この研究は、中国の研究機関の研究論文です。

掲載誌:Frontiers in Nutrition

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的

食事だけでは必要な栄養をとりきれない人のために、経口栄養補助食品(ONS)と呼ばれる飲むタイプの栄養剤が広く使われています。手術後の患者やがん治療中の人、虚弱な高齢者などが対象です。ただし、多くの市販品はエネルギーと必須栄養素の補給を主な目的として作られています。炎症からの回復や腸内細菌への影響については、まだ十分に分かっていません。

研究チームは、穀物、果物、野菜、プレバイオティクス(腸内細菌のえさとなる成分)など、自然の食品に由来する素材で新しい栄養補助食品を開発しました。論文ではこれを「食品ベース処方(FBF)」と呼んでいます。著者らは、軽い全身性炎症を起こしたマウスにこの処方を与え、炎症からの回復や腸内細菌の構成に影響するかを、市販のミルクベース処方(MBF)と比べて調べました。

どのように調べたか

実験には雄のマウス21匹を使い、7匹ずつ3群に分けました。健康対照群、ミルクベース処方群、食品ベース処方群です。2つの処方群には、細菌の細胞壁成分であるリポ多糖(LPS)を腹腔に注射し、軽い全身性炎症を起こしました。健康対照群には生理食塩水を注射しました。その後の10日間、処方群のマウスには通常の餌の代わりにそれぞれの処方を水に溶かした液を自由に飲ませました。

2つの処方は栄養組成をそろえていません。たとえば粗繊維は、食品ベース処方が6.0%、ミルクベース処方が0.8%でした。粗脂肪もそれぞれ30.0%と18.3%で、量が異なります。

実験の終わりには、血液中の炎症性サイトカイン(炎症を伝える信号物質)であるTNF-α、IL-1β、IL-6を測りました。あわせて、大腸の組織を顕微鏡で観察し、ふんに含まれる細菌の遺伝子を解析して腸内細菌の種類と構成を調べました。

主な結果

LPSを注射した2つの処方群では、どちらも免疫の活性化を示す脾臓の重さの割合が健康対照群より大きくなりました。体重は一時的に減ったあと回復しました。これらの点で2つの処方群に差はなく、全身の状態はおおむね同程度だったと著者らは報告しています。

血液中のサイトカインでは、TNF-αに群間の差は見られませんでした。IL-1βは2つの処方群とも健康対照群より高いままでした。一方、IL-6はミルクベース処方群で健康対照群より高かったのに対し、食品ベース処方群では健康対照群との間に有意な差がありませんでした。大腸の組織では、食品ベース処方群で粘膜の乱れや炎症細胞の集まりが少ない傾向が見られました。ただし、病理スコアの差は統計的に有意ではありませんでした。

腸内細菌については、食品ベース処方群のほうが、細菌の種類の豊かさや多様性を示す指標がミルクベース処方群より高く出ました。細菌集団の全体的な構成を比べると、食品ベース処方群のほうが健康対照群に近いことも示されました。個別の細菌では、炎症との関連が過去に報告されているエリュシペロトリクス科がミルクベース処方群で増えていました。食品ベース処方群では比較的少ない水準でした。また、酪酸の産生と関連づけられている細菌グループ(Lachnospiraceae_NK4A136_group)は、ミルクベース処方群で減っていましたが、食品ベース処方群では健康対照群と同程度に保たれていました。

この研究が示すこと

著者らは、炎症を起こしたマウスでは、食品素材でつくった栄養処方のほうがミルクベースの処方よりも、血中IL-6が低い状態や健康な個体に近い腸内細菌の構成と結びついていたと結論づけています。栄養補助食品の中身の違いが、炎症後の回復の過程や腸内環境に関わる可能性を示した結果です。

一方で、論文はこの研究の限界も挙げています。比較は2つの処方の間に限られ、LPSを注射して通常の餌を与えた群は設けていません。また、2つの処方は栄養組成が異なるため、食物繊維や脂肪など、どの成分が違いを生んだのかは特定できていません。腸内細菌の代謝物や腸のバリア機能も直接は測っていないため、観察された関連が因果関係なのかどうかや、その仕組みはまだ分かっていません。

著者:Xiaolan Ying(Department of Clinical Nutrition, Shanghai Children's Medical Center, Shanghai Jiao Tong University School of Medicine)、Jing Li(Department of Clinical Nutrition, Shanghai Children's Medical Center, Shanghai Jiao Tong University School of Medicine)、Yue Tang(Department of Clinical Nutrition, Shanghai Children's Medical Center, Shanghai Jiao Tong University School of Medicine)、Guoliang Lu(Department of Clinical Nutrition, Shanghai Children's Medical Center, Shanghai Jiao Tong University School of Medicine)、Li Hong(Department of Clinical Nutrition, Shanghai Children's Medical Center, Shanghai Jiao Tong University School of Medicine)、Zhiyan Zhan(Clinical Research Center, Shanghai Children’s Medical Center, Shanghai Jiao Tong University School of Medicine)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Xiaolan Ying, Jing Li, Yue Tang, et al. Food-based formula modulates gut microbial homeostasis and inflammatory responses following LPS challenge in mice. Frontiers in Nutrition 2026-10-01. DOI: 10.3389/fnut.2026.1932946. 原著ライセンス:CC BY.