著者の所属・活動拠点の国は、アイルランド、イギリス、スペインです。
掲載誌:Current Developments in Nutrition
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
食事の質が高い人ほど慢性疾患や死亡のリスクが低いことは知られています。一方、食事の質を高める介入試験では、血中の脂質や体格、血圧などへの影響が一定しないと報告されています。研究チームは、その背景に人による代謝の違いがあると考えました。遺伝、環境、腸内細菌、年齢、性別、食事、体組成などによって形づくられる代謝の特徴は「代謝表現型」と呼ばれ、食事の変化への反応を左右しうる要素とされています。
研究チームは以前、MyPlanetDietというランダム化比較試験を行っています。この試験では、環境負荷が低く健康的な「持続可能で健康的な食事」に基づく個別助言を受けた群と、一般的な健康的な食生活の指針に基づく個別助言を受けた群を比べました。その結果、どちらの群でも食事由来の温室効果ガス排出量が減り、食事の質の評価点が上がりました。ただし、血液などの代謝の指標には、どちらの群でも変化がみられなかったと報告されています。
今回の論文は、この試験のデータを使った事後的な追加解析です。目的は、参加者を代謝表現型で分けたときに、食事の変化への反応がグループごとに異なるかを調べることでした。著者らは、この解析を新しい仮説を生み出すための探索的な概念実証と位置づけています。
どのように調べたか
MyPlanetDiet試験は、アイルランド島の3大学で2022年3月から2023年5月にかけて12週間行われました。対象は18〜64歳の健康な成人で、牛肉か羊肉を週3回以上食べていると自己申告した人たちです。参加者は試験の開始時と終了時に、オンラインの24時間思い出し法で3日分の食事を記録しました。同じ2時点で、体の計測と空腹時の採血も行われました。
研究チームは、試験開始時に測った4つの血液指標を使って参加者をグループ分けしました。4つの指標は、総コレステロール、HDLコレステロール(いわゆる善玉コレステロール)、中性脂肪、血糖値です。グループ分けには、似た特徴を持つ人どうしを自動的にまとめる「k平均法」というクラスタリング手法を用いました。血糖値が極端に高い2人は外れ値として除外され、最終的に3つの代謝表現型(MP1〜MP3)が得られました。
さらに、血液中の131種類の代謝物(アミノ酸や、細胞膜の成分となるリン脂質など)を一度に測定するメタボロミクス解析も行い、グループ間で代謝物の構成が異なるかを調べました。あわせて、12週間で果物・野菜、全粒穀物、肉、乳製品の摂取量がどれだけ変わったかを3段階に分け、総コレステロールの変化との関連も検討しました。
主な結果
開始時の血液データがそろった345人が3つのグループに分かれました。MP1(86人)は、総コレステロール、中性脂肪、LDLコレステロール、血糖、インスリン、炎症の指標であるCRPがいずれも最も高いグループでした。体格指数(BMI)の平均も約31と最も高く、著者らは「代謝的に不健康」なグループと位置づけています。MP2(110人)は約4分の3が女性で、HDLコレステロールが最も高く、血糖やインスリン、CRP、BMIは最も低いグループでした。ただし、総コレステロールとLDLコレステロールはMP1と同程度でした。MP3(149人)は最も若く、総コレステロール、中性脂肪、LDLコレステロールが最も低いグループでした。
3つのグループは血中代謝物の構成でも区別でき、2グループずつを比べた判別モデルの正解率は約79〜85%でした。たとえばMP1では、肥満との関連が知られるアミノ酸(グルタミン酸、イソロイシン、ロイシン)の濃度が高い傾向がありました。リン脂質のうち、結合の型が異なる2種類では、一方がMP1で、もう一方がMP2で高いという違いもみられました。一方、試験開始時のエネルギー摂取量や食品群の摂取量にはグループ間で差がなく、違いがあったのはアルコール摂取量など一部にとどまりました。
試験終了時にも採血できた271人で12週間の変化を比べると、反応はグループによって異なりました。総コレステロールはMP1で平均0.19mmol/L、MP2で平均0.18mmol/L下がりましたが、MP3では有意な変化はありませんでした。MP1では中性脂肪とCRPも低下しました。MP2ではHDLコレステロールがわずかに下がり、MP3ではHDLコレステロールと中性脂肪がわずかに上がりました。
総コレステロールが下がったMP1とMP2について食品群の変化との関連をみると、どちらのグループでも、果物・野菜と全粒穀物の摂取を大きく増やした人で総コレステロールの有意な低下がみられました。一方、肉と乳製品では2つのグループの傾向が分かれました。MP1では肉を最も大きく減らした人で、MP2では肉を中程度減らした人で低下がみられました。また、乳製品の摂取を増やした人での低下は、MP2ではみられましたがMP1ではみられませんでした。
この研究が示すこと
著者らは、日常的に測定される4つの血液指標だけで、体格や炎症、血中代謝物の特徴が異なる3つのグループを見分けられたと述べています。さらに、試験全体では見えなかった食事変化への反応の違いが、グループに分けることで浮かび上がりました。総コレステロールが下がったのは、年齢が比較的高く、開始時のコレステロール値が高いMP1とMP2でした。著者らによると、代謝表現型に基づいて持続可能で健康的な食事への反応を調べたのは、この解析が初めてです。
