著者の所属・活動拠点の国は、イギリス、メキシコです。
掲載誌:Clinical bioenergetics
ライセンス: CC BY 4.0 対象: 公開論文 確認元: 論文PDF
研究の目的
炭水化物を大きく減らした食事を続けると、体は脂肪から作られる「ケトン体」を主なエネルギー源の一つとして使うようになります。この状態を栄養的ケトーシスと呼び、血中のケトン体が適度に高い状態が保たれます。著者らは、血中インスリンが高い状態が続くことを代謝の乱れの中心的な要因と位置づけ、ケトーシスとインスリンの関係に注目してきました。
今回の研究で調べたのは、血液中を流れる「細胞外小胞(EV)」です。EVは細胞が放出するごく小さな膜の袋で、細胞どうしの情報のやり取りに関わると考えられています。著者らによると、長期間ケトーシスを維持してきた代謝的に健康な閉経前の女性で、ケトーシスを止めたときに血中EVがどう変わるかを調べた研究はこれまでありませんでした。そこで研究チームは、血中EVを取り出して数と大きさを測り、食習慣の変化や代謝・ホルモンの指標との関係を探ることを目的としました。
どのように調べたか
参加者は、ケトン食を習慣的に続けてきた健康でやせ型の閉経前女性10人です。平均年齢は約32歳、平均BMIは約20.5で、ケトーシスを保つ生活を6か月以上、平均で約3.9年続けていました。
試験は3つの段階で構成されました。まず普段どおりのケトーシスの状態(第1期)、次にケトーシスを抑える21日間の介入(第2期)、最後に介入をやめてケトーシスに戻した状態(第3期)です。参加者全員が3つの段階をすべて経験し、同じ人の中で変化を比べる設計です。参加者も研究者も介入内容を知っており、段階の順番は無作為に決めていません。各段階の終わりに、一晩12時間絶食した後の朝8時に採血と体の測定を行いました。
研究チームは少量の血漿から遠心分離でEVを取り出し、粒子の濃度(数)、平均の大きさ、最も多い大きさ(最頻値)を測りました。さらに、インスリン、血糖、ケトン体の一種であるβ-ヒドロキシ酪酸(BHB)、甲状腺ホルモン、肝臓の酵素、性ホルモン、炎症に関わる物質などの血中指標を測定し、EVの値との関係を統計モデルで調べました。
主な結果
ケトーシスを抑えた第2期には、血中の代謝指標がはっきり変わりました。論文の報告では、空腹時インスリンの平均は第1期の約4.95µIU/mLから第2期に約9.06µIU/mLへ上がり、BHBは約2.43mmol/Lから約0.18mmol/Lへ下がりました。血糖、体重の指標、肝臓の酵素の一部なども第2期に変化し、第3期にケトーシスへ戻ると元の傾向に近づきました。
一方、EVの濃度、平均の大きさ、最頻値の大きさは、3つの段階の間で統計的に意味のある差を示しませんでした。ただし、ケトーシスを抑えた第2期にはEV濃度が増える方向の傾向が見られたと著者らは述べています。
個人ごとの変化を考慮した解析では、EVの値といくつかの血中指標との間に関連の候補が見つかりました。例えばEVの最頻値の大きさは、インスリン、甲状腺ホルモン、肝臓の酵素(ALT、AST)などが高いほど小さく、BHBやエストロゲンが高いほど大きい傾向を示しました。平均の大きさはHDLコレステロールと正の関連を示しました。しかし、300を超える組み合わせを検定しているため、偶然による見かけの関連を補正すると、これらの関連はいずれも統計的に有意ではなくなりました。著者ら自身、これらの結果は探索的なものとして解釈すべきだとしています。
著者らは、参加者が10人と少ないこと、無作為化していない非盲検の設計であること、対象がやせ型で長期のケトン食実践者という限られた集団であることを限界として挙げています。
この研究が示すこと
この研究は、長期間ケトーシスを保ってきた健康な女性で、ケトーシスを一時的に止めたときの血中EVを初めて調べたものです。EVの数や大きさに段階間の明確な差は確認されませんでしたが、インスリンやケトン体などの代謝指標とEVの間には、互いに連動しているような関連のパターンが見られました。
著者らはこれを、インスリンが高くケトン体が少ない代謝状態にEVが敏感である可能性を示す予備的な証拠と位置づけています。関連はいずれも多重比較の補正後に有意ではなく、確かな結論ではなく今後確かめるべき手がかりとして示された結果です。
原著論文の著者・所属:Isabella D. Cooper(Metabolic Endocrine Cancer Cardiovascular and Ageing Research Group, Centre for Nutraceuticals, School of Life Sciences, University of Westminster, 115 New Cavendish Street, London W1W 6UW, UK)、Lucy Petagine(Neuroscience, Inflammatory Disorders & Therapeutics Group, Research Centre for Nutraceuticals, School of Life Sciences, University of Westminster, London W1W 6UW, UK)、Naja Cooper(Faculty of Science and Engineering, Queen Mary University of London, Mile End Rd, Bethnal Green, London E1 4NS, UK)、Adrian Soto-Mota(School of Medicine, Tecnologico de Monterrey, Mexico City 64710, Mexico; Unidad de Investigación en Enfermedades Metabólicas, Instituto Nacional de Ciencias Médicas y Nutrición Salvador Zubirán, Mexico City 14080, Mexico)、Kurtis Edwards(Cancer Mechanisms and Biomarkers Group, Research Centre for Optimal Health, School of Life Sciences, University of Westminster, London W1W 6UW, UK)、Igor Kraev(Electron Microscopy Suite, Faculty of Science, Technology, Engineer and Mathematics, Open University, Milton Keynes MK7 6AA, UK)、Sigrun Lange(Pathobiology and Extracellular Vesicles Research Group, School of Life Sciences, University of Westminster, London W1W 6UW, UK)、Yvoni Kyriakidou(Metabolic Endocrine Cancer Cardiovascular and Ageing Research Group, Centre for Nutraceuticals, School of Life Sciences, University of Westminster, 115 New Cavendish Street, London W1W 6UW, UK)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Isabella D. Cooper, Lucy Petagine, Naja Cooper, et al. Ketosis Suppression and Ageing (KetoSAge) Trial: Effect of Hypoketonaemia on Extracellular Vesicle Profiles in Healthy Premenopausal Women. Clinical bioenergetics 2026-09-29. DOI: 10.3390/clinbioenerg2040016. 原著ライセンス:CC BY.