著者の所属・活動拠点の国は、カザフスタン、ウズベキスタンです。
掲載誌:International Journal of Molecular Sciences
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究のねらい
加工が進んだ食肉製品では、表示どおりの動物種が使われているかを外見から確かめることは困難です。表示にない種の混入は、消費者保護や表示の管理だけでなく、宗教上の理由などで特定の食事上の制約を持つ人々にとっても重要な問題になります。
研究チームは、食肉の真正性(表示どおりの中身かどうか)を確かめるために、性質の異なる二つの分析方法を検討しました。一つは、動物種に特有のDNAを検出する方法です。もう一つは、近赤外光を当てて組織の成分の違いを読み取る分光法です。著者らは、両者は同じ試料を互いに確認し合うためのものではなく、異なる問いに答える補完的な手段として位置づけています。
市販のハラール表示製品から豚DNAを調べる
一つ目の調査では、カザフスタンのアルマトイの小売店で購入した、ハラール表示のある市販の食肉・食肉含有製品85点を分析しました。ソーセージ、カツレツ、ひき肉、ダンプリング、生肉、調味料などが含まれます。用いた方法はリアルタイムPCRです。これは、特定の遺伝子配列を増幅し、その様子を蛍光で追跡して、目的のDNAがあるかどうかを判定する技術です。今回は、豚に特有のミトコンドリアDNAを標的とする市販の検査キットを使い、「あり・なし」を判定する定性的な検査として実施しました。
その結果、85点中64点(75.3%)で豚のミトコンドリアDNAが検出され、21点では検出されませんでした。代表例として示された製品では、牛肉ソーセージ、鶏肉ソーセージ、牛ひき肉、ラム肉のダンプリング、調味料ミックスなどで検出があり、生の牛肉の例では検出されませんでした。
ただし著者らは、この結果の解釈に強く注意を促しています。PCRでわかるのは、豚由来の遺伝物質が試料に含まれているかどうかだけです。どれだけの量が含まれているのか、どのような経路で入ったのかはわかりません。意図的な配合や置き換えのほか、複数の動物種を扱う工場で器具や設備を共用したことによる意図しない混入なども考えられます。そのため、著者らは「75.3%の製品が意図的に偽装されていた」と解釈すべきではないとしています。また、この数字はあくまで今回分析した85点の試料についての結果です。市場全体や認証制度全体の実態を示す推定値ではないことも明記されています。
近赤外分光で血抜きの有無による違いを探る
二つ目の調査は、屠畜時の放血(血抜き)によって筋肉組織の成分が変わるかどうかを、近赤外分光法で捉えられるかを試したものです。近赤外分光法は、試料を壊さずに短時間で測定でき、水分・たんぱく質・脂質といった主要成分の情報を反映するスペクトルが得られる方法です。研究チームは、家畜ではなくマウスを用いた小規模な対照実験を行い、血液を残した後肢の大腿組織と、血抜きした組織のスペクトルを比較しました。
生のスペクトルは両群でよく似ていましたが、いくつかの波数領域にはわずかな違いが見られました。測定時の光の散乱による影響を補正したうえで、主成分分析を行いました。主成分分析とは、多数の測定値に含まれるばらつきを、少数の軸に要約する手法です。その結果、血液を残した組織と血抜きした組織は、互いに分かれて分布しました。第1主成分はスペクトル全体のばらつきの93%、第2主成分は4%を説明していました。この分離に強く寄与していたのは、主に水やたんぱく質に関係するO–H結合やN–H結合の振動に対応する領域でした。
一方で著者らは、この分離の原因を水分の減少だけ、あるいは血中のヘモグロビンだけに特定することはできないと述べています。今回の実験では組織の水分量や残留血液量を別途測定していないためです。また、ストレスホルモンなどの微量成分を直接検出したものでもないとしています。主成分分析は探索的な手法であり、診断法としての精度や識別性能を検証したものではないことも明記されています。
研究が示すこと
この研究は、DNA検査と近赤外分光法が、食肉の真正性について異なる種類の情報を与えることを示しました。DNA検査は「どの動物種が含まれているか」を高い特異性で示します。近赤外分光法は「組織の成分がどう変化しているか」を、迅速かつ非破壊的に捉えます。
ただし著者らは、二つの調査は別々の試料で行われたもので、両手法の結果が一致することを確かめたものではないとしています。分光法の結果はマウスでの概念実証にとどまります。両者を組み合わせた分析の流れを確立するには、実際の家畜や独立した試料による検証が必要だと結論づけています。
原著論文の著者・所属:Diyas Myrzakozha(School of Pharmacy, Asfendiyarov Kazakh National Medical University, Tole bi 94, 050012 Almaty, Kazakhstan)、Elmira Karlova(School of Pharmacy, Asfendiyarov Kazakh National Medical University, Tole bi 94, 050012 Almaty, Kazakhstan)、Saule Meldebekova(Faculty of Medicine, Karakalpakstan Medical Institute, Dosnazarov 108, Nukus 230105, Uzbekistan)、Tolkyn Issabekova(School of General Medicine, Asfendiyarov Kazakh National Medical University, Tole bi 94, 050012 Almaty, Kazakhstan)、Nurgali Rakhymbayev(Faculty of Pharmacy, JSC “South Kazakhstan Medical Academy”, Al-Farabi Square, 1, 160000 Shymkent, Kazakhstan)、Nyshanbay Konash(School of Pharmacy, Asfendiyarov Kazakh National Medical University, Tole bi 94, 050012 Almaty, Kazakhstan)、Aliya Yermekkyzy(School of Pharmacy, Asfendiyarov Kazakh National Medical University, Tole bi 94, 050012 Almaty, Kazakhstan)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Diyas Myrzakozha, Elmira Karlova, Saule Meldebekova, et al. Complementary Molecular and Spectroscopic Approaches for Meat Authentication: Real-Time PCR Detection of Porcine DNA and FT-NIR Analysis of Slaughter-Related Biochemical Changes. International Journal of Molecular Sciences 2026-10-07. DOI: 10.3390/ijms27198898. 原著ライセンス:CC BY.