この研究は、韓国の研究機関の研究論文です。
掲載誌:Animal Bioscience
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
食肉製品の品質を左右するのは、筋肉に含まれる「筋原線維タンパク質」と呼ばれる塩に溶けるタンパク質です。このタンパク質は加熱されると網目状の構造をつくり、水を抱え込みながら固まります。この固まる性質(ゲル化)や水を保つ力が、製品の歩留まりや食感を決めています。ただし、これらの性質はpH(酸性・アルカリ性の度合い)の影響を受けやすいことが知られています。
著者らは、植物由来のタンパク質であるソラマメタンパク質分離物(FBPI)に注目しました。ソラマメは持続可能な高タンパク質資源であり、原著によればその分離物は溶解性や乳化力の面で大豆・エンドウ・ホエイ由来の市販品に匹敵する性質をもつと報告されています。一方で、ソラマメタンパク質を食肉タンパク質に加えたとき、pHの違いによってどのような影響が出るのかを調べた研究はほとんどありませんでした。そこで本研究は、pH条件を変えながら、FBPIを加えた豚肉の筋原線維タンパク質ゲルの性質と構造の変化を評価することを目的としています。
何を、どのように調べたか
著者らは市販の豚ロース肉から筋原線維タンパク質を抽出し、タンパク質濃度4%、塩濃度0.45 Mに調整しました。そのうえで、FBPIを加えない対照群と、FBPIを加えた処理群をそれぞれpH 6.00、6.25、6.50の3水準で用意し、合計6つの試料(C6.00・C6.25・C6.50と、F6.00・F6.25・F6.50)を比較しています。
測定したのは、加熱後にどれだけ重量が保たれるかを示す加熱歩留まり、固まったゲルの強さを示すゲル強度、タンパク質の表面に疎水性(水になじみにくい)部分がどれだけ露出しているかを示す表面疎水性、タンパク質の構造に関わるスルフヒドリル基(-SH)の量、そして流動のしにくさを示す粘度(せん断応力)です。あわせて、電気泳動という手法でタンパク質の成分の内訳を調べ、走査型電子顕微鏡でゲルの微細構造を観察しています。統計解析では、pH水準とFBPI添加の2要因について分散分析を行いました。
主な報告結果
まず加熱歩留まりと表面疎水性は、pHが高いほど高くなる傾向が報告されました。対照群で比べると、pH 6.50(C6.50)では加熱歩留まり91.3%・表面疎水性31.3 μgであったのに対し、pH 6.00(C6.00)ではそれぞれ86.9%・26.9 μgでした。またFBPIを加えた試料は、pHにかかわらず対照群より加熱歩留まりとゲル強度が高く、表面疎水性も高い一方で、-SH含量は低いと報告されています。結論部では、FBPI添加により加熱歩留まりが90.6%対87.7%、表面疎水性が33.5 μg対24.9 μgと、いずれも対照群を上回ったことが示されています。
粘度の測定では、対照群のせん断応力がpHによって大きく変わり、pH 6.50で最も高く、pH 6.00で最も低くなりました。これに対しFBPIを加えた試料では、どのpHでもせん断応力の曲線がほぼ重なり、値が安定していたと報告されています。つまりFBPIを加えると、pHの違いによる粘度のばらつきが小さくなったということです。
電気泳動では、FBPIを加えた試料にのみ、およそ42 kDaと50 kDaの位置に2本のバンドが現れました。これはソラマメがもつ7Sおよび11Sグロブリンという貯蔵タンパク質に対応するもので、そのバンドの濃さはpHが高くなるほどわずかに強まりました。顕微鏡観察でも、FBPIを加えた試料は対照群に比べて穴(空隙)が少なく滑らかな表面をもち、とくにpH 6.50(F6.50)ではより緻密で立体的につながった網目構造が見られたと報告されています。著者らは、グロブリンのバンド強度の増加とゲル構造の緻密化が対応していたと述べています。
この研究が示すこと
著者らは、FBPIの添加が豚肉筋原線維タンパク質ゲルの加工特性を改善し、その効果は調整したpH水準にかかわらず認められたと結論づけています。pHとFBPIの間に交互作用が見られなかったことから、pH条件の違いはFBPIによる改善の働きを妨げなかったと報告されています。一方で、タンパク質の成分構成やゲルの微細構造については、pHに応じた変化が観察されました。
食肉タンパク質の性質はpHに左右されやすいという前提のもとで、植物由来タンパク質を組み合わせた場合に何が保たれ、何が変わるのかを示した点が、この研究の報告内容の中心にあります。
著者:Geon Ho Kim(Department of Animal Science, Chonnam National University, Gwangju, Korea)、Koo Bok Chin(Department of Animal Science, Chonnam National University, Gwangju, Korea. [email protected])
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Geon Ho Kim, Koo Bok Chin. Techno-functional properties and structural changes of pork myofibrillar protein with faba bean protein isolate at various pH levels. Animal Bioscience 2026-09-01. DOI: 10.5713/ab.260446. 原著ライセンス:CC BY.