この研究は、中国の研究機関の研究論文です。
掲載誌:Frontiers in Endocrinology
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的と背景
多内分泌代謝性卵巣症候群(PMOS)は、生殖年齢の女性に多い内分泌・代謝の病気で、2026年に国際的な合意の手続きを経て、それまでの「多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)」から名称が変更されました。論文の説明によれば、この新しい呼び方は、卵巣の嚢胞だけが本質的な特徴であるかのような印象を避け、全身の内分泌と代謝にまたがる病態をより的確に表すために採られたものです。インスリン抵抗性(血糖を下げるホルモンであるインスリンが効きにくくなった状態)、男性ホルモンの過剰、排卵の乱れ、肥満が特徴として挙げられます。
著者らは、中国の疫学データを引用し、PMOSの有病率が10.01%で、患者の約80%が過体重または肥満に該当し、腹部の肥満(ウエスト周囲85 cm超)は48.25%にみられると述べています。生活習慣と栄養の改善はPMOSの第一選択の治療とされますが、従来の総エネルギー制限は長続きしにくいという課題が指摘されてきました。一方、糖質を大きく減らすケトン食は体重や血糖の指標を改善しうるものの、飽和脂肪が多く食物繊維が少なくなりがちで、主食を重んじる中国の食習慣とも折り合いにくいと論文は整理しています。
そこで研究チームは、中国の2022年版食事ガイドラインに示された伝統的食事の改良版である「東アジア健康食パターン(EHDP、江南の食事が代表例)」の考え方をケトン食に組み込み、肥満を伴うPMOSの中国人患者に対するその有効性と安全性を評価することを目的としました。文化に適合した栄養介入の手がかりを得ることがねらいです。
どのような方法で調べたか
この研究は単群・自己対照試験(比較のための対照群を置かず、同じ参加者の介入前後を比べる設計)です。浙江中医薬大学附属第二医院の臨床栄養外来を2024年2月から2025年9月の間に受診したPMOSかつ肥満(BMI 28 kg/m²以上)の患者55人が参加し、12週間の段階的な食事介入を受けました。平均年齢は27.8歳でした。著者らは、探索的な単群研究であるため事前の症例数・検出力の計算は行っていないと明記しています。
食事の内容は、糖質を1日30〜50 gに抑え、脂質が総エネルギーの60〜70%、たんぱく質が20〜27%を占める設計です。脂質は椿油・オリーブ油・亜麻仁油などの不飽和脂肪酸を優先し、たんぱく質は魚やエビ(週300〜500 g)、豆腐や豆乳などの大豆製品(1日50〜100 g)、卵、赤身肉から取ります。食物繊維は1日25 g以上を目標とし、濃い緑色の葉物野菜、きのこ、こんにゃくで補い、不足する場合は補助食品を1日10〜15 g使いました。参考献立は1日1200〜1400 kcalです。
介入は3段階に分かれ、開始前の1週間に管理栄養士が食習慣を聞き取って個別の献立を作成し、1〜2週目は糖質を1日100 gから目標値まで徐々に減らして消化器症状や低血糖を避け(論文が「柔軟なケトーシス」と呼ぶ進め方)、3〜12週目は目標の食事を続けながら4週ごとに面談しました。参加者は毎日の食事記録をつけ、週ごとに尿中ケトン体の検査紙で遵守状況を確認しました。評価項目は体組成(生体電気インピーダンス法)、血液の代謝指標、生殖ホルモン、肝臓の超音波指標、月経に関する症状などで、55人全員が追跡を完了しました。
報告された主な結果
まず食事が守られていた指標として、血中のβ-ヒドロキシ酪酸(体が糖質の代わりに脂肪を使うときに増えるケトン体の一つ)は目標範囲の0.5〜3.0 mmol/Lに収まり、12週目には1.24 mmol/Lに達したと報告されています。
体組成では、体重が平均9.97 kg(10.63%)減り、体脂肪量は7.53 kg、内臓脂肪面積は35.81 cm²減少しました。骨格筋量も1.60 kg減っており、著者らは脂肪の減少が筋肉関連の指標の減少を上回ったと述べる一方で、この筋肉量と除脂肪量の減少を軽視すべきではないとも書いています。代謝面では、インスリン抵抗性の指標であるHOMA-IRが48.8%低下し、中性脂肪は1.60から1.08 mmol/Lへ下がりました。脂質が総エネルギーの6〜7割を占める食事でありながら、LDLコレステロールや小型高密度LDLは有意に増えなかったと報告されています。肝臓の酵素であるALTとASTも有意に低下しました。
生殖ホルモンでは、総テストステロンが35.8%、黄体形成ホルモン(LH)が55.5%低下し、卵胞刺激ホルモン(FSH)は変化しなかったため、LH/FSH比は正常範囲に近づきました。血中の25-ヒドロキシビタミンDは17.86から23.90 ng/mLへ上昇しました。月経に関する症状も改善し、平均の周期の長さは51.0日から38.2日に短くなり、12週目には中等度以上の月経痛を訴える人はいなくなりました。血液、腎機能、たんぱく・ビリルビンの各指標には有意な変化がなく、著者らは安全性の面で臨床的に問題となる変化はみられなかったとしています。
この報告が意味すること
著者らは、12週間のEHDP改変ケトン食が、肥満を伴うPMOSの中国人患者において体組成・代謝指標・生殖ホルモン・臨床症状の改善と関連していたと結論づけています。同時に、対照群を置かない単群研究であるため因果関係は示せないこと、単施設で55人という限られた規模であること、排卵は確認しておらず代謝の改善が月経の変化をもたらしたとは言えないことを、自ら限界として挙げています。結果は暫定的なものであり、確認には対照試験が必要だという立場です。
この研究が示しているのは、糖質を制限する食事を、その土地で親しまれている食材や調理法に寄せて設計するという発想が、臨床の場で実際に試され、記録されたということです。魚やエビ、大豆製品、緑の濃い野菜といった身近な食べ物を用い、糖質を段階的に減らす進め方をとった今回の介入では、55人全員が12週間を完了しました。食事療法の効き目を語るうえで、続けられる形になっているかどうかも一つの論点であることを、この報告は具体的な数字とともに示しています。
著者:Qiuxia Chen(The Second Affiliated Hospital of Zhejiang Chinese Medical University)、Pianhong Zhang(The Second Affiliated Hospital of Zhejiang University)、Minhui Dai(Xiangya Hospital of Central South University)、Yuting Feng(The Second Affiliated Hospital of Zhejiang Chinese Medical University)、Xiao Yu(The Second Affiliated Hospital of Zhejiang Chinese Medical University)、Pingping Zhao(Shulan International Medical College, Zhejiang Shuren University)、Xiaoming He(The Second Affiliated Hospital of Zhejiang Chinese Medical University)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Qiuxia Chen, Pianhong Zhang, Minhui Dai, et al. Efficacy of an Eastern Healthy Dietary Pattern-modified ketogenic diet in patients with obesity and polyendocrine metabolic ovarian syndrome. Frontiers in Endocrinology 2026-09-28. DOI: 10.3389/fendo.2026.1948375. 原著ライセンス:CC BY.