著者の所属・活動拠点の国は、アメリカです。

掲載誌:Frontiers in Food Science and Technology

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的:時間のかかる品質検査を補えるか

小麦の品質を判断する業界標準の方法に「フォーリングナンバー(FN)」があります。ひいた小麦と水を混ぜて加熱し、その中を棒が落ちるまでの秒数を測る方法です。小麦に含まれるα-アミラーゼは、デンプンを分解する酵素です。この酵素の働きが強いと混合物の粘りが失われ、棒が速く落ちるためFNの値は小さくなります。FNが低い小麦は、パンや菓子、麺などに加工したときの品質に影響するおそれがあります。

論文によると、米国太平洋岸北西部から輸出される軟質白小麦では、FN300秒が品質管理上の基準とされています。これを下回ると、1秒不足するごとに1ブッシェルあたり0.01ドルから値引きが始まり、FNが低いほど損失が大きくなります。低いFNの原因として多いのは、天候に関連する二つの現象です。一つは、収穫前の雨などで穂の上で発芽が始まる「穂発芽」です。もう一つは、登熟の後期にα-アミラーゼが増える「登熟後期α-アミラーゼ(LMA)」です。

一方でFN検査には、いくつかの制約があります。装置が高価で持ち運びにくく、1試料ずつしか測れません。粉砕から結果が出るまで、1試料あたり約12〜20分かかります。そのため、品種開発で多数の試験区を調べる段階や、農家から小麦を受け入れる集荷施設(エレベーター)の段階では十分に検査しにくい、と著者らは指摘しています。わずかな量の低FN小麦が混ざるだけでも、大きなロット全体のFNが下がることがあります。著者らはさらに、FNはα-アミラーゼだけでなくタンパク質含量などにも左右されると述べています。タンパク質が多いと、α-アミラーゼの問題が見えにくくなる可能性があるといいます。

そこで研究チームは、「TotalTarget for Sprout Damage(TTSD)」という新しい迅速免疫測定法を検証しました。免疫測定法とは抗体を使う検査法で、TTSDはα-アミラーゼの活性だけをもとにFNの推定値(免疫FN)を出します。研究の目的は、小麦流通のさまざまな段階の試料で、この免疫FNが従来のFNと定められた誤差範囲内で一致するかを確かめることです。

何を調べたか:試験区から輸出前の混合試料まで

研究チームは、2023年と2024年にワシントン、オレゴン、アイダホの3州で集めた軟質白小麦1,288試料を分析しました。試料は、小麦が流通していく段階、いわゆる「グレインチェーン」の三つの段階を代表しています。品種試験の小さな試験区から得た725試料、集荷施設で扱われた107試料、輸出拠点や加工拠点に届く段階に相当する混合試料456試料です。

FNの低い試料を十分に含めるため、試験区の一部では人為的な処理を行いました。LMAを誘発させる処理では、登熟途中の穂を茎ごと切り取って水に挿しました。これを、昼18℃・夜7.5℃(昼16時間・夜8時間)の日周サイクルに設定した育成装置に5日間置きました。穂発芽を誘発させる処理では、畑で夜間に散水して人工的な降雨を与えました。

すべての試料で、粉にする前の粒の状態のままタンパク質含量と水分を測りました。そのうえで粉砕した試料を分け、同じ粉を使って従来のFNと免疫FNを測りました。免疫FNの手順では、まず5グラムの粉を水と混ぜて遠心分離します。その上澄みを、目印を付けたデンプンと70℃で90秒反応させます。最後に試験紙を3分間浸し、専用の読み取り装置で数値を得ます。

一致しているかどうかの判定には、メーカーが定めた許容範囲を用いました。たとえば多くのFNの値では、免疫FNが従来のFNのおおむね±10%以内に入れば「範囲内」と判定します。タンパク質含量は三つの区分に分けて結果を比較しました。軟質白小麦として標準的な8.0〜10.4%、それより低い区分、10.5%以上の高い区分です。小規模な実験では、判定結果が測定条件によって変わるかどうかも確認しています。同じ人が繰り返し測った場合と、4人の操作者がそれぞれ測った場合を比べました。

主な結果:標準的なタンパク質の試料では9割超が一致

論文によると、タンパク質含量が軟質白小麦として標準的な範囲にある試料では、免疫FNと従来のFNの一致率が90%を超えました。タンパク質含量に関係なく全試料で見ると、一致率は約80%でした。タンパク質含量が目標とされる水準に近づくほど一致する可能性は高まり、標準範囲内で最も高くなったと報告されています。

流通段階別に見ると、試験区、集荷施設、混合試料と段階が進むにつれて一致率は高くなりました。試験区の試料はタンパク質含量の幅が5.3〜17.0%と広く、タンパク質を区別せずに見た一致率は71.0%でした。

小規模な実験では、同じ人が繰り返し測った場合も、異なる操作者が測った場合も、判定結果に統計的に有意な差は見られませんでした。

研究が示すこと

著者らは、免疫FNと従来のFNが一致しなかった例に注目しています。不一致が見られたのは、タンパク質が少なくα-アミラーゼもない試料や、タンパク質が多くα-アミラーゼが増えている試料です。著者らは、こうした不一致はFNだけに頼ることの限界を示していると見ています。

また著者らは、この方法は多くの試料を短時間で処理できるため、品種開発や小麦流通の各段階で使える可能性があると述べています。検査の効率が上がれば、α-アミラーゼが多い小麦を流通のより早い段階で見つけられるかもしれません。そうなれば、狙いを絞って混合しやすくなる可能性があるとしています。この研究は、デンプンを分解する酵素の働きを手早く調べる方法が従来の品質検査を補う手段になりうることを、実際の流通段階の試料で確かめた報告といえます。

原著論文の著者・所属:Anna J. Carroll(Department of Crop and Soil Sciences, Washington State University)、Adam Johnson(EnviroLogix Inc., Portland, ME, United States)、Lawrence G. Pessolano(EnviroLogix Inc., Portland, ME, United States)、Averi Jackson(EnviroLogix Inc., Portland, ME, United States)、Alison L. Thompson(Wheat Health, Genetics and Quality Research Unit, USDA-ARS)、Jayne E. Bock(Wheat Marketing Center, Portland, OR, United States)、Camille M. Steber(Department of Crop and Soil Sciences, Washington State University; Molecular Plant Sciences, Washington State University; Wheat Health, Genetics and Quality Research Unit, USDA-ARS)、Andrew G. McCubbin(School of Biological Sciences, Washington State University)、Michael O. Pumphrey(Department of Crop and Soil Sciences, Washington State University)、Clark Neely(The McGregor Company, Colfax, WA, United States)、Catlynn McGregor(The McGregor Company, Colfax, WA, United States)、Dru Mattei(Department of Crop and Soil Sciences, Washington State University)、John H. Kelly(Department of Crop and Soil Sciences, Washington State University)、Abigail R. Holtz(Department of Crop and Soil Sciences, Washington State University)、Amber L. Hauvermale(Department of Crop and Soil Sciences, Washington State University)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Anna J. Carroll, Adam Johnson, Lawrence G. Pessolano, et al. From plot to composite: validation of a novel rapid immunoassay for detecting low falling number in soft white wheat from the Pacific Northwest. Frontiers in Food Science and Technology 2026-10-27. DOI: 10.3389/frfst.2026.1913401. 原著ライセンス:CC BY.