著者の所属・活動拠点の国は、ポーランドです。

掲載誌:International Journal of Molecular Sciences

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的

ミズキ属の植物であるサンシュユ(Cornus officinalis)とセイヨウサンシュユ(Cornus mas)の果実は、食品や化粧品、伝統医療に使われてきました。どちらもイリドイドと呼ばれる成分群を多く含みますが、その中身には違いがあります。サンシュユはモロニシドなど多様なイリドイドを含みます。一方、セイヨウサンシュユは主にロガン酸を含み、品種によってはアントシアニン(色素成分)を多く蓄えます。

研究チームが注目したのは、皮膚がんの中でも悪性度の高いメラノーマ(悪性黒色腫)です。メラノーマでは、シクロオキシゲナーゼ2(COX-2)という酵素が多く作られることが知られています。COX-2は「プロスタノイド」と呼ばれる脂質性の情報伝達物質を作り出します。プロスタノイドの種類によって働きは異なります。たとえばPGE2は炎症を強め、腫瘍の発達を支えるとされます。一方、PGD2は腫瘍を抑える側に働くと考えられています。

著者らは、サンシュユ1種とセイヨウサンシュユ2品種(「ウホロク」と「ヤンタルヌイ」)の果実抽出物をヒトのメラノーマ細胞に加え、プロスタノイドの量が時間とともにどう変わるかを調べました。抽出物の種類によって炎症や血管新生に関わるプロスタノイドの反応が変わる、という仮説を検証するのが目的です。

何をどのように調べたか

実験には、性質の異なる2種類のヒトメラノーマ培養細胞株、A375とMeWoを用いました。それぞれの細胞に、3種類の果実抽出物を複数の濃度で加えました。濃度はどちらの細胞にも100、250、500µg/mLを用い、MeWoにはさらに750µg/mLも加えています。そのうえで、24時間後、48時間後、72時間後に、細胞が作り出したプロスタノイドとその安定な代謝物の量を質量分析で測定しました。測定対象には、関連する脂質であるロイコトリエンB4も含まれます。

この研究の特徴は、ある一時点の量を比べるだけでなく、量の「時間的な変化の傾き」を統計モデルで推定した点にあります。著者らは、一時点の濃度は実験条件に左右されやすい一方、時間に沿った変化のしかたは細胞そのものの性質をよりよく反映すると考えました。あわせて、プロスタノイドの合成や分解に関わる遺伝子(COX-2をコードするPTGS2など)の発現の変化も調べています。

主な結果

抽出物を加えない状態でも、2つの細胞は違う振る舞いを示しました。A375では、PGE2などいくつかのプロスタノイドが培養時間とともに増えていきました。これに対しMeWoでは産生量が時間的に安定しており、PGE2、PGF2α、PGD2の量はA375より多いという結果でした。

抽出物を加えた場合、A375では次のような傾向が報告されています。低い濃度ではPGE2やPGF2αなどが時間とともに蓄積し続けました。ところが濃度が高くなるにつれて増加の傾きが緩やかになり、さらには減少に転じました。この傾向はサンシュユ抽出物で最もはっきりしており、セイヨウサンシュユ2品種の抽出物では抑える方向の作用がより穏やかでした。MeWoでは時間変化そのものが小さく、変化が目立つのは高い濃度のときに限られました。

物質ごとにも違いがありました。血管新生や転移に関わるとされるトロンボキサンA2の安定代謝物(TXB2)では、両方の細胞で濃度に応じたはっきりした抑制が見られ、特にサンシュユ抽出物で顕著でした。一方、PGD2の量は抽出物の濃度に左右されませんでした。プロスタサイクリン(PGI2)の代謝物やロイコトリエンB4の時間変化も、濃度の影響をほとんど受けませんでした。

遺伝子発現については、サンシュユ抽出物が両方の細胞でPTGS2の発現を濃度に応じて高めていました。著者らはこの結果から、A375でプロスタノイドの増加が抑えられた現象は、PTGS2の発現が下がったことだけでは説明しにくいと述べています。

この研究が示すこと

著者らは、ミズキ属果実の抽出物は、ある時点のプロスタノイドの量を単純に減らすというより、その増え方や変化のしかたを作り替える働きをもつ可能性があるとまとめています。しかも、その働き方は細胞の種類、抽出物の濃度、植物の種や品種によって異なっていました。成分の違い、たとえばサンシュユに含まれるイリドイドや「ウホロク」のアントシアニンが影響している可能性も考察されていますが、どの成分が作用しているかはまだ特定されていません。

この研究は培養細胞を使った予備的なものであり、著者ら自身も、結果は仮説を生み出す探索的な段階のものだと位置づけています。生体内の腫瘍環境をそのまま反映しているとは限りません。それでも、時間を追って代謝物の変化をとらえる方法によって、一時点の測定では見えにくい細胞ごとの反応の違いが浮かび上がったことは、この研究から伝わる重要な点です。

原著論文の著者・所属:Łukasz Lewandowski(Department of Biochemistry and Immunochemistry, Faculty of Medicine, Wroclaw Medical University, 50-368 Wroclaw, Poland)、Małgorzata Krzystek-Korpacka(Department of Biochemistry and Immunochemistry, Faculty of Medicine, Wroclaw Medical University, 50-368 Wroclaw, Poland)、Daria Mykhailova(Department of Biochemistry and Immunochemistry, Faculty of Medicine, Wroclaw Medical University, 50-368 Wroclaw, Poland)、Martyna Korbecka(Department of Biochemistry and Immunochemistry, Faculty of Medicine, Wroclaw Medical University, 50-368 Wroclaw, Poland)、Michał Bryk(Department of Biochemistry and Immunochemistry, Faculty of Medicine, Wroclaw Medical University, 50-368 Wroclaw, Poland)、Mariusz Fleszar(Omics Research Center, Wroclaw Medical University, 50-368 Wroclaw, Poland)、Paulina Fortuna(Omics Research Center, Wroclaw Medical University, 50-368 Wroclaw, Poland)、Alicja Z. Kucharska(Department of Fruit, Vegetable and Plant Nutraceutical Technology, Wroclaw University of Environmental and Life Sciences, J. Chełmońskiego 37, 51-630 Wroclaw, Poland)、Tomasz Sozański(Department of Preclinical Sciences, Pharmacology and Medical Diagnostics, Wroclaw University of Science and Technology, Wybrzeże Wyspiańskiego 27, 50-370 Wroclaw, Poland)、Jolanta Zalejska-Fiolka(Department of Biochemistry, Faculty of Medical Sciences in Zabrze, Medical University of Silesia, 40-055 Katowice, Poland)、Karolina Mosna(Omics Research Center, Wroclaw Medical University, 50-368 Wroclaw, Poland)、Wioleta Szewczak(Omics Research Center, Wroclaw Medical University, 50-368 Wroclaw, Poland)、Iwona Bednarz-Misa(Department of Biochemistry and Immunochemistry, Faculty of Medicine, Wroclaw Medical University, 50-368 Wroclaw, Poland)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Łukasz Lewandowski, Małgorzata Krzystek-Korpacka, Daria Mykhailova, et al. Time-Resolved Metabolomics Reveals Distinct, Cell- and Variety-Dependent Profiles of Prostanoids in Melanoma Cells Exposed to Fruit Extracts from Cornus mas and C. officinalis: A Pilot Study. International Journal of Molecular Sciences 2026-08-03. DOI: 10.3390/ijms27156982. 原著ライセンス:CC BY.