著者の所属・活動拠点の国は、台湾です。
掲載誌:Frontiers in Nutrition
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
2型糖尿病は世界的に多い慢性疾患で、神経や代謝のさまざまな合併症を伴います。著者らによると、2型糖尿病の人では、低血糖の繰り返し、脳の細い血管の障害、脳卒中などの脳血管の病気、慢性的な炎症などを背景に、てんかんや発作が起こりやすいとされています。一方で、この合併症は比較的見過ごされがちであり、リスクに関わる要因を明らかにすることは臨床的に意味があると論文は述べています。
ビタミンDが不足した状態(ビタミンD欠乏)は2型糖尿病の人によく見られます。ビタミンDは骨やミネラルの代謝だけでなく、神経細胞内のカルシウムの調節や炎症を抑える働きなど、神経の興奮しやすさに関わる経路にも作用するとされています。しかし、これまでの研究の多くは、すでにてんかんと診断された人にビタミンD欠乏が多いという逆向きの関係を調べたものでした。遺伝情報を用いて因果関係を推定する研究(メンデルランダム化研究)でも、結果は一致していないか、関連が見られないものがほとんどでした。実際の診療で測定されたビタミンD欠乏が、その後のてんかんや発作の発症に先立って見られるのかを、2型糖尿病の人に絞って長期的に追った研究はありませんでした。研究チームはこの点を調べることを目的としました。
どのように調べたか
研究チームは、複数の地域にわたる150以上の医療機関の匿名化された電子カルテ情報を集めたデータベース「TriNetX」を用い、過去の記録をさかのぼって分析しました。対象は、2013年から2023年の間に血中の25-ヒドロキシビタミンD(体内のビタミンD量の目安となる値)を測定した、18歳以上の2型糖尿病の人です。この値が20 ng/mL未満の人をビタミンD欠乏群、30 ng/mL以上の人を比較群としました。その前の5年間の測定値も確認し、一時的ではなく持続的にその状態にあると考えられる人に絞っています。
すでにてんかんや発作の診断がある人、抗てんかん薬を使っている人は除外しました。さらに、測定から1年以内にてんかんの診断や抗てんかん薬の使用があった人や、その間に亡くなった人も除き、1年が過ぎてから追跡を始めました。これは、もともと隠れていた病気の影響などを減らすための工夫です。重い腎臓病や肝硬変、腸の病気、脳腫瘍や認知症など、ビタミンDの値や発作のリスクに大きく影響しうる病気がある人も除外しています。
二つの群は年齢や人種などが大きく異なっていたため、年齢・性別・持病・薬・検査値・過去の低血糖などがよく似た人どうしを1対1で組み合わせる手法(傾向スコアマッチング)を用い、各群13万5329人ずつを比較しました。追跡期間は最長12年で、平均はおよそ5年でした。
主な結果
ビタミンD欠乏群では、その後にてんかんまたは発作と診断された人の割合が1.10%で、比較群の0.78%より高く、発症リスクはおよそ1.37倍(ハザード比1.37、95%信頼区間1.26〜1.48)でした。ただし著者らは、両群の差は割合にして0.32ポイントと小さいことを強調しています。
てんかんの種類別に見ても同様の傾向があり、薬が効きにくい「難治性てんかん」で最も大きな差(ハザード比1.92)が報告されました。ビタミンD欠乏群では抗てんかん薬の使用や、原因を問わない死亡も多く見られました。年齢別では65歳を超える人で関連がより強く見られました。
結果の確かさを点検するため、研究チームは関連が予想される病気と予想されない病気も調べました。ビタミンD欠乏と関係の深い副甲状腺の病気(続発性副甲状腺機能亢進症)は欠乏群で多く、関係がないと考えられる急性虫垂炎では明らかな差はなく、想定どおりのパターンでした。分析条件を変えた複数の検討でも主な関連は保たれていました。
また、ビタミンD不足(20〜29.9 ng/mL)、欠乏(20 ng/mL未満)、重度欠乏(10 ng/mL未満)の順に、てんかん・発作のリスクの推定値が1.23、1.37、1.44と高くなる傾向が見られました。ただし、これは統計的な傾向の検定を行っていない探索的な結果であり、量に応じた関係が確認されたわけではないと論文は述べています。
この研究が示すこと
著者らは、診療で測定されたビタミンD欠乏が、2型糖尿病の人でその後のてんかんや発作が起こりやすいことを示す目印(リスクマーカー)になりうると結論づけています。一方で、この研究は記録を用いた観察研究であり、日光を浴びる量や食事、運動、ビタミンDサプリメントの使用、糖尿病の罹病期間などの情報はなく、診断も病名コードに基づいています。対象もビタミンDを測定した2型糖尿病の成人に限られます。
そのため論文は、ビタミンD欠乏がてんかんの原因であることを示したものではなく、ビタミンDの補充でてんかんや発作を防げることを示したものでもないとしています。ビタミンDの低さは、代謝や血管、栄養面の弱さを抱えた人を見つける手がかりになる可能性がある、というのがこの研究の伝える内容です。
原著論文の著者・所属:Ming Yew(Department of Anesthesiology, Chi Mei Medical Center)、Ping-Hsin Liu(Department of Anesthesiology, E-Da Hospital, I-Shou University)、Ping-Hsun Feng(Department of Anesthesiology, Chi Mei Hospital, Liouying)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Ming Yew, Ping-Hsin Liu, Ping-Hsun Feng. Vitamin D deficiency and long-term risk of epilepsy or seizure in type 2 diabetes: a multicenter real-world cohort study. Frontiers in Nutrition 2026-08-07. DOI: 10.3389/fnut.2026.1910295. 原著ライセンス:CC BY.