この研究は、中国、パキスタンの研究機関の研究論文です。

掲載誌:Ultrasonics Sonochemistry

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の背景と目的

植物由来のたんぱく質への関心が高まるなか、ソラマメ(ファバビーン)はたんぱく質を多く含み、栽培の負担が比較的小さい原料として注目されています。ただし著者らによれば、ソラマメのたんぱく質は分子が固く折りたたまれた「球状」の構造をしており、水となじみにくく、消化酵素による分解も受けにくいという課題があります。そのため、水への溶けやすさや泡立ち・乳化といった加工上の性質(技術的機能性)が十分に発揮されにくいと説明されています。

研究チームは、この構造を物理的な処理でほどよく変化させることに着目しました。加熱はたんぱく質の折りたたみをほどく働きがあり、超音波は液中に微細な気泡が生じて壊れる「キャビテーション」という現象を通じて、かたまりをほぐし分子を分散させます。両者を組み合わせた処理は「サーモソニケーション(加熱超音波処理)」と呼ばれます。著者らは、これまでの研究の多くが構造や加工特性の評価にとどまっていた点を指摘し、構造の変化が消化性や生物活性、とりわけコレステロール代謝の調節にどう結びつくのかを体系的に調べることを本研究の目的としたと述べています。

何を、どのように調べたか

研究チームはまず、ソラマメの粉から等電点沈殿という方法でたんぱく質分離物(FPI)を調製しました。これはpHを調整してたんぱく質を溶かし出し、再び沈殿させて回収する手法で、得られた試料のたんぱく質純度は90.58±0.48%と報告されています。

この分離物に対して、加熱のみを行った試料(H-FPI)、超音波のみを行った試料(U-FPI)、そして先に加熱してから超音波をかける逐次的なサーモソニケーション処理を行った試料(UH-FPI)を用意し、未処理のFPIと比較しました。構造の変化は赤外分光法(FTIR)と円二色性(CD)分光法で調べ、たんぱく質表面に露出した疎水性(水になじみにくい)部分の量を示す表面疎水性も測定しています。加工特性としては、pH3.0〜10.0の幅広い条件での溶解性、泡立ちの性質、乳化の性質が評価されました。

さらに、胃と腸の消化を試験管内で模したモデル(ペプシンとトリプシンを用いる消化試験)で分解のされやすさを調べ、コレステロールに関わる二つの指標も測定しました。一つは、腸内でコレステロールが吸収される際に必要な「ミセル」という微小な集合体へのコレステロールの溶け込みを妨げる働き、もう一つは、体内でコレステロールを合成する経路の律速段階を担う酵素HMG-CoA還元酵素を阻害する働きです。加えて、高脂肪食を与えたハムスターを用いた動物試験も行い、血中の脂質の状態と、コレステロールの代謝に関わる肝臓・腸のたんぱく質の量を調べています。動物試験は倫理委員会の承認を得て実施されたと記されています。

報告された主な結果

構造解析では、処理によってたんぱく質の基本的な化学構造は保たれたまま、立体的な形が変化したことが示されました。特にUH-FPIで変化が最も大きく、著者らは加熱と超音波の併用が単独処理より効果的に構造をほどいたと説明しています。一方で表面疎水性は、未処理のFPIが最も高く、H-FPI、U-FPI、UH-FPIの順に低下しました。著者らはこれを、構造がほどけたのち疎水性の部分どうしが相互作用して再配置されたためと考察しています。

消化のされやすさを示す加水分解度は、未処理のFPIで8.02±2.62%だったのに対し、UH-FPIでは21.72±2.25%へと高まりました。コレステロールのミセルへの溶け込みを妨げる働きは、FPIの23.4±1.13%からUH-FPIでは48.5±0.63%に向上しています。HMG-CoA還元酵素に関する測定値は、FPIの84.17±2.65%からUH-FPIでは58.79±3.52%と報告されており、著者らはこれらの結果を、腸でのコレステロール吸収と体内での合成の両方を抑える可能性を示すものと位置づけています。

高脂肪食を与えたハムスターの試験では、UH-FPIによって血清の脂質プロファイルと、コレステロール代謝に関わるたんぱく質の状態が改善したと報告されています。高脂肪食群と比べたとき、UH-FPIはコレステロールを細胞外へ排出する働きに関わるABCG5・ABCG8、および肝臓でのコレステロール代謝を調節するLXR-α、CYP7A1、LDL受容体の発現を高め、一方で腸からのコレステロール取り込みを担うNPC1L1の発現を低下させたとされています。

この研究が示すこと

著者らは、加熱と超音波を組み合わせた処理によってソラマメたんぱく質の立体構造を作り変えられること、そしてその構造変化が、加工上の機能性や消化性の向上、さらにコレステロール代謝の調節と結びついていることを報告しました。構造がほどけることで酵素が働きかけられる部位が露出し、それが消化性と生物活性の両方に反映されたという見方が示されています。

この研究は、植物性たんぱく質を「どう加工するか」という物理的な工夫が、食品としての扱いやすさだけでなく、体内での働きにも関わりうることを、試験管内の測定と動物試験の両面から示した点に意味があります。

著者:Jawad Ashraf(College of Food Science and Engineering, Bohai University, Jinzhou, Liaoning 121013, China. Electronic address: [email protected])、Muawuz Ijaz(Department of Animal Sciences, CVAS-Jhang 35200, University of Veterinary and Animal Sciences, Lahore 54000, Pakistan)、Zeeshan Ali(College of Food Science and Engineering, Bohai University, Jinzhou, Liaoning 121013, China)、Sanabil Yaqoob(Laboratory of Food Nutrition and Clinical Research, Institute of Seafood, Zhejiang Gongshang University, Hangzhou 310012, China)、Bai Miao(College of Food Science and Engineering, Bohai University, Jinzhou, Liaoning 121013, China)、Hafiz Umer Javeed(Guangxi Zhuang Autonomous Region Engineering Research Centre of Marine Food Nutrition and Processing Technology Innovation, Guangxi College and University Key Laboratory of High-Value Utilization of Seafood and Prepared Food in Beibu Gulf, College of Food Engineering, Beibu Gulf University, Qinzhou 531011 China)、Ayhsa Imtiaz(School of Fisheries and Life Sciences, Shanghai Ocean University, Shanghai China)、Sumei Zhou(School of Food and Health, Beijing Technology and Business University, Beijing 100048, China. Electronic address: [email protected])、Qing Shen(Laboratory of Food Nutrition and Clinical Research, Institute of Seafood, Zhejiang Gongshang University, Hangzhou 310012, China. Electronic address: [email protected])、Ting Chen(Department of Cardiology, First Affiliated Hospital, Zhejiang University School of Medicine, Hangzhou 310003, China. Electronic address: [email protected]

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Jawad Ashraf, Muawuz Ijaz, Zeeshan Ali, et al. Thermosonication-induced structural remodeling of faba bean protein: Improved functionality, digestibility, and cholesterol metabolism regulation for cardiovascular health. Ultrasonics Sonochemistry 2026-09-04. DOI: 10.1016/j.ultsonch.2026.108038. 原著ライセンス:CC BY.