ただし著者らは、これは探索的な追加解析であり、結果は慎重に解釈すべきだとしています。食事データは自己申告で、試験期間は12週間と短く、遺伝や腸内細菌の情報はありませんでした。また、両群とも個別の食事助言を受けており、助言を受けない従来型の対照群がありません。そのため、観察された違いが代謝表現型によるものか、行動変化の違いによるものかは区別できていません。
それでも、同じ食事の変化に対する体の反応が人によって異なりうることを、具体的なデータで示した点にこの研究の意義があります。著者らは、代謝の特徴に合わせて個別化した食事助言を、人の健康と地球環境の両方を意識した食事へ広げていくための最初の一歩になると位置づけています。
原著論文の著者・所属:Katie P Davies(Institute of Food and Health, School of Agriculture and Food Science, University College Dublin, Dublin, Ireland)、Eileen R Gibney(Institute of Food and Health, School of Agriculture and Food Science, University College Dublin, Dublin, Ireland)、Ursula M Leonard(Cork Centre for Vitamin D and Nutrition Research, School of Food and Nutritional Sciences, University College Cork, Cork, Ireland)、Leona Lindberg(Centre for Public Health, School of Medicine, Dentistry and Biomedical Sciences, Queen's University Belfast, Belfast, Northern Ireland, United Kingdom)、Jayne V Woodside(Centre for Public Health, School of Medicine, Dentistry and Biomedical Sciences, Queen's University Belfast, Belfast, Northern Ireland, United Kingdom; Institute for Global Food Security, School of Biological Sciences, Queen's University Belfast, Belfast, United Kingdom)、Mairead E Kiely(Cork Centre for Vitamin D and Nutrition Research, School of Food and Nutritional Sciences, University College Cork, Cork, Ireland)、Anne P Nugent(Institute for Global Food Security, School of Biological Sciences, Queen's University Belfast, Belfast, United Kingdom; Institute of Food and Health, School of Agriculture and Food Science, University College Dublin, Dublin, Ireland)、Elena Arranz(Cork Centre for Vitamin D and Nutrition Research, School of Food and Nutritional Sciences, University College Cork, Cork, Ireland; Instituto de Investigación en Ciencias de la Alimentación, CIAL (CSIC-UAM, CEI UAM+CSIC), Universidad Autónoma de Madrid, Madrid, Spain)、Marie C Conway(School of Biological, Health and Sports Sciences, Technological University Dublin, Dublin, Ireland)、Sinead N McCarthy(Department of Agrifood Business and Spatial Analysis, Teagasc Food Research Centre, Dublin, Ireland)、Aifric M O’Sullivan(Institute of Food and Health, School of Agriculture and Food Science, University College Dublin, Dublin, Ireland)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Katie P Davies, Eileen R Gibney, Ursula M Leonard, et al. Metabolic Phenotyping Identifies Responders to Sustainable Healthy Diets: Analysis from the MyPlanetDiet Randomized Controlled Trial. Current Developments in Nutrition 2026-08-10. DOI: 10.1016/j.cdnut.2026.109510. 原著ライセンス:CC BY.