の研究のうち22件は、人工甘味料、着色料、保存料、ナノ粒子、乳化剤などの混合添加物という五つの分類に当てはまりました。最も研究が多かったのは人工甘味料で、13件を占めていました。

化学的な構造も使われる目的も異なるこれらの添加物について、研究チームは共通する腸内の変化のパターンを見いだしたと報告しています。それは、腸内細菌が食物繊維などから作る「短鎖脂肪酸」という有益とされる物質を生み出す菌が減ること、細菌由来の炎症を起こしやすい物質であるリポ多糖(LPS)の増加、アミノ酸の一種トリプトファンの代謝の乱れ、そして腸の壁の細胞同士の結びつきが弱まり、腸のバリアが損なわれることです。論文では、こうした変化が脳を守る関門(血液脳関門)の働きにも及びうるとし、脳の炎症、免疫の抑制、がんに関わる細胞内の信号の経路へと収束しうる仕組みとして描いています。

ただし、このパターンはすべての研究に当てはまるわけではありません。甘味料のうちキシリトールは、短鎖脂肪酸を増やすなど他とは異なる、むしろ保護的な傾向を示したと紹介されています。また、健康な成人を対象にした14日間の試験ではアスパルテームとスクラロースで腸内細菌に測定できる変化が見られず、別のコンピューター上の解析では、甘味料が腸内細菌を介さず、がん関連のたんぱく質に直接結合する可能性が予測されました。著者らはこの2件を、共通パターンを否定するものではなく、その適用範囲を示す条件として位置づけています。さらに、スクラロースが腸内細菌ではなく免疫細胞(T細胞)に作用して腫瘍の増殖を高めたとする研究については、このレビューが提案する仕組みとは逆の結果であり、腸内細菌を介さない経路で腫瘍の免疫に影響している可能性を示すものだと述べています。

個別の添加物のなかでは、アスパルテームについて、腸内細菌の乱れ、腸のバリア機能の低下、そして遺伝子の働きを調節する仕組み(m6Aと呼ばれるRNAの化学修飾)を通じた膠芽腫に関わる遺伝子の活性化までを、一続きの流れとして結びつける仮説が最も具体的に描けたと報告しています。ただしアスパルテームの腸内細菌への影響は主に他の甘味料との混合で調べられたものであり、この流れはあくまで検証を要する仮説として示されています。

この研究が示すこと

このレビューは、食品添加物が膠芽腫を引き起こすと示したものではありません。食品添加物を、腸内細菌を通じて腸と脳のつながりに影響を与えうる、生物学的に働きをもつ物質として捉え直し、これまで別々に語られてきた知見を、添加物の摂取から腸内の変化、脳の腫瘍に関わる仕組みまでの一連の筋道として整理した点に意味があります。どのつながりが確かめられており、どこがまだ仮説の段階なのかを見通すための枠組みを示した研究といえます。

原著論文の著者・所属:Maryam Sohail(Weill Cornell Medicine-Qatar, Education City, Qatar Foundation)、Aiza Tanveer Hassan(Weill Cornell Medicine-Qatar, Education City, Qatar Foundation)、Moomena Gulzar(Weill Cornell Medicine-Qatar, Education City, Qatar Foundation)、Noor Numan(Weill Cornell Medicine-Qatar, Education City, Qatar Foundation)、Alice Njolke Mafe(Department of Biological Sciences, Faculty of Sciences, Taraba State University)、Dietrich Büsselberg(Weill Cornell Medicine-Qatar, Education City, Qatar Foundation)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Maryam Sohail, Aiza Tanveer Hassan, Moomena Gulzar, et al. Gut dysbiosis and brain cancer: exploring the emerging role of sweeteners and food additives. Frontiers in Microbiomes 2026-10-27. DOI: 10.3389/frmbi.2026.1960004. 原著ライセンス:CC BY.