著者の所属・活動拠点の国は、オーストラリアです。
掲載誌:Foods (Basel, Switzerland)
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: Europe PMC
研究の目的:ソラマメの「豆くささ」と発酵
植物性たんぱく質の需要が高まるなか、ソラマメは栄養面や栽培面の利点から注目されている豆です。一方で、「豆くさい」「青くさい」「草のよう」と表現される独特のにおいが、食品として広く使われるうえでの課題になっています。これらのにおいは、主に脂質の酸化や、アミノ酸・不飽和脂肪酸の分解によって生じる揮発性の成分(空気中に漂い、においとして感じられる物質)と関係しています。
こうしたにおいを和らげる方法の一つとして、発酵が検討されています。微生物の働きで、もとからある香り成分が別の物質に変わったり、新しい香り成分が生まれたりするためです。研究チームが注目したのは、インドネシアの伝統食品テンペの製法です。テンペは、煮た大豆にクモノスカビの仲間(リゾプス属)を生やし、カビの菌糸で豆粒どうしを結びつけて固形にした発酵食品です。
ソラマメもテンペのような発酵に使えることは以前から報告されています。ただし、カビが広がって固まりができていく過程と、香り成分や、その材料となるアミノ酸・脂肪酸の変化との関係は、あまり分かっていませんでした。また、豆の粒の大きさは、粒どうしのすき間や通気性、水分の分布を左右します。粒の大きさがリゾプス・オリゼの生育量に影響することはこれまでにも示されており、著者ら自身も以前の研究で、粒の大きさやカビの種類が発酵のしやすさや菌糸の発達などに与える影響を調べています。しかし、粒の大きさがソラマメのテンペ風食品の見た目の変化や食感、香り成分にどう影響するかは、系統的には調べられていませんでした。そこで著者らは、発酵時間と粒の大きさがソラマメのテンペ風食品の仕上がりにどう影響するか、そして発酵中に香り成分とその材料がどう変化するかを調べました。
何を調べたか
研究チームは、ソラマメを三つの大きさに分けて用意しました。半割りの豆、4〜5ミリ程度の粒、1〜2ミリ程度の細かい粒です。これらを加熱殺菌し、水分がおよそ50%になるよう水を含ませてから、クモノスカビの仲間であるリゾプス・オリゼの市販スターターを植え付けました。25℃で0、24、40、48時間発酵させています。48時間を上限としたのは、予備実験でそれ以上発酵させると胞子ができて変色したためです。なお、最も細かい粒では、ほかの二つと水分をそろえるために、加える水の量と浸す時間を変えています。
各時点で、カビの広がり方を目で確認し、色を測定しました。テンペらしい固まりができた試料については、器具で押しつぶして硬さなどの食感も測りました。さらに、香り成分を機器分析でおおよその量として比べ、香りの材料になりうる遊離アミノ酸と遊離脂肪酸の量も測定しました。
主な結果
24時間の時点では、カビはまだほとんど目立ちませんでした。40時間になると、すべての試料ではっきりと生育が見られました。半割りと4〜5ミリの試料では白い菌糸が広く覆い、粒どうしをつないでテンペのようにまとまっていました。これに対して、1〜2ミリの細かい粒では生育にむらがあり、一粒一粒が見分けられる状態でした。著者らは、粒が粗いほうがすき間が多く、酸素が行き渡りやすかった可能性を考えています。
色で最もはっきり変わったのは黄色みです。黄色みの指標は、どの粒の大きさでも発酵前の約32から48時間後には19〜21程度に下がりました。一方、明るさや赤みの変化は、粒の大きさや発酵段階によって異なりました。食感は、まとまりができた40時間と48時間の試料で測定しました。硬さは48時間のほうが数値上は高かったものの、統計的に意味のある差ではありませんでした。著者らは、テンペとしての構造の大部分は40時間までにできあがっていたと見ています。
香り成分は、アルコール類、アルデヒド類、ケトン類など合わせて51種類が検出されました。そのうち46種類が発酵時間の影響を受けており、大きな変化は主に24時間から40時間の間に起きていました。粒の大きさが単独で影響した成分は2種類だけでした。発酵の初期には、酸っぱい、汗のような、バターのようなにおいと関係する成分が目立ちましたが、これらは発酵が進むにつれて減りました。代わりに40時間以降は、キノコのような香りの成分(1-オクテン-3-オールなど)、青くさい・脂っぽいとされるアルデヒド類(ヘキサナールなど)、ナッツやローストのような香りとされるピラジン類、ジャガイモのような香りとされるメチオナールなどが増えました。香りの構成は、全体としてより多様になりました。半割りと4〜5ミリの試料では、こうした成分の多くがより豊富でした。細かい粒では、一部のアルコール類のほうが多いことも分かりました。このため著者らは、粒の大きさは香りの強さを一律に上げ下げするのではなく、その中身の組み合わせを変えたとしています。ただし、細かい粒は浸し方の条件も違うため、差のすべてを粒の大きさだけによるものとは言えないと注意しています。
香りの材料についても変化が見られました。リノール酸やオレイン酸などの脂肪酸は24時間で増えたあと、40時間以降に減りました。それに続く形で、脂質に由来する香り成分が40時間以降に増えていました。ロイシンやメチオニン、フェニルアラニンなどのアミノ酸は40時間で大きく増え、同じ時期に、それぞれから生じうる香り成分も増えていました。豆は発酵前に加熱殺菌されており、豆自身の酵素の働きは大きく弱まっていたと考えられます。このため著者らは、これらの変化はカビの酵素によるものである可能性が高いとしています。一方で、こうした対応関係は量の変化を比べただけのものです。材料が直接その香り成分に変わったことを確かめたわけではない、とも述べています。
研究が示すこと
この研究は、ソラマメをリゾプス・オリゼで発酵させると、40時間ごろを境に、菌糸によるまとまりと香り成分の多様化が同時に進むことを示しました。香りの変化を決める主な要因は発酵時間でした。粒の大きさは、カビの広がり方や、発酵後半にできる香り成分の組み合わせに関わっていました。また、香り成分とその材料となる脂肪酸・アミノ酸の量の推移を合わせて追うことで、発酵中の香りの変化を、脂質の変化やアミノ酸の分解と結びつけて理解する手がかりが得られています。なお、本研究で紹介した香りの特徴は、検出された成分について一般に知られているにおいの表現です。人が実際に嗅いで評価した結果ではありません。
原著論文の著者・所属:Luo J(La Trobe Institute of Sustainable Agriculture and Food, La Trobe University, Bundoora, Melbourne, VIC 3083, Australia.)、Pang X(La Trobe Institute of Sustainable Agriculture and Food, La Trobe University, Bundoora, Melbourne, VIC 3083, Australia.; Tobacco Research Institute, Chinese Academy of Agricultural Sciences, Qingdao 266101, China.)、Agarwal D(La Trobe Institute of Sustainable Agriculture and Food, La Trobe University, Bundoora, Melbourne, VIC 3083, Australia.)、Buckow R(La Trobe Institute of Sustainable Agriculture and Food, La Trobe University, Bundoora, Melbourne, VIC 3083, Australia.)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Luo J, Pang X, Agarwal D, et al. Physical, Volatile, and Flavour Precursor Changes in Faba Bean During <i>Rhizopus oryzae</i> Fermentation. Foods (Basel, Switzerland) 2026-10-16. DOI: 10.3390/foods15203683. 原著ライセンス:CC BY.