著者の所属・活動拠点の国は、中国です。
掲載誌:Journal of Fungi
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的:塩分の多い環境でのアミガサタケの反応を知る
アミガサタケ(モレル)の仲間(Morchella属)は、タンパク質や多糖類などを豊富に含む食用きのことして高く評価されています。中国では商業栽培が急速に広がっています。著者らは、塩分を含む条件で栽培できるかを考えるには、まず菌糸(きのこの体をつくる糸状の細胞)が塩分にどう反応するかを理解する必要があると考えました。
論文によると、塩分は二つの負担をもたらします。一つは周囲の水を取り込みにくくなる「浸透圧ストレス」、もう一つはナトリウムなどのイオンが過剰にたまり、細胞内のイオンのバランスが崩れる「イオンストレス」です。研究チームは、選んだ菌株が食塩(NaCl)にさらされたとき、イオンバランス、浸透圧の調整、抗酸化の反応、多糖類の量の変化がまとまって起きると仮説を立てました。そして、生理的な測定と遺伝子発現の時間変化を組み合わせて調べました。目的は、塩分のある条件での栽培に向けた菌株の評価や改良の基礎をつくることです。
どのように調べたか:菌株の選抜から遺伝子の候補探しまで
研究チームはまず、中国の栽培株34株と野生株14株、計48株を集めました。そのうち、繁殖に関わる二種類の交配型遺伝子(MAT1-1とMAT1-2)がともに検出された24株を、栽培を見据えた予備選抜の基準で選びました。遺伝子の目印となる領域(ITS)で系統を調べた結果、これらは4種のアミガサタケに分かれました。著者らは、両方の交配型遺伝子が検出されたことだけでは、実際にきのこを作る能力があるとは言えないとも述べています。
24株は、1mol/Lの食塩を含む培地で育てられました。菌糸の伸びる速さ、密度、菌核(養分を蓄えた塊)の形成、重さなど複数の性質をまとめて点数化したところ、M. sextelataのMel-21株が最も高い総合評価を得ました。研究チームはこの株を詳しく調べる対象に選びました。
次に、食塩の濃度を変えてMel-21株の反応を調べました。300mmol/Lでは、菌糸の成長速度が対照と比べて51.32%低下しました。それでも成長は続き、はっきりした生理的反応も見られました。そこで著者らは、この濃度を以後の時間経過実験の条件に定めました。この条件で、多糖類の量とその抽出物の抗酸化活性を時間を追って測りました。さらにRNA-seq(細胞内で働いている遺伝子を網羅的に読み取る方法)と、発現の動きが似た遺伝子をまとまりとして捉える解析(WGCNA)で、遺伝子発現の変化を調べました。
主な結果:細胞の変化と注目された遺伝子
食塩の濃度が高くなるほど、菌糸の広がりや成長は鈍くなり、菌糸は細くなりました。ただし300mmol/Lでも、ひどいねじれや膨らみ、断片化は見られませんでした。著者らは、菌糸の基本的な形は保たれていたと解釈しています。細胞から漏れ出る成分の指標である電気伝導度は上がり、特に200から300mmol/Lの間で急増しました。研究チームは、膜の透過性がこの範囲で大きく変わったことを示すとしています。浸透圧の調整に関わるプロリンや可溶性タンパク質は、濃度に応じて増えました。細胞内ではナトリウムがたまり、カリウムやカルシウムとナトリウムの比率が大きく下がりました。抗酸化酵素の活性は、低から中程度の塩分では高まりましたが、より強いストレスでは低下しました。
300mmol/Lでの時間経過実験では、細胞内の多糖類が処理3時間で最大になり、このとき対照より有意に多くなりました。その後は減少し、対照を下回りました。細胞外に出される多糖類は、実験期間を通じて対照より少ないままでした。一方、多糖類を含む粗抽出物がフリーラジカルを消去する活性は、食塩処理群で対照より高くなりました。たとえば細胞内多糖類の抽出物によるヒドロキシルラジカルの消去率は、12時間時点で対照の3.1%に対し27.5%でした。ただし著者らは、この活性は抽出物で測ったものです。一緒に抽出された他の成分が寄与している可能性もあり、生きた菌糸を直接守っている証拠ではないと断っています。
遺伝子発現は、処理前(0時間)と比べたときに12時間時点で変化した遺伝子の数が最も多くなりました。早い時期にはエネルギー代謝やタンパク質の処理などに関わる遺伝子群が、後の時期にはDNA修復、物質を運ぶ輸送体、細胞内の自己分解(オートファジー)などに関わる遺伝子群が目立ちました。ただし、同じ時間だけ食塩なしで育てた比較試料はRNA-seqに含まれていません。このため研究チームは、これらの変化を食塩による影響とは特定できず、今後調べるべき手がかりにとどまるとしています。
研究チームは、すべての処理時点で処理前より発現が高かったGene05935という遺伝子に注目しました。この遺伝子がつくるタンパク質は、膜を10回貫くと予測されています。この遺伝子を酵母に組み込むと、2.0および2.5mol/Lの食塩条件で24時間培養した後の濁り度(増殖の目安)の平均値が、遺伝子を持たない対照より高くなりました。寒天培地での比較でも、対照より良い生育を示しました。植物のシロイヌナズナに組み込んだ実験は写真による予備的な観察にとどまります。著者らは、耐塩性が高まったことを示すものではないとしています。また、膜を貫く構造の予測と酵母の結果だけでは、このタンパク質がイオンを運ぶ働きを持つとは言えないとも述べています。
研究が示すこと
この研究は、アミガサタケの一菌株が食塩にさらされたとき、成長の低下とともに、膜、浸透圧の調整、イオンバランス、多糖類、抗酸化の働きにわたる変化が同時に起きることを報告しています。遺伝子発現の時間変化や候補遺伝子Gene05935は、どの仕組みが塩分への反応に関わるかを確かめるための出発点として示されています。著者らは、これらの結果が塩分を含む条件でのアミガサタケの研究の基礎になるとしています。
原著論文の著者・所属:Sheng Qiang(College of Horticulture, Ludong University, Yantai 264025, China)、Shu-De Yang(College of Horticulture, Ludong University, Yantai 264025, China)、Zu-Can Huang(College of Horticulture, Ludong University, Yantai 264025, China)、Qi-Meng Zhao(College of Horticulture, Ludong University, Yantai 264025, China)、Jing Sun(College of Horticulture, Ludong University, Yantai 264025, China)、Tong Yang(College of Horticulture, Ludong University, Yantai 264025, China)、Xue-Qi Zhao(College of Horticulture, Ludong University, Yantai 264025, China)、Ze-Yang Li(College of Horticulture, Ludong University, Yantai 264025, China)、Jun-Yu Zhang(College of Horticulture, Ludong University, Yantai 264025, China)、Yu Liu(College of Horticulture, Ludong University, Yantai 264025, China)、Jian-Rui Wang(College of Horticulture, Ludong University, Yantai 264025, China)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Sheng Qiang, Shu-De Yang, Zu-Can Huang, et al. Physiological Responses and Time-Course Transcriptomic Analysis of Morchella sextelata Strain Mel-21 During NaCl Exposure. Journal of Fungi 2026-10-01. DOI: 10.3390/jof12100736. 原著ライセンス:CC BY.