著者の所属・活動拠点の国は、デンマーク、ギリシャ、ドイツです。

掲載誌:Frontiers in Nutrition

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的:たんぱく質の濃さだけで工程を評価しない

植物性たんぱく質の原料をつくる方法として、水を使わない「乾式分画」が注目されています。豆を細かく粉砕すると、たんぱく質を多く含む小さな粒子と、でんぷんを多く含む大きな粒子が混ざった粉になります。乾式分画では、粒子の大きさ・形・密度の違いを利用し、空気の流れで粉を「たんぱく質に富む細かい画分(微細画分)」と「でんぷんに富む粗い画分(粗画分)」に分けます。著者らは、水に溶かして抽出し噴霧乾燥する一般的な方法に比べ、水やエネルギーを多く使う工程がない点を利点として挙げています。

一方で、乾式分画には課題もあります。微細画分のたんぱく質含量は一般に60〜70%程度で、水を使う方法で得られる分離たんぱく質(75〜90%)より低くなります。また、量の多い粗画分が副産物として生じます。著者らによれば、これまでの研究は主に微細画分のたんぱく質濃度と収量の兼ね合いに注目しており、量としては工程の主な産出物である粗画分はあまり調べられていませんでした。

研究チームは、エンドウ豆やソラマメに比べてデータの少ないひよこ豆を対象に、収量や成分だけでなく、粗画分の食品素材としての性質や環境への負荷も含めて、乾式分画によるたんぱく質濃縮の可能性を総合的に評価することを目的としました。

何を調べたか:工業規模の設備で4つの条件を比較

研究では、皮を除いたひよこ豆700kgを用い、工業規模の設備で粉砕と空気による分級(粒子の大きさによる選別)を行いました。分級機の回転翼について、幅の広い翼を毎分6,000回転で使う条件と、別の型の翼を回転数を変えて使う条件(最高で毎分6,500回転)を合わせた4通りを比較しています。

それぞれの条件で得られた微細画分と粗画分について、成分、顕微鏡で見た粒子の構造、粒子の大きさの分布を調べました。さらに粗画分を水とともに加熱・冷却し、粘り(粘度)の変化やゲルのでき方を測定しました。環境面では、製品が原料から作られるまでの環境負荷を見積もるライフサイクルアセスメント(LCA)を、評価の基準となる単位を複数設定して行いました。

主な結果:濃さと効率、副産物の性質がトレードオフに

論文によると、たんぱく質の濃さと回収効率の間には明確なトレードオフがありました。幅の広い翼を使った条件では、原料に含まれるたんぱく質のうち微細画分へ回収された割合(抽出効率)が59%と最も高かった一方、たんぱく質含量は原料粉の乾物100gあたり22gから36gへの約1.6倍にとどまりました。別の型の翼で回転数を上げるとたんぱく質含量は高まり、毎分6,500回転では乾物100gあたり46gと約2倍に達しましたが、抽出効率は16%、微細画分の収量は約8%に下がり、多くのたんぱく質が粗画分側に残りました。毎分5,500回転を超えると濃縮の度合いは頭打ちになり、効率だけが大きく下がったと報告されています。

粗画分は、幅の広い翼の条件で全産出量の約64%、別の型の翼の条件では75〜92%を占めました。顕微鏡観察などから、ひよこ豆ではでんぷん粒とたんぱく質の小粒子の大きさが重なり合う範囲が広く、両者をきれいに分けることが難しいことが確認されました。著者らは、ひよこ豆の脂質の多さが粒子同士を付着させ、分離を妨げている可能性も指摘しています。

粗画分の性質を調べると、でんぷんを最も多く含んだ幅の広い翼の条件の粗画分が、加熱時の粘りなどの面で優れた性質を示しました。性質の低下が大きかったのは幅の広い翼から別の型の翼へ切り替えたときで、その後に回転数を上げても追加の低下は比較的小さかったとされています。ゲルの内部では、膨らんだでんぷんが連続した骨格をつくり、その中にたんぱく質の粒子が埋め込まれた構造が観察されました。

LCAでは、環境負荷をすべて微細画分に割り当てた場合、分画を精密にするほど調べたすべての評価項目で負荷が増えました。たとえば微細画分中のたんぱく質1kgあたりの気候変動への影響は、幅の広い翼の条件で二酸化炭素換算2.11kgだったのに対し、毎分6,500回転の条件では7.96kgでした。各条件の使用エネルギーは同程度だったため、収量の低下が負荷の増加につながったと著者らは説明しています。一方、粗画分も価値ある副産物として負荷を分け合う計算にすると、この傾向は変わりました。重量に応じて配分した場合、たんぱく質1kgあたりの負荷は精製を進めるほど低下し、経済的価値に応じて配分した場合はわずかな増加にとどまりました。

研究が示すこと

著者らは、乾式分画をたんぱく質の濃さだけを基準に最適化することは必ずしも最善ではなく、粗画分の性質を損ない、工程全体の環境負荷を高める場合があると結論づけています。調べたすべての粗画分は食品の食感や構造をつくる素材として高い可能性を示したとされ、粗画分を単なる副産物ではなく価値ある産出物として扱うことの重要性が強調されています。また、粗画分をどう活用するかによって、条件ごとの環境面での比較結果そのものが変わることも示されました。この研究は、工業規模の設備をバッチ運転で用いた試験に基づくものであり、豆からたんぱく質を取り出す工程を、濃さ・副産物・環境負荷を合わせて考える視点を提示しています。

原著論文の著者・所属:Nicola Cesario Angelino(Department of Food Science, Aarhus University)、Tryfon Kekes(Laboratory of Process Analysis and Design, School of Chemical Engineering, National Technical University of Athens)、Fotini Drosou(Laboratory of Process Analysis and Design, School of Chemical Engineering, National Technical University of Athens)、Jürgen Zeller(Hosokawa Alpine AG, Augsburg, Germany)、Milena Corredig(Department of Food Science, Aarhus University)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Nicola Cesario Angelino, Tryfon Kekes, Fotini Drosou, et al. Dry fractionation of chickpea flour: balancing protein enrichment, coproduct functionality and environmental sustainability. Frontiers in Nutrition 2026-10-08. DOI: 10.3389/fnut.2026.1984022. 原著ライセンス:CC BY.