この研究は、中国の研究機関の研究論文です。

掲載誌:Foods

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

なぜ塩類・アルカリ性の水での養殖を調べたのか

中国には約360万ヘクタールの塩類・アルカリ土壌(塩害・アルカリ害を受けた土地)があり、利用可能な国土面積の5%にあたると論文は述べています。地下水の水位が浅く塩分濃度が高いこと、ナトリウム・塩化物・炭酸イオンなどが多く蓄積していることから、その多くは通常の農業に使えないままになっています。こうした土地で水産養殖を行えば、食料生産に加えて土壌の改善にもつながると期待され、中国では近年この取り組みが広がっている、というのが著者らの説明です。

一方でソウギョは中国淡水魚養殖の主力種です。論文が引く漁業統計では、2024年の淡水魚総生産量3648万トンのうち741万トンがソウギョでした。ただし集約的な養殖の拡大にともなって肉質や風味の低下が報告され、価格も長く低迷しているため、差別化された高品質な製品が求められていると著者らは整理しています。

塩分濃度が魚の食感や成分に影響することは他の魚種で報告があるものの、中国の塩類・アルカリ性条件下でソウギョの品質を体系的に調べた研究はほとんどない、と著者らは指摘します。そこでこの研究は、水質タイプの異なる塩類・アルカリ性環境で育ったソウギョの栄養成分、物性、味や香りに関わる成分を比較しました。

三つの水質タイプと淡水を比較する

研究チームは、中国国内で自然に分布が分かれる3種類の塩類・アルカリ性地域から3歳のソウギョ(平均体重4.0±1.5 kg)を採取しました。吉林省大安市の炭酸塩型(CB)、河北省唐山市の塩化物型(CR)、甘粛省白銀市の硫酸塩型(SF)の3群です。比較対象(対照群、CK)には遼寧省大連市で購入した淡水養殖のソウギョを用いました。

筋肉について、水分・粗タンパク質・粗脂肪・灰分といった一般成分、ナトリウムなどの微量元素、硬さや弾力などの物性、色、保水力と加熱時の重量減少、コラーゲン量、うま味に関わるヌクレオチドやベタイン、アミノ酸、脂肪酸、そして泥臭のもとになるジェオスミンを測定しています。各測定は3回以上繰り返し、統計的な差を検定しました。

著者らが報告した主な違い

まず一般成分では、塩類・アルカリ性の3群はいずれも灰分(ミネラル分)が対照群(3.41±0.36%)より有意に高く、粗脂肪も対照群(0.29±0.19 g/100 g)より高い値でした。一方、粗タンパク質は4群のあいだで有意な差がなく、いずれも20〜21 g/100 g程度でした。ナトリウム含量は塩化物型が最も高く、対照群が最も低いという結果でした。

物性では、3群とも硬さが対照群(23.11±2.86 N)より高く、逆に弾力は対照群が最も高い値でした。保水力は塩化物型が89.36±5.01%と最も高く、加熱時の重量減少は硫酸塩型が29.06±1.84%と最も低い値でした。色については塩化物型の明度と白色度が最も高く(白色度63.27±0.92)、対照群が最も低い値でした(42.43±2.02)。コラーゲン量も塩化物型(277.09±38.45 μg/g)と炭酸塩型(217.36±51.48 μg/g)が対照群(128.13±13.63 μg/g)より有意に高いと報告されています。

味や香りに関わる成分では、炭酸塩型でうま味成分のIMPが221.31±7.44 mg/kgと最も高く、ベタインも20.32±1.21 mg/kgと高い値でした。泥臭の原因物質ジェオスミンは対照群が6.69±0.52 ng/gで、3つの実験群より有意に高い値でした。硫酸塩型では必須アミノ酸と多価不飽和脂肪酸、とくにEPAとDHAの含量が最も高かったと報告されています。

ただし脂肪酸から算出された指標では、動脈硬化に関わるとされるIA値は対照群が0.27、実験群が0.34〜0.43で硫酸塩型が最も高く、血栓に関わるIT値は対照群0.42に対し炭酸塩型が0.25で最も低い値でした。すべての項目で塩類・アルカリ性の水が一律に有利だったわけではない、という報告の形になっています。

この研究が示していること

著者らは、炭酸塩型・塩化物型・硫酸塩型という塩類・アルカリ性の種類の違いがソウギョの筋肉の品質をそれぞれ異なる形で変えることを、初めて包括的に比較した研究だと位置づけています。塩化物型では食感と保水力、色が変わり、炭酸塩型ではうま味成分のIMPが蓄積し、硫酸塩型ではEPA・DHAや必須アミノ酸が増える——というように、水質タイプごとに異なる特徴が現れたという報告です。

論文はこの結果を、利用しにくい土地の活用という観点だけでなく、淡水養殖において品質の差別化を図る手段としても塩類・アルカリ性養殖が成り立ちうることを示すものとして述べています。なぜそうした変化が起きるのかという仕組みの解明と、目的とする品質に合わせた養殖方法の最適化が、著者らが今後の課題として挙げている点です。

著者:Pengcheng Gao(East China Sea Fisheries Research Institute, Chinese Academy of Fishery Sciences, Shanghai 200090, China)、D.Y. Yu(East China Sea Fisheries Research Institute, Chinese Academy of Fishery Sciences, Shanghai 200090, China)、Peng Liu(Jilin Fisheries Research Institute, Changchun 130022, China)、Xinghe Chen(Key Laboratory of Protection and Utilization of Aquatic Germplasm Resource, Liaoning Ocean and Fisheries Science Research Institute, Dalian 116023, China)、Long Li(Key Laboratory of Protection and Utilization of Aquatic Germplasm Resource, Liaoning Ocean and Fisheries Science Research Institute, Dalian 116023, China)、Yanqing Huang(East China Sea Fisheries Research Institute, Chinese Academy of Fishery Sciences, Shanghai 200090, China)、Qifang Lai(East China Sea Fisheries Research Institute, Chinese Academy of Fishery Sciences, Shanghai 200090, China)、Hai Chi(East China Sea Fisheries Research Institute, Chinese Academy of Fishery Sciences, Shanghai 200090, China)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Pengcheng Gao, D.Y. Yu, Peng Liu, et al. Influence of Different Saline and Alkali Aquaculture on the Nutritional Composition, Physicochemical Properties, and Flavor Profile of Grass Carp (Ctenopharyngodon idellus). Foods 2026-09-08. DOI: 10.3390/foods15183172. 原著ライセンス:CC BY.