著者の所属・活動拠点の国は、フランス、ベルギーです。
掲載誌:Frontiers in Microbiology
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
二つの異なる素材を組み合わせる狙い
腸内細菌に選択的に利用され、体に良い作用をもたらす物質は「プレバイオティクス」と呼ばれます。多くは食物繊維のような消化されにくい糖質で、腸内細菌に発酵されると酢酸・プロピオン酸・酪酸などの短鎖脂肪酸が作られます。ただし、どの細菌が増え、どの物質が作られるかは素材ごとに大きく異なります。
研究チームが着目したのは二つの素材です。一つはグルコノデルタラクトン(GDL)で、グルコン酸から作られる環状の化合物であり、食品添加物として広く使われています。これまでの研究で、酪酸を作る代表的な腸内細菌フィーカリバクテリウム・プラウスニッツィイを増やしたり、酪酸の産生を高めたりすることが報告されてきました。もう一つは難消化性デキストリンの水溶性食物繊維NUTRIOSE(NUTR)で、過去の実験では酢酸とプロピオン酸を増やし、パラバクテロイデス属の細菌を増やすことが示されていました。
両者は腸内細菌に対して異なる働き方をするため、組み合わせればそれぞれの作用を同時に得られるのではないか、また配合比を変えることで中間的な性質に調整できるのではないか。著者らはこの考えを確かめるため、GDLとNUTRを単独および混合で与えたときの腸内細菌の構成と代謝、さらに腸のバリア機能への影響を調べました。
どのように調べたか
実験には、健康な成人6人から提供された新鮮な便が使われました。便に含まれる腸内細菌を、酸素のない条件で小さな容器(容量5ミリリットル)に入れ、37度で最大48時間培養して大腸内の発酵を再現しました。体の外で人の腸内細菌そのものを使うため「エクスビボ(ex vivo)」と呼ばれる手法で、研究チームはSIFRと名付けた検証済みの実験系を用いています。
与えた素材は、GDL単独、NUTR単独、そして重量比で90対10から10対90まで5段階に配合した混合物の計7種類で、量はいずれも人が1日5グラムを摂取するのに相当するよう設定されました。何も加えない対照と比べ、6時間、24時間、48時間の時点でpH、ガスの発生量、乳酸や短鎖脂肪酸の量を測定しました。48時間後には、遺伝子解析と細胞数の計測を組み合わせて細菌の種類ごとの量を推定し、さらに培養液に含まれる多様な代謝物も網羅的に分析しました。
腸のバリア機能については、ヒトの腸上皮由来の細胞と免疫細胞(マクロファージ)を組み合わせた培養モデルが使われました。48時間発酵させた培養液をこのモデルに加え、細胞層を電気がどれだけ通りにくいか(経上皮電気抵抗、TEER)を測ります。この値が高いほど細胞どうしの結合がしっかりしており、バリアが保たれていることを示します。さらに、細菌の成分で炎症を引き起こすリポ多糖(LPS)を加え、炎症ストレス下でのバリアの状態も調べました。
主な結果:異なる作用が配合比に応じて組み合わさった
6人の腸内細菌は、プレボテラ属が多い人とバクテロイデス属などが多い人に分かれるなど、もともと大きく異なっていました。研究チームは、このような多様な背景をもつ腸内細菌で作用を評価できたとしています。
GDLは短時間で発酵され、培養6時間で急速にpHが下がり乳酸が多く作られました。この乳酸は48時間までにおおむね消費されており、著者らは他の細菌が乳酸を利用して短鎖脂肪酸に変えた可能性を挙げています。GDLはビフィズス菌の一種ビフィドバクテリウム・アドレセンティスを特に増やす傾向を示し、酪酸を作る細菌のうちフィーカリバクテリウム・プラウスニッツィイを有意に増やしました(アナエロブチリクム・ハリイも増えましたが、有意差はありませんでした)。GDL単独とGDLの多い混合物では、酪酸が他の処理より有意に多くなりました。一方で、GDLが増やした細菌の種類は限られていました。
これに対しNUTRはゆっくり発酵され、短鎖脂肪酸は6時間時点では最も少なかったものの時間とともに増え続け、48時間ではGDLの多い処理を有意に上回りました。NUTRはバクテロイデス属やパラバクテロイデス属、ラクノスピラ科の細菌など幅広い細菌を増やし、特にプロピオン酸を増やしました。また、短鎖脂肪酸の量に対するガス発生量の比が低く、著者らはこれを、体内で摂取した場合のおなかへの負担が小さい可能性を示すものと解釈しています。
混合物では、多くの細菌や発酵の指標が、GDLとNUTRの配合比に応じて段階的に中間的な値をとりました。つまり両素材の特徴が混合物の中でも保たれていたことになります。注目すべき例外として、フィーカリバクテリウム・プラウスニッツィイとアナエロブチリクム・ハリイは、GDL75対NUTR25と50対50の混合物で最もよく増え、GDL単独と有意差のない水準でした。NUTRを加えてもGDLによるこれら酪酸産生菌の増加は弱まらなかったと著者らは述べています。
代謝物の分析では、GDLはトリプトファンという必須アミノ酸から作られるインドール-3-プロピオン酸やインドール-3-乳酸などを増やし、NUTRはビタミンB6の一種であるピリドキサミンなど別の物質群を増やしました。ここでも混合物は両者の作用を配合量に応じて合わせもつ傾向を示しました。
腸のバリア機能については、炎症ストレスを与えない条件ではTEERに対照との有意差はみられませんでした。しかしLPSで炎症を起こした条件では、GDLとNUTRの混合物の発酵液がバリア機能を高め、TEERは最大で24.5パーセント上昇したと報告されています。
この研究が示すこと
速く発酵して特定の細菌や酪酸を増やすGDLと、ゆっくり発酵して幅広い細菌やプロピオン酸を増やすNUTRは、混ぜ合わせても互いの作用を打ち消さず、配合比に応じて両方の特徴を併せもつことが、人の腸内細菌を使った体外実験で示されました。著者らは、この結果が腸内細菌の調節を通じて腸の健康を高める目的で両素材を組み合わせて使うことを支持するとしています。なお、今回の結果は6人分の腸内細菌と培養細胞を用いた実験室での検討によるものです。
原著論文の著者・所属:Damien Truffin(Roquette Frères)、Caroline Perreau(Roquette Frères)、Liam Jenkins Sánchez(Cryptobiotix SA, Ghent, Belgium)、Jasmine Heyse(Cryptobiotix SA, Ghent, Belgium)、Aurélien Baudot(Cryptobiotix SA, Ghent, Belgium)、Lam Dai Vu(Cryptobiotix SA, Ghent, Belgium)、Emma De Beul(Cryptobiotix SA, Ghent, Belgium)、Pieter Van den Abbeele(Cryptobiotix SA, Ghent, Belgium)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Damien Truffin, Caroline Perreau, Liam Jenkins Sánchez, et al. Soluble prebiotic fiber and glucono-δ-lactone blends integrate compatible effects to modulate microbiota composition and metabolism ex vivo. Frontiers in Microbiology 2026-10-08. DOI: 10.3389/fmicb.2026.1923298. 原著ライセンス:CC BY.