著者の所属・活動拠点の国は、中国です。
掲載誌:Food Chemistry X
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
フリーズドライ(凍結乾燥)は、食品を凍らせてから真空中で氷を直接蒸発させて水分を除く方法です。栄養や風味を保ちやすく、軽くサクサクした食感と長い保存性が得られるため、果物や野菜、乳製品、スナック類に使われています。一方で、乾燥後の食品は内部が穴だらけの構造になるため、もろく割れやすいことや、乾燥中に縮んだり変形したりすることがあります。また、空気中の湿気を吸うと構造が崩れて品質が落ちやすいという弱点もあります。
研究チームは、チーズをフリーズドライにする際にフラクトオリゴ糖(FOS)を加え、こうした品質がどう変わるかを調べました。FOSは果糖がいくつもつながった比較的小さな糖で、水となじみやすい性質をもちます。植物性の食品では糖類や多糖類による構造改善が研究されてきましたが、脂肪を含み乳たんぱく質(カゼイン)の網目でできたチーズに同じ結果がそのまま当てはまるとは限りません。著者らは、FOSがフリーズドライチーズの微細な構造や食感をどう作り変えるのかという仕組みの理解が不足していると指摘しています。
何を調べたか
実験では、発酵や熟成の影響を除くため、凝乳酵素(レンネット)で固めただけのフレッシュチーズを単純化したモデルとして用いました。原料乳に対してFOSを加えない対照群と、5%、10%、15%を加えた群の4種類のチーズを作り、1センチ角に切ってフリーズドライにしました。
乾燥したチーズについて、成分と収量、水分の状態、内部構造、食感、加熱時を含む変形のしにくさ(レオロジー)、色を測定しました。水分の状態は、微生物の増えやすさなどの目安となる水分活性、湿った空気中での吸湿のしやすさ、水に戻した後の質量が戻す前の質量に対してどれだけになるかを表す復水率、さらに低磁場核磁気共鳴(NMR)による水の動きやすさで評価しました。内部構造は、電子顕微鏡による観察と、X線で内部を立体的に撮影するマイクロCTによる穴の大きさや壁の厚さの測定などで調べました。
主な結果
乾燥チーズに残ったFOSの量は、加えた量が多いほど多くなっていました。収量もFOSの添加によって有意に増えました。水分活性は対照群の0.13から、10%以上のFOSを加えた群では0.08に下がりました。湿った空気中での吸湿率は31.47%から22.86%に低下し、復水率も対照群より17%低くなりました。NMRの解析からは、自由に動ける水の一部が、周囲の成分により強く結びついた状態へ移ったことが示されました。研究チームは、水となじみやすいFOSが水分子と水素結合を作るためだと考えています。
結晶構造の分析では、FOSを加えてもチーズは主に結晶をもたない状態のままで、新しい結晶は生じていませんでした。赤外分光の結果からは、新しい化学結合はできていない一方、FOSとチーズの成分の間で水素結合が強まったことがうかがえました。ただし著者らは、この方法は分子同士の結びつきを間接的に示すにとどまると述べています。
内部構造には大きな違いが見られました。対照群は大きく不ぞろいな穴と厚い壁をもつ粗い構造でしたが、FOSを増やすと穴は小さく均一になり、壁は薄くなりました。マイクロCTでは、どの試料も崩れや変形は見られず、直径150マイクロメートルを超える大きな穴の割合は対照群の0.23%から15%添加群の0.01%まで減りました。研究チームは、FOSが凍結時に小さな氷の結晶を多く生じさせ、氷の成長を抑えることで、乾燥後に細かい穴の構造が生まれたと考察しています。
食感では、FOSの添加量が増えるにつれて硬さと噛みごたえが有意に増しました。一方、割れやすさに関わる指標(破断性)は対照群より低くなりました。著者らはこれを、変形には強いものの一定の力で一気に割れる、硬くてもろい食感の表れと解釈し、10%添加群が硬さと割れやすさのバランスが最もよかったとしています。レオロジー測定では、全試料が液体より固体に近い性質を示し、その強さは添加量が多いほど大きくなりました。25℃から80℃への加熱中も固体的な性質が保たれ、研究チームは熱に対する安定性が高まったと見ています。色では、FOSの添加で明るさと白さが増し、黄色みも強まりました。
研究の意味
この研究は、チーズにFOSを加えてからフリーズドライにすると、水が成分に強く結びつき、細かく均一な穴をもつ緻密な構造ができることを示しました。それに伴って、湿気を吸いにくく硬めでしっかりした乾燥チーズになったと報告しています。乾燥方法そのものではなく、素材側の成分を調整して仕上がりの品質を制御するという考え方を、乳製品で具体的に示した点に意義があります。
一方で、今回用いたのは発酵・熟成を経ない1種類のフレッシュチーズに限られており、著者ら自身も、結果をほかのチーズにどこまで広げられるかには限界があると述べています。
原著論文の著者・所属:Yang Lyu(Institute of Agro-food Technology, Jilin Academy of Agricultural Sciences (Northeast Agricultural Research Center of China), Changchun 130033, China; National R&D Center for Milk Processing, Changchun 130033, China)、Shengnan Li(Institute of Agro-food Technology, Jilin Academy of Agricultural Sciences (Northeast Agricultural Research Center of China), Changchun 130033, China; National R&D Center for Milk Processing, Changchun 130033, China)、Shengnan Li(Institute of Agro-food Technology, Jilin Academy of Agricultural Sciences (Northeast Agricultural Research Center of China), Changchun 130033, China; National R&D Center for Milk Processing, Changchun 130033, China)、Lei Gao(Institute of Agro-food Technology, Jilin Academy of Agricultural Sciences (Northeast Agricultural Research Center of China), Changchun 130033, China; National R&D Center for Milk Processing, Changchun 130033, China)、Zijian Zhao(Institute of Agro-food Technology, Jilin Academy of Agricultural Sciences (Northeast Agricultural Research Center of China), Changchun 130033, China; National R&D Center for Milk Processing, Changchun 130033, China)、Hao Qian(Xinjiang Production and Construction Corps Specialty Dairy Processing Technology Innovation Center, Shihezi 832021, China; Xinjiang Shihezi Huayuan Dairy Industry Co., Ltd., Shihezi 832021, China)、You Kang(Institute of Agro-food Technology, Jilin Academy of Agricultural Sciences (Northeast Agricultural Research Center of China), Changchun 130033, China; National R&D Center for Milk Processing, Changchun 130033, China)、Fei Chen(Xinjiang Production and Construction Corps Specialty Dairy Processing Technology Innovation Center, Shihezi 832021, China; Xinjiang Shihezi Huayuan Dairy Industry Co., Ltd., Shihezi 832021, China)、Xindong Jia(Xinjiang Production and Construction Corps Specialty Dairy Processing Technology Innovation Center, Shihezi 832021, China; Xinjiang Shihezi Huayuan Dairy Industry Co., Ltd., Shihezi 832021, China)、Shengyu Li(Institute of Agro-food Technology, Jilin Academy of Agricultural Sciences (Northeast Agricultural Research Center of China), Changchun 130033, China; National R&D Center for Milk Processing, Changchun 130033, China)、Shengyu Li(Institute of Agro-food Technology, Jilin Academy of Agricultural Sciences (Northeast Agricultural Research Center of China), Changchun 130033, China; National R&D Center for Milk Processing, Changchun 130033, China)、Yujuan Zhao(Institute of Agro-food Technology, Jilin Academy of Agricultural Sciences (Northeast Agricultural Research Center of China), Changchun 130033, China; National R&D Center for Milk Processing, Changchun 130033, China)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Yang Lyu, Shengnan Li, Shengnan Li, et al. Effects of fructooligosaccharides on quality attributes of freeze-dried cheese: Insights into water status, microstructure, texture and rheology. Food Chemistry X 2026-08-01. DOI: 10.1016/j.fochx.2026.104327. 原著ライセンス:CC BY.