著者の所属・活動拠点の国は、チェコです。
掲載誌:Foods
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
軍隊の野外活動や災害時、人道支援の現場で配られる食料には、軽くてかさばらず、長く保存でき、衛生的に安全であることが求められます。それだけでなく、実際に食べてもらえることも重要です。著者らは序論で、携行食は単調だったり口に合わなかったり準備が面倒だったりすると摂取量が減りやすい、という先行研究を紹介しています。そのため栄養面だけでなく、加工技術の面や味・食感の面もあわせて評価する必要があるとしています。
今回の研究チームが取り上げたのは、お湯を注ぐだけで食べられる朝食風の粥です。フリーズドライ(凍結乾燥)は、凍らせた食品から氷を直接気体にして水分を取り除く方法です。一般的な熱風乾燥に比べて熱による傷みが少なく、多孔質の構造が残りやすいため、お湯で戻りやすいとされています。ただ、フリーズドライの粥についての研究はこれまで米粥とオート麦の研究に分かれていました。両者を同じ配合の考え方、包装、保存条件、分析方法のもとで長期間比べた例は限られていた、と著者らは指摘しています。そこで本研究は、オート麦粥と米粥を一つの共通の枠組みで直接比較することを目的としました。
何をどのように調べたか
研究チームは、オート麦を主原料とする粥と、米を主原料とする粥を、それぞれ3種類ずつ、合計6種類作りました。どれも全乳、砂糖、塩、イチゴを加えて粥状に煮込み、なめらかにしてから凍結乾燥しました。各配合の名前に付いた数字は主原料の名目上の割合を示します。ただし、牛乳や砂糖、イチゴの量も同時に変えているため、著者らはこれを「穀物の濃度だけを変えた比較」ではなく「配合全体の違い」として扱っています。
乾燥した粥は、アルミ層を含む多層フィルムの袋に真空で封入しました。アルミを含む包材は、水蒸気、酸素、光を通しにくい性質があります。袋は5℃(冷蔵)、25℃(常温)、40℃(高温での劣化を早める条件で、熱帯での保管も想定)の3つの温度で、最長18か月保存されました。
評価した項目は多岐にわたります。水分活性(微生物が利用できる水の度合いを示す指標)、水分量、pH、色、微生物の検査、たんぱく質・脂質・糖質の量、お湯で戻した後の粘り(レオロジー、流れやすさの測定)、そして官能評価(人が実際に食べて見た目や味、食感を採点する評価)です。官能評価には、同じ8人の評価者が保存期間を通して参加しました。著者らは、この評価を一般消費者の受け入れやすさを示すものではなく、探索的な選別として位置づけています。
主な結果
凍結乾燥によって、粥の水分活性は非常に低い範囲まで下がりました。著者らは、水分活性が低いこと、pHが中性付近で安定していたこと、そして微生物の検査結果をあわせて、保存に伴って微生物が増えた様子は見られなかったと報告しています。なお著者らは、フリーズドライの保存性はおもに水分活性を下げることによるもので、殺菌ではないことも説明しています。
成分を見ると、オート麦粥はたんぱく質と脂質の割合が高く、米粥は糖質(炭水化物)の割合が主体でした。保存開始時と12か月の時点を比べても、主要な栄養成分に大きな変化は見られなかったとされています。
最もはっきり違いが出たのは、お湯で戻した後の粘りでした。名目上の配合水準が同程度の場合、オート麦粥のほうが粘りが強くなりました。一方の米粥は、加熱中に温度に応じてとろみが増す傾向がより強く表れました。
粘りと官能評価の関係についても調べています。粘りが強いほど評価が良いという大まかな関連が、とくに米粥で見られました。しかし配合の種類や保存期間、保存温度の影響を統計的に考慮すると、粘りそのものと評価との関連を独立したものとして区別することはできませんでした。
この研究が示すこと
著者らは、今回調べた条件の範囲では、フリーズドライの粥が携行食や非常食の一品として使える可能性があると結論づけています。そのためには、水分活性を低く保つことによる安全性、保存中の構造の安定、お湯での戻りやすさ、そして食べたときの印象のバランスがとれた配合にすることが条件だとしています。
同じ「お湯で戻す粥」でも、オート麦と米とでは栄養の構成も、とろみの出方も異なることが、同じ条件で並べて比べたことで明らかになりました。食料を設計する際に、どちらの素材を選ぶかによって考えるべき点が変わる、ということを示した研究といえます。
原著論文の著者・所属:Martin Szotkowski(Laboratory of Food Quality and Safety Research, Department of Logistics, Faculty of Military Leadership, University of Defence, Kounicova 65, 662 10 Brno, Czech Republic)、Jiri Malisek(Laboratory of Food Quality and Safety Research, Department of Logistics, Faculty of Military Leadership, University of Defence, Kounicova 65, 662 10 Brno, Czech Republic)、Kristina Trenzova(Laboratory of Food Quality and Safety Research, Department of Logistics, Faculty of Military Leadership, University of Defence, Kounicova 65, 662 10 Brno, Czech Republic)、Katerina Kristofova(Department of Plant Origin Food Sciences, Faculty of Veterinary Hygiene and Ecology, University of Veterinary Sciences, Palackeho tr. 1946/1, 612 42 Brno, Czech Republic; Laboratory of Food Quality and Safety Research, Department of Logistics, Faculty of Military Leadership, University of Defence, Kounicova 65, 662 10 Brno, Czech Republic)、Monika Hartmannova(Central Military Veterinary Institute, Ministry of Defence, Opavska 771/29, 748 01 Hlucin, Czech Republic)、Blanka Dostalova(Central Military Veterinary Institute, Ministry of Defence, Opavska 771/29, 748 01 Hlucin, Czech Republic)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Martin Szotkowski, Jiri Malisek, Kristina Trenzova, et al. Freeze-Dried Oat- and Rice-Based Porridges for Military and Emergency Rations: Formulation, Long-Term Storage Stability, Rheological Behaviour and Exploratory Sensory Evaluation. Foods 2026-10-26. DOI: 10.3390/foods15213829. 原著ライセンス:CC BY.