著者の所属・活動拠点の国は、中国、香港です。

掲載誌:iMetaMed

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的と調べ方

研究チームによると、世界の食事に関わる死亡リスク要因の上位二つは、全粒穀物の不足と塩分のとりすぎです。米を主食とするアジアでは、精製された白米を多く食べることと塩分摂取が多いことが重なっています。玄米や黒米のように精製度の低い米、特に色素成分アントシアニンを多く含む黒米には、血糖調節などへの良い影響が報告されてきました。ただし、その多くは糖尿病や肥満を起こした動物での研究で、健康な動物での知見は限られていました。また、塩分と主食の組み合わせがどう影響するかも十分に分かっていませんでした。

そこで著者らは、長期の高塩分食と米の種類の組み合わせが、血糖の調節、炎症、腸内細菌、血液中の代謝物とどう関連するかを、健康なマウスで調べました。オスのマウス60匹を6群に分け、白米、玄米、黒米のいずれかを50%含む餌を与えました。各米について、塩(塩化ナトリウム)を2%加えた群と加えない群を設けています。従来の高塩分研究では4〜8%といった非常に高い濃度が使われることが多いため、この研究では日常の過剰摂取に近い条件として2%を選び、10か月間与え続けました。

調べた項目は、ブドウ糖を飲ませた後の血糖の上がり方を見る糖負荷試験、血圧、炎症に関わる血中物質、ふんに含まれる短鎖脂肪酸です。短鎖脂肪酸は、腸内細菌が食物繊維などを分解してつくる物質です。さらに、腸内細菌の構成を遺伝子解析で調べ、血液中の多数の代謝物を一度に測定して、それらの関連を分析しました。

塩を加えない場合:黒米で見られた違い

成分分析では、3種類の米のうち黒米がたんぱく質と食物繊維を最も多く含んでいました。ポリフェノール類も、量と種類の両方で黒米が最も多く、アントシアニンも検出されました。

塩を加えない条件では、黒米を食べたマウスは白米や玄米の群より糖負荷試験の結果が良好でした。ブドウ糖を飲んでから30〜60分後の血糖値と、血糖の上昇の大きさを表す指標が、26〜40%低くなりました。一方、空腹時の血糖やインスリンなどには群間の差がなく、論文は、黒米が普段の代謝を変えずに食後の血糖調節を改善したとまとめています。なお、炎症に関わる物質の一つであるTNF-αは黒米群で高い値でした。

腸内では、黒米群でふんの短鎖脂肪酸の総量が白米群の約3.5倍になりました。黒米群では乳酸菌の仲間であるラクトバチルスなどが多く、その量は短鎖脂肪酸の量と強く相関していました。血液中の代謝物の構成も米の種類によって異なり、著者らは黒米のポリフェノールと特定の腸内細菌、血中代謝物との間に関連があることを報告しています。

塩を加えた場合:黒米の利点が見られなくなった

2%の塩を加えると様相が変わりました。黒米群で見られた糖負荷試験の良好な結果は見られなくなりました。塩を加えた黒米群では、塩なしの黒米群に比べて血圧と糖負荷試験での血糖上昇の指標がいずれも高くなりました。ただし、血圧はマウスの正常範囲内にとどまり、高血圧の基準には達していませんでした。論文はこれを、表に出にくい程度の変化と位置づけています。玄米では、塩を加えると、それまでの一定期間の血糖の状態を反映する糖化ヘモグロビンが高くなりました。

塩を加えた黒米群では、ラクトバチルスが減り、エンテロバクターという細菌が増えていました。また、炎症に関わるTNF-αとIL-6が、塩を加えた白米群や玄米群より高い値でした。腸内細菌の働きの面でも、塩による変化の仕方は米の種類ごとに異なっていました。一方、短鎖脂肪酸の総量は米の種類によって違いましたが、塩の有無による差は認められませんでした。腎臓の組織には、塩を加えた群で軽い変化が見られています。

研究が示すこと

この研究は、塩分が体の代謝に与える影響が、一緒に食べる主食の種類と切り離せないことを、マウスでの長期実験で示しました。黒米で見られた血糖調節や腸内環境の良い変化は、塩分が多い条件では見られなくなりました。著者らは、ある食品の健康への影響を考える際には、食事の組み合わせという文脈まで考慮した指針が必要だと結論づけています。

原著論文の著者・所属:Xiaofang Li(College of Food Science and Technology Huazhong Agricultural University Wuhan China; Faculty of Medicine, School of Chinese Medicine The Chinese University of Hong Kong Hong Kong SAR China)、Fangyang Chen(College of Food Science and Technology Huazhong Agricultural University Wuhan China)、Ping Chen(College of Food Science and Technology Huazhong Agricultural University Wuhan China)、Yage Wang(College of Food Science and Technology Huazhong Agricultural University Wuhan China)、Mengke Yuan(College of Food Science and Technology Huazhong Agricultural University Wuhan China)、Zhuojun Li(College of Food Science and Technology Huazhong Agricultural University Wuhan China)、Hao Chen(National Key Laboratory of Crop Genetic Improvement Huazhong Agricultural University Wuhan China)、Zongkang Zhang(Faculty of Medicine, School of Chinese Medicine The Chinese University of Hong Kong Hong Kong SAR China)、Kaikai Li(College of Food Science and Technology Huazhong Agricultural University Wuhan China; Key Laboratory of Environment Correlative Food Science, Ministry of Education Huazhong Agricultural University Wuhan China)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Xiaofang Li, Fangyang Chen, Ping Chen, et al. Chronic High‐Salt Intake Reprograms Metabolic Homeostasis Driven by Dietary Rice Varieties via Microbial and Metabolite Associations. iMetaMed 2026-10-25. DOI: 10.1002/imm3.70067. 原著ライセンス:CC BY.