著者の所属・活動拠点の国は、イギリス、キプロスです。

掲載誌:Frontiers in Nutrition

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

なぜ「発症前」の食事に注目するのか

関節リウマチは、免疫の働きが自分の体に向かい、関節に炎症を起こす自己免疫疾患です。炎症が続くと関節や骨が傷み、痛みやこわばり、疲労感が生じます。影響は関節にとどまらず、心臓や肺、血管などの合併症にもつながります。著者らが紹介した推計では、世界の有病率は人口10万人あたり460人です。

関節リウマチでは、はっきりした症状が出る数年前から「前臨床期」と呼ばれる段階があると考えられています。この時期には、症状はなくても体の中で炎症が始まり、関節リウマチに関係する自己抗体が血液中に現れることがあります。前臨床期の経過には、変えられない遺伝的な体質と、生活の中で変えられる環境要因の両方が関わるとされます。食事は後者の代表です。

研究チームは、食事が肥満、全身の炎症、腸などの粘膜の免疫、腸内細菌、心臓や代謝の病気を通じて、関節リウマチのリスクに関わる可能性があると考えました。そこで、食事のパターンや特定の栄養に着目した研究を集め、関節リウマチの発症リスクとの関係を整理して批判的に検討しました。PubMedとGoogle Scholarで文献を探し、発症との関連性に基づいて、系統的レビュー、観察研究、介入研究を取り上げています。

地中海食・西洋型の食事と発症リスク

多く研究されてきたのは地中海食です。地中海食は、精製していない穀物、果物、野菜、豆類、エキストラバージンオリーブオイルなどの植物性食品を中心にします。鶏肉、乳製品、卵はほどほどに食べ、甘いものや赤身の肉は控えます。フランスの女性を対象にした追跡研究では、喫煙歴のある女性で、地中海食によく従っている人ほど関節リウマチのリスクが低いという関連がみられました(ハザード比0.91)。一方、喫煙しない女性ではこの関連はみられませんでした。著者らは、喫煙のような他の環境要因が食事との関係に影響しうる例として、この結果を紹介しています。

男女を含む11万7341人を対象にしたコホート研究と系統的レビューの結果も紹介されています。地中海食への順守度が最も高い4分の1の人たちは、最も低い4分の1の人たちに比べて、関節リウマチを発症するリスクが低くなっていました(ハザード比0.71)。別の研究では、地中海食への順守度が高いことは、リウマトイド因子という自己抗体が陽性のタイプの関節リウマチのリスク低下と関連していました(オッズ比0.69)。陰性のタイプでは、有意な関連はみられませんでした。

対照的に取り上げられたのが「西洋型の食事」です。赤身肉や加工肉、精製された炭水化物、添加糖、塩分、超加工食品が多い食事を指します。超加工食品とは、保存料、乳化剤、甘味料、着色料や香料などの添加物を含み、工業的に作られた食品のことです。著者らによると、食物繊維が少ない食事は腸内細菌の多様性を下げ、免疫を整える短鎖脂肪酸(酪酸など)の産生を減らす可能性があります。その結果、腸のバリア機能が弱まり、炎症が促されると考えられています。英国バイオバンクの20万7012人を対象にした研究では、超加工食品の摂取量が標準偏差1つ分増えるごとに、関節リウマチのリスクが6%高くなるという関連が報告されました。

食事全体の質についての研究もあります。米国の看護師を対象にした研究では、健康的な食事の指標に長く沿っている55歳以下の女性で、自己抗体が陽性のタイプの関節リウマチのリスクが低くなっていました(ハザード比0.67)。スウェーデンの女性3万2232人を7.5年追跡した研究では、オメガ3脂肪酸(n-3系多価不飽和脂肪酸)を1日0.21グラムより多くとる人で、リスクが52%低くなっていました。週1回以上魚を食べる人でも29%低い傾向がみられましたが、この差は統計的に有意ではありませんでした。オメガ3脂肪酸は青魚、魚介類、クルミ、亜麻仁などに含まれ、炎症を促す物質の産生を抑える働きがあると説明されています。

発症前の免疫の変化と食事のつながり

著者らは、前臨床期から発症に至る過程に、食事がどう関わりうるかも整理しています。関節リウマチになりやすい遺伝的体質の寄与は、発症しやすさのおよそ30〜60%とされ、残りは環境要因によると考えられています。

遺伝的にリスクの高い、まだ関節リウマチではない人たちを対象にした研究も紹介されています。赤血球中のオメガ3脂肪酸の濃度が高いほど、関節リウマチに関係する自己抗体(抗CCP抗体)が陽性になりにくいという関連がみられました(標準偏差1つ分あたりオッズ比0.47)。ただし著者らは、この研究では、その後に実際に関節リウマチを発症したかどうかは調べられていないと注意を促しています。

もう一つの視点が、腸などの粘膜で起きた免疫の乱れが全身の自己免疫につながり、関節の炎症に先立つという「粘膜起源仮説」です。果物、野菜、豆類に含まれる水溶性食物繊維は、有益な腸内細菌を育て、腸のバリアを守るとされます。一方、西洋型の食事は、腸内細菌のバランスの乱れ(ディスバイオシス)を招く可能性があります。また、前臨床期の人では、対照とした第一度近親者(親・きょうだい・子)に比べてプレボテラ属の細菌が多かったという報告も紹介されています。ただし著者らは、こうした経路の多くは今後さらに確かめる必要があり、証拠はまだ限られていると述べています。

この研究から伝わること

著者らは、これまでの観察研究から、地中海食によく従うことと関節リウマチのリスクの低さとの関連がおおむね示されていると整理しました。一方、西洋型の食事は炎症を促す変化と結びつけられています。ただし、検討した証拠の多くは、すでに関節リウマチを発症した人や一般集団を対象にした研究から得られたものです。発症前の段階にある人を対象に、食事を変えると発症への進行が変わるかを直接示した証拠は、まだ不足しています。観察研究では因果関係を確かめられないこと、研究ごとに食事の質を測る指標が異なり比較しにくいことも、限界として挙げられています。

著者らは、医療現場とのずれにも触れています。関節の痛みがあり自己抗体が陽性の、発症リスクのある100人を調べた研究では、全員が生活習慣を少なくとも一つは変える意思を示しました。多くは果物や野菜を増やすことを選んでいます。一方、リウマチ専門医49人は、裏付けとなる証拠が乏しいと感じており、リスクのある患者全員には生活指導をしていませんでした。

このレビューは、食事が関節リウマチの発症に関わる、変えられる要因の候補であることを示しています。同時に、「食事で発症を防げる」と言える段階にはまだないことも明確にしています。期待と確かな証拠との間にある距離を整理した点に、この研究の意味があります。

原著論文の著者・所属:Maria V. M. Karadimova-Watts(GKT School of Medical Education, King's College London)、Elena Philippou(Department of Life Sciences, School of Life and Health Sciences, University of Nicosia; Department of Nutritional Sciences, King's College London)、Elena Nikiphorou(Centre for Education, Faculty of Life Sciences and Medicine, King’s College London; Centre for Rheumatic Diseases, School of Immunology and Microbial Sciences, Faculty of Life Sciences and Medicine, King’s College London; Department of Rheumatology, King's College Hospital)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Maria V. M. Karadimova-Watts, Elena Philippou, Elena Nikiphorou. Can nutrition prevent the onset of Rheumatoid Arthritis? A mini review of dietary risk and progression from pre-clinical autoimmunity. Frontiers in Nutrition 2026-10-26. DOI: 10.3389/fnut.2026.1864271. 原著ライセンス:CC BY.