著者の所属・活動拠点の国は、中国です。
掲載誌:Journal of Hazardous Materials Advances
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
一般の人が水銀を体に取り込む主な経路は、魚介類を食べることだとされています。ただし、食品に含まれる水銀の量だけでは健康リスクを正確に見積もれません。食べた水銀のうち、実際にどれだけが体内に吸収されて利用される状態になるかという「生物学的利用能(バイオアベイラビリティ)」も重要だからです。
水銀には、無機水銀(Hg2+)、メチル水銀、エチル水銀といった異なる化学形態(化学種)があります。著者らによると、これまでは化学種ごとに使える利用能のデータが不足しており、魚介類由来の水銀による健康リスクを正確に評価できていませんでした。そこで研究チームは、さまざまな魚介類について、水銀の化学種ごとの生物学的利用能を総合的に調べました。
何を調べたか
対象としたのは、海藻、魚、貝類といった種類の異なる魚介類です。研究チームは二つの方法で生物学的利用能を評価しました。
一つは、ヒトの腸の細胞に似た性質をもつ培養細胞「Caco-2細胞」を使う方法です。生き物を使わない試験管内の評価(in vitro)にあたります。もう一つは、マウスに実際に摂取させて調べる方法で、生体での評価(in vivo)にあたります。著者らはこの二つの結果を比べ、細胞実験が動物実験の代わりになりうるかどうかも検討しました。
主な結果
抄録によると、細胞を使った評価では、生物学的利用能は魚介類の種類と水銀の化学種の両方によって変わるように見えました。どの種類の魚介類でも、無機水銀の利用能はメチル水銀やエチル水銀より高く、同じ種類の魚介類であれば、メチル水銀とエチル水銀の値は同程度でした。
一方、マウスを使った評価では、利用能は魚介類の種類よりも、主に水銀の化学種によって決まるように見えました。また、その傾向は細胞実験とは逆で、すべての種類の魚介類で、メチル水銀とエチル水銀の利用能が無機水銀より高くなりました。
この結果から著者らは、Caco-2細胞のモデルは、魚介類中の水銀、とくにメチル水銀やエチル水銀の利用能を正確に評価するうえで、動物モデルの直接の代わりにはならない可能性があると述べています。
さらに研究チームは、健康リスクの目安となる「標的ハザード指数」を、条件を変えて試算しました。これは摂取量を許容される基準量と比べる指標です。この試算から、魚介類の水銀による健康リスクを正確に評価するには、水銀の化学種ごとの含有量を正確に測ることと、信頼できる利用能のデータを得ることが欠かせないことが示されたとしています。
研究が示すこと
この研究は、魚介類に含まれる水銀について、化学種ごとの生物学的利用能のデータを示しました。著者らは、このデータが魚介類を食べることによる水銀の健康リスクをより正確に評価するための参考になり、ほかの食品の水銀評価にも役立つ知見になるとしています。同時に、評価に使う実験方法によって結果の傾向が逆転しうることも示されました。リスク評価では、どの方法で得たデータなのかを慎重に見る必要があることを伝える研究といえます。
原著論文の著者・所属:Junfeng Liu(Key Laboratory for Analytical Science of Food Safety and Biology of MOE, College of Chemistry, Fuzhou University, Fuzhou, Fujian 350108, China)、Yuting Yang(Key Laboratory for Analytical Science of Food Safety and Biology of MOE, College of Chemistry, Fuzhou University, Fuzhou, Fujian 350108, China)