9月9日は重陽の節句です。古来、菊は不老長寿の霊薬とされ、この日に菊酒を飲む習わしがあったといいます。奇数を陽の数とする中国の考え方で、いちばん大きな9が重なる日を祝ったことに由来するとされ、五節句のひとつに数えられてきました。平安時代に日本へ伝わると、宮中では杯に菊の花を浮かべる「菊花の宴」が催されたと伝えられます。菊で長寿を願う日なので、「菊の節句」とも呼ばれます。

杯に浮かべる菊、酢で和える菊

杯に浮かべて飲む菊酒とは別に、花びらそのものを料理として食べる文化が新潟や東北にあります。江戸時代ごろから広まったとされます。赤紫の菊は新潟で「かきのもと」、山形で「もってのほか」と呼ばれ、正式な品種名は延命楽といいます。この花びらをくるみやれんこんと酢で和えた精進料理は、法事やおせち、来客の膳に欠かせない秋の一品として受け継がれてきました。山形では重陽の日に、黄色い菊「寿」が出回るといいます。花びらを蒸して薄い板にまとめ、乾かした「菊のり」もあります。熱湯に酢を少し加えてさっとゆで、水にさらして戻すと、重さは10倍ほどになるとされます。

杯に浮かべるにせよ、酢で和えるにせよ、口に入るのは花びらです。紫と黄の花びらが皿にのる季節に、その花びらが何でできているのかを見てみます。

花びらの、水ではない部分

食用の菊は黄色や大輪、厚物など品種が多く、東北など冷涼な土地での栽培が多い野菜です。食用ぎく、料理ぎくとも呼ばれます。花の色と香りと歯ざわりを楽しむ花で、捨てるのは花床(かしょう)だけです。花床は重さの15%にあたります。きく(花びら・生)の可食部100gあたりは、水分が91.5g、エネルギーは25kcalです。花びらはほとんど水でできています。水を除いた8.5gの中に、食物繊維総量3.4g、葉酸73µg、α-トコフェロール(ビタミンEの主な形)4.6mgが入っています。100gあたりの値ですから、一鉢の花びらではこの何分の一かになります。それでも、飾りに見える花びらは野菜類の一員です

ゆでて、水にとって、絞ると

酢の物にする花びらは、ゆでて、水にとり、手で絞ります。絞ったきく(花びら・ゆで)は、重さがゆでる前の96%になります。100gあたりどうしで比べると、葉酸は73µgから40µgへ、カリウムは280mgから140mgへと、水に溶けるものはおよそ半分に減りますビタミンCも同じです。

一方で、α-トコフェロールは4.6mgから4.1mgへ、ビタミンKは11µgから10µgへと、ほとんど動きません。β-カロテン当量も同じです。食物繊維総量は3.4gから2.9gへ、やや減る程度です。油に溶ける側の中身と繊維は、ゆでて絞ったあとも花びらの側にとどまります

きく(花びら)可食部100gあたり(八訂)
成分ゆでて絞った後変化
葉酸73µg40µgおよそ半分に減る(水溶性)
ビタミンC11mg5mgおよそ半分に減る(水溶性)
カリウム280mg140mgおよそ半分に減る(水溶性)
α-トコフェロール4.6mg4.1mgほぼ残る(脂溶性)
ビタミンK11µg10µgほぼ残る(脂溶性)
β-カロテン当量67µg61µgほぼ残る(脂溶性)
食物繊維総量3.4g2.9gやや減る

栗の節句でもあります

重陽は秋の実りを祝う「栗の節句」とも呼ばれ、栗御飯を食べる習わしも伝わっています。青森の津軽では旧暦の9月9日に栗入りの飯を神棚に供えたといい、岐阜の中津川では長寿を祈って栗菓子を食べる風習があるとされます。栗菓子の側を成分表で見ると、日本ぐり(甘露煮)は可食部100gあたりの水分が40.8g、炭水化物が56.8gです。9割が水の花と、半分以上が炭水化物の栗が、同じ秋の膳に並びます。

願いと一緒に

杯の菊は香りを、酢の物の菊は紫や黄の色と歯ざわりを、秋の膳にのせます。ゆでて絞ったあとの花びらにも、ビタミンEとビタミンK、食物繊維はほぼそのまま残り、葉酸やカリウムも半分は残っています。彩りのために置かれた一鉢を、野菜の一皿として食べてよい理由はそこにあります。平安の昔から、長寿の願いは杯の菊に託されてきました。9月9日は、その花を口に運ぶ日です。

郷土料理・行事食の記述は、次の公的資料に基づきます:農林水産省 うちの郷土料理

※本記事は日本食品標準成分表(八訂)および日本人の食事摂取基準(2025年版)のデータ等をもとに作成しました。