この研究は、中国の研究機関の研究論文です。

掲載誌:Journal of Dairy Science

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究のねらい

乳扇(ルーシャン)チーズは、凝固させた乳(カード)を温めて引き伸ばし、薄いシート状にして作るチーズです。論文によると、こうした「伸ばす」タイプのチーズの伸びやすさは、主に乳たんぱく質のカゼインが作るゲルの構造が、どれだけ柔軟に形を変えられるかで決まります。

グルコノデルタラクトン(GDL)は、牛乳をゲル化させる物質としてよく知られています。しかし、GDLを使って乳扇チーズの構造の柔軟さを狙い通りに調整し、従来の製法が抱える制約を乗り越えようとする試みは、ほとんど検討されていませんでした。そこで研究チームは、GDLの添加量によって乳扇チーズのゲルがどう変わるかを体系的に調べました。なお、ここでの紹介は論文の抄録に基づいています。

何を調べたか

研究チームは、GDLの濃度を0〜0.060%(重量比)の範囲で変えたチーズゲルを用意し、伸び方、微細な構造、分子どうしの相互作用を比較しました。カードは約70℃に保ったホエイ(乳清)の中で50秒間加熱した後に取り出し、手で薄いシート状に引き伸ばしました。

評価には、食感の硬さや粘着性を数値化する分析、ゲルの弾性や粘りを測る測定、顕微鏡による構造の観察、たんぱく質の立体構造や分子の詰まり方、熱に対する振る舞いを調べる各種の分析など、ミクロからマクロまで複数のスケールの手法が用いられました。

主な結果

手で引き伸ばす試験では、GDLを0.030%含むカードが最も良好な伸びを示しました。食感の分析では、GDLの添加によってゲルの粘着性と硬さが有意に高まり、硬さは1,072.85gから2,298.02gに増加したと報告されています。また、ゲルの弾性や粘りを示す指標と粘度は、GDLが0.030%のときに最大になりました。

顕微鏡観察では、適度な量のGDLによって、たんぱく質が均一な繊維状の網目をつくり、その中に脂肪が均等に埋め込まれる様子が見られました。一方、GDLが多すぎる場合(0.060%)には、構造が粗くなり、脂肪が分離する傾向が確認されました。

分子レベルでは、GDLが0.030%のとき、たんぱく質の立体構造の一種である「βシート」の割合が15.7%から21.3%に増え、別の構造である「βターン」の割合が減りました。著者らは、チーズの中でたんぱく質の構造の構成が組み替わったことを示すとしています。ほかの分析でも、GDLの量に応じてたんぱく質周辺の環境や熱に対する振る舞いが変化し、0.030%では分子がより密に詰まっていることが示されました。

GDLが0.030%を超えると、網目構造が粗くなり、構造の不均一さが増して、伸びやすさが低下しました。研究チームは、GDLの入れすぎによって、網目がまとまる力と構造が動ける柔軟さとのバランスが崩れたと考えられるとしています。

研究の意味

この研究は、GDLを適度に加えることで乳扇チーズの伸びやすさが改善しうることを、たんぱく質の網目から分子の構造に至る複数のスケールの証拠で示しました。あわせて、伸びの変化をたんぱく質の構造変化と結びつけて解釈するための、もっともらしい枠組みを提示しています。添加量は多ければよいわけではなく、適量を超えるとかえって伸びが損なわれるという点も、結果から読み取れる重要なポイントです。

著者:Junlei Zhang(College of Food Science and Technology, Yunnan Agricultural University, Kunming 650201, Yunnan, China)、Rang Wang(College of Food Science and Technology, Yunnan Agricultural University, Kunming 650201, Yunnan, China)、Wenli Tao(College of Food Science and Technology, Yunnan Agricultural University, Kunming 650201, Yunnan, China)、Wenbin Zhang(College of Food Science and Technology, Yunnan Agricultural University, Kunming 650201, Yunnan, China)、Teng Wang(College of Food Science and Technology, Yunnan Agricultural University, Kunming 650201, Yunnan, China)、Xingying Dai(College of Food Science and Technology, Yunnan Agricultural University, Kunming 650201, Yunnan, China)、Ting Bai(College of Food Science and Technology, Yunnan Agricultural University, Kunming 650201, Yunnan, China)、Qing Liang(College of Food Science and Technology, Yunnan Agricultural University, Kunming 650201, Yunnan, China)、Luzejun Shi(College of Food Science and Technology, Yunnan Agricultural University, Kunming 650201, Yunnan, China)、Aixiang Huang(College of Food Science and Technology, Yunnan Agricultural University, Kunming 650201, Yunnan, China)、Yufang Li(College of Food Science and Technology, Yunnan Agricultural University, Kunming 650201, Yunnan, China. Electronic address: [email protected])、Guangqiang Wei(College of Food Science and Technology, Yunnan Agricultural University, Kunming 650201, Yunnan, China. Electronic address: [email protected])

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Junlei Zhang, Rang Wang, Wenli Tao, et al. Multi-scale structural regulation of Rushan cheese gels by glucono-δ-lactone toward enhanced stretchability. Journal of Dairy Science 2026-10-01. DOI: 10.3168/jds.2026-28622. 原著ライセンス:CC BY.