日本主導:この研究は、筆頭著者・責任著者、または著者の主要所属が日本の研究機関である研究です。

掲載誌:Functional Foods in Health and Disease

ライセンス: CC BY 4.0 対象: 公開論文 確認元: 論文PDF

研究の目的

乳がんでは、手術の前に抗がん剤で腫瘍を小さくする「術前化学療法」が広く行われています。腫瘍が小さくなると乳房を残す手術を選びやすくなり、心理的な負担の軽減にもつながると考えられています。一方で、抗がん剤には副作用があります。治療の効果を最大限に引き出すには、予定した量の抗がん剤をできるだけ減らさずに投与し続けることが大切だと著者らは述べています。

AHCCは、シイタケの菌糸体を培養して得られる規格化された抽出物です。これまでに、さまざまながんや抗がん剤治療で副作用を減らす可能性が報告されてきました。研究チームも以前、AHCCを飲まない治療期間と飲む治療期間を同じ患者で比べる研究を行いました。その結果、白血球や好中球が大きく減る副作用が少なくなる可能性が示されています。ただしこの研究は、患者も医師も摂取の有無を知っている形式でした。がんの種類や抗がん剤の組み合わせも患者ごとに異なるという限界がありました。

そこで今回の研究では、対象を特定の治療を受ける乳がん患者に絞りました。その治療は、5-フルオロウラシル、エピルビシン、シクロホスファミドの3剤を組み合わせる「FEC75療法」です。研究チームは、この治療を術前化学療法として受ける乳がん患者で、AHCCが副作用、特に骨髄抑制にどう影響するかを探索的に調べました。骨髄抑制とは、血液をつくる働きが弱まり血球が減ることを指します。

どのように調べたか

試験には、パクリタキセルを12週間投与した後にFEC75療法を受ける予定の乳がん患者60人が参加しました。参加者はくじ引きのような方法で2つのグループに分けられ、一方はAHCCを1日2.0g、もう一方は見た目や味をそろえた偽の錠剤(プラセボ)を摂取しました。摂取期間は、パクリタキセル治療の12週目からFEC75療法の終了までの13週間です。参加者も医師も、誰がどちらを飲んでいるか分からない「二重盲検」という方法で行われました。

主に調べたのは、重い副作用がどのくらいの頻度で起きたかです。副作用の重さは、国際的に使われる判定基準で評価しました。この基準では、副作用の重さを段階(グレード)で表します。今回はそのうち重いほうに当たるグレード3〜4の発生を数えました。評価の対象には、好中球減少症などの血液検査の異常が含まれます。好中球は感染から体を守る白血球の一種で、抗がん剤によって減りやすいことが知られています。血液検査はFEC75療法の各サイクル初日などの時点で行われました。

あわせて、治療終了後に生活の質(QOL)を尋ねる国際的な質問票への回答も比べました。この質問票では、疲れ、吐き気、息苦しさ、下痢などの症状の程度が点数で示されます。また、疲労の目安として研究されている唾液中のヒトヘルペスウイルス6型・7型の量も測りました。最終的に、途中で参加をやめた9人を除くプラセボ群24人、AHCC群27人のデータが分析されました。

主な結果

FEC75療法の3回目のサイクル初日の時点で、グレード3〜4の好中球減少症が起きた割合は、AHCC群のほうがプラセボ群より統計的に有意に低いと報告されました。研究では、評価時点が多いことによる偶然の差を避けるため、判定の基準を厳しくしています。その基準のもとでも差が認められたのは、この時点だけでした。ほかの評価時点では、好中球減少症の割合に有意な差は見られませんでした。白血球減少や肝機能の数値の上昇についても、グループ間の差は認められませんでした。

血液検査では、同じ3回目のサイクル初日に、AHCC群の血小板数がプラセボ群より高い結果でした。また治療終了後には、肝臓に関わる数値である総ビリルビンがAHCC群でやや低い傾向も示されました。ただし、どちらのグループでもこれらの値は正常範囲内にありました。そのため、この差が臨床的にどんな意味を持つかは不明だと著者らは述べています。

質問票では、治療終了後の息苦しさの点数がAHCC群で有意に低い結果でした。下痢の点数もAHCC群で低い傾向がありました。その他の症状や生活の質の項目、唾液中のウイルス量には、グループ間の差は見られませんでした。息苦しさや下痢の結果について、著者らはAHCCの抗炎症作用などの可能性に触れています。ただし、今回の研究は仕組みを調べるために設計されたものではなく、それらは推測の段階だとしています。

この研究が示すこと

今回の結果について研究チームは、AHCCが特定の時点で重い好中球減少を減らす可能性を示す、予備的な臨床的根拠だとしています。対象は、FEC75療法を術前化学療法として受ける乳がん患者です。一方で、差が見られたのは一つの時点に限られていました。そのため、AHCCが抗がん剤による好中球減少を一般的に防ぐことまでは示されていないと明記しています。

著者らは、限界もいくつか挙げています。探索的な研究で評価時点が多く、偶然の結果である可能性を否定できないこと。途中でやめた人がプラセボ群に多く、その偏りが結果に影響した可能性があること。そして、調べた用量が1種類だけだったことです。なお、この研究はAHCCの製造会社の寄付による大学の講座で実施され、試験食品の割り付け作業は同社が担いました。今回の研究は、患者と治療内容を絞った比較試験として、AHCCと抗がん剤の副作用との関係を一歩具体的に検討した報告だといえます。

原著論文の著者・所属:Satoshi Ohno(Clinical Research Center , Shimane University Hospital , Shimane , Japan;; Department of Integrative Medicine , Osaka University Graduate School of Medicine , Osaka , Japan;)、Miki Sakaue(Department of Integrative Medicine , Osaka University Graduate School of Medicine , Osaka , Japan;)、Yoko Sakamoto(Department of Integrative Medicine , Osaka University Graduate School of Medicine , Osaka , Japan;)、Hayato Urushima(Department of Integrative Medicine , Osaka University Graduate School of Medicine , Osaka , Japan;)、Kazuhisa Maeda(Longwood Maeda Clinic , Osaka , Japan;)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Satoshi Ohno, Miki Sakaue, Yoko Sakamoto, et al. Reduction of chemotherapy-induced neutropenia by AHCC in breast cancer patients: A randomized, double-blind, placebo-controlled, parallel-group exploratory study. Functional Foods in Health and Disease 2026-09-08. DOI: 10.31989/ffhd.v16i9.2086. 原著ライセンス:CC BY.