著者の所属・活動拠点の国は、中国です。
掲載誌:Food Science & Nutrition
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
ブロッコリーの成分を体内で「活かす」ための研究
ブロッコリー、とくにその種子には、グルコラファニンという成分が多く含まれています。グルコラファニン自体はいわば前段階の物質で、体内で変換されるとスルフォラファンという物質になります。スルフォラファンについては、抗炎症作用や抗酸化作用などがこれまでの研究で報告されてきました。
ただし、グルコラファニンがどれだけスルフォラファンに変わるかには個人差が大きく、その変換には腸内細菌の構成が深く関わっていると考えられています。そこで研究チームは、試験管内でスルフォラファンの生成を大きく高めた乳酸菌の一種、ラクチカゼイバチルス・パラカゼイCCFM1221株に注目しました。
研究チームが立てた仮説は、この菌株が体内でグルコラファニンからスルフォラファンへの変換を促し、ブロッコリー種子抽出物がもつ肝臓を守る働きを強めるのではないか、というものです。急性肝障害は、前触れとなる症状がないまま肝細胞の機能が急速に失われる病態で、より安全で効果的な天然由来の物質を探すことが求められています。
マウスで調べたこと
研究チームは、雄のマウス40匹を5つのグループに分けました。肝障害を起こさない比較用の対照群、肝障害だけを起こすモデル群、ブロッコリー種子抽出物を与える群、CCFM1221株を与える群、そして両方を併用する群です。使われた抽出物は、グルコラファニンを20%含むものでした。
実験の最後に、対照群のマウスには4時間の絶食後に生理食塩水0.2ミリリットルを腹腔内に注射し、それ以外の4群にはリポ多糖(LPS)を腹腔内に注射しました。LPSは一部の細菌の細胞壁に含まれる成分で、強い炎症を引き起こすため、急性肝障害の実験モデルを作るのによく使われます。つまり対照群も注射という処置自体は受けており、注射する中身がLPSかどうかで比較できるようにしています。注射から6時間後に血液や肝臓、大腸の内容物を採取しました。
調べた項目は多岐にわたります。肝臓の傷み具合を示す血液中の酵素(ALT、AST、ALP)、肝臓の組織の顕微鏡観察、炎症を起こす物質や抑える物質の量、酸化によるダメージの指標と、それを防ぐ酵素の働き、炎症や抗酸化に関わる遺伝子の働き、大腸内のスルフォラファン量、そして腸内細菌の構成です。
併用群で目立った改善
LPSを注射したモデル群では、生理食塩水を注射した対照群に比べて血液中のALT、AST、ALPがいずれも大きく上昇し、肝障害が起きたことが確認されました。抽出物を与えた群と併用群ではこれら3つの値がいずれもモデル群より有意に低く、とくに併用群で低い値となりました。CCFM1221株だけを与えた群では、低下が有意だったのはASTだけでした。肝臓の組織の観察でも、併用群では肝細胞の傷みや炎症細胞の集まりが減っていたと報告されています。
炎症に関わる物質では、併用群だけが、炎症を促すTNF-α、IL-1β、IL-6をすべて有意に減らし、炎症を抑えるIL-10を有意に増やしました。抽出物だけではTNF-αとIL-6の上昇しか抑えられず、菌株だけでは有意な変化はみられませんでした。
酸化によるダメージでも同じ傾向がみられました。併用群では、酸化ダメージの指標であるMDAが減り、SOD、GSH-Px、CATという3種類の抗酸化酵素の働きの低下がいずれも有意に防がれていました。抽出物だけで有意に改善したのはMDAとCATのみでした。遺伝子レベルでも、併用群では炎症を引き起こす経路(TLR4/NF-κB経路)に関わる遺伝子と、細胞を酸化ストレスから守る経路(Nrf2経路)に関わる遺伝子の両方で、LPSによる変化が打ち消されていました。
鍵となるスルフォラファンの量については、抽出物を与えた群の大腸で1グラムあたり約196ナノモル検出されたのに対し、併用群では約266ナノモルに増えていました。論文によれば約36%の増加です。抽出物を与えていない群では、スルフォラファンは検出されませんでした。腸内細菌の構成も、抽出物群と併用群でそれぞれ変化していました。併用群で増えた細菌の中には、これまでの研究で大腸のスルフォラファン量の増加と関連づけられてきたグループも含まれていました。
この研究が示すこと
著者らは、CCFM1221株がグルコラファニンからスルフォラファンへの変換を高めることで、ブロッコリー種子抽出物の肝臓を守る効果を強め、その効果は主に炎症と酸化ストレスの抑制として現れたと結論づけています。
一方で著者らは、この研究の限界も挙げています。動物体内のグルコラファニン量そのものは測定していないこと、抽出物と菌株をそれぞれ1種類の用量でしか試していないこと、そして結果はマウスの急性肝障害モデルから得られたもので、慢性の肝疾患や人にそのまま当てはまるとは限らないことです。
それでも、食品に含まれる成分の働きを、特定の菌と組み合わせることで引き出せる可能性をマウスで示した点に、この研究の意味があります。
原著論文の著者・所属:Xin Tang(School of Food Science and Technology Jiangnan University Wuxi China; State Key Laboratory of Food Science and Resources Jiangnan University Wuxi China)、Yi Wei(School of Food Science and Technology Jiangnan University Wuxi China; State Key Laboratory of Food Science and Resources Jiangnan University Wuxi China)、Weiling Guo(School of Food Science and Technology Jiangnan University Wuxi China; State Key Laboratory of Food Science and Resources Jiangnan University Wuxi China)、Qiuxiang Zhang(School of Food Science and Technology Jiangnan University Wuxi China; State Key Laboratory of Food Science and Resources Jiangnan University Wuxi China)、Jianxin Zhao(School of Food Science and Technology Jiangnan University Wuxi China; State Key Laboratory of Food Science and Resources Jiangnan University Wuxi China)、Wei Chen(National Engineering Research Center for Functional Food Jiangnan University Wuxi China; School of Food Science and Technology Jiangnan University Wuxi China; State Key Laboratory of Food Science and Resources Jiangnan University Wuxi China)、Bingyong Mao(School of Food Science and Technology Jiangnan University Wuxi China; State Key Laboratory of Food Science and Resources Jiangnan University Wuxi China)、Shumao Cui(International Joint‐Research Laboratory for Maternal‐Infant Microbiota and Health Jiangnan University Wuxi China; School of Food Science and Technology Jiangnan University Wuxi China; State Key Laboratory of Food Science and Resources Jiangnan University Wuxi China)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Xin Tang, Yi Wei, Weiling Guo, et al. Sulforaphane‐Producing Lacticaseibacillus paracasei CCFM1221 Combining Broccoli Seed Extract Improved the Hepatoprotective Effect on Lipopolysaccharide‐Treated Mice. Food Science & Nutrition 2026-08-01. DOI: 10.1002/fsn3.72271. 原著ライセンス:CC BY.