掲載誌:Zenodo (CERN European Organization for Nuclear Research)

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的

関節リウマチは、免疫の仕組みが誤って自分の関節を攻撃してしまう慢性の自己免疫疾患です。関節の内側を覆う滑膜に炎症が続き、軟骨や骨が少しずつ壊れて、痛みやこわばり、関節の変形につながります。論文によると、世界人口のおよそ0.5〜1%が罹患し、女性は男性の2〜3倍多く発症するとされています。発症には遺伝的な素因に加え、喫煙、歯周病、ホルモン、腸内細菌などが関わると考えられています。

こうした要因の一つとして、近年は一般向けのメディアを中心に、植物性食品に含まれる「反栄養素」が注目されてきました。反栄養素とは、植物が害虫や環境ストレスから身を守るために持つ成分で、ミネラルなど栄養素の吸収や利用を妨げることがあるものの総称です。代表例として、豆類や穀物に含まれるレクチン、穀物や豆・種子に含まれるフィチン酸(フィテート)、ほうれん草などに含まれるシュウ酸、キャベツやブロッコリーなどに含まれ甲状腺でのヨウ素利用を妨げうるゴイトロゲンが挙げられます。

研究チームは、こうした反栄養素が関節リウマチの発症や病気の勢い(疾患活動性)に関わるのかについて、これまでの知見を整理する総説をまとめました。

何を調べたか

著者らは、主な反栄養素の性質を確認したうえで、反栄養素と関節リウマチを結びつけるとされる仮説を検討しました。中心となるのは、レクチンなどが腸の内壁に作用して腸のバリアを弱め、物質が通り抜けやすい状態(いわゆる「リーキーガット」)を招き、腸内細菌のバランスを変え、さらに免疫を刺激するという筋書きです。ここには、細菌などの成分が体の成分と似ているために免疫が自分の組織まで攻撃してしまう「分子模倣」という考え方も含まれます。

あわせて、関節リウマチと腸内細菌の乱れに関する研究、そして反栄養素を制限する食事やほかの食事法が関節リウマチの管理に役立つかを調べた臨床試験の知見も取り上げています。

一方で論文は、反栄養素には栄養吸収を妨げる面だけでなく、抗酸化や抗炎症などの有益な性質も報告されていること、また浸水、加熱、発酵、発芽といった一般的な調理・加工で含有量が大きく減ることにも触れています。

主な報告

著者らによると、実験室や動物の研究からは、レクチンなどが理論上、自己免疫の活性化に関与しうるという生物学的にあり得る仕組みが示されています。しかし、反栄養素の摂取量と関節リウマチの発症や疾患活動性を直接結びつける、比較対照を置いた人での研究は乏しく、結論は出ていないと論文は述べています。

腸内細菌の乱れや分子模倣が関節リウマチの成り立ちに実際に関わることについては、これより強い根拠があるとされています。ただし論文は、それらの研究は腸内細菌の構成全般を扱ったもので、反栄養素そのものが決め手であることを示したわけではないと注意を促しています。

臨床試験の段階では、反栄養素の除去だけを取り出して疾患活動性への効果を確かめた質の高いランダム化比較試験はないと報告されています。対照的に、豆類や全粒穀物といった反栄養素を含む食品をむしろ取り入れる地中海式食事は、食事による介入のなかで、関節リウマチの状態を控えめながら改善するという試験上の根拠が最も強いとされました。著者らは、こうした結果は反栄養素を避けることよりも、食事全体の質、食物繊維やポリフェノールの摂取、脂肪酸のバランスなどが効果に関わっているという見方とよく合うと述べています。

この総説が示すこと

著者らは、反栄養素を一律に避けることは、現時点では根拠に基づく関節リウマチの管理法として支持されないと結論づけています。厳格な除去は、専門家の管理なしに行うと栄養不足を招くおそれもあるとしています。より根拠に沿った方法として論文が挙げるのは、含有量を減らす通常の調理法と、地中海式食事のように試験の裏付けがある食事パターンの組み合わせで、食事の工夫は標準的な薬物治療を補うものであって置き換えるものではないとされています。

この総説は、仕組みとしてもっともらしく見えることと、人で効果が確かめられていることの間には大きな隔たりがあり、反栄養素と関節リウマチの関係はまだ後者に達していないことを示しています。

原著論文の著者・所属:Gokul D, Deepak Venkataraman N*, Aazath D, Aswini R. P, Dinesh M, Girija P, Aishwarya. M. R, Tejasri. V. S

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Gokul D, Deepak Venkataraman N*, Aazath D, Aswini R. P, Dinesh M, Girija P, Aishwarya. M. R, Tejasri. V. S. Review: Influence of Dietary Antinutrients on Rheumatoid Arthritis. Zenodo (CERN European Organization for Nuclear Research) 2026-08-06. DOI: 10.5281/zenodo.21820989. 原著ライセンス:CC BY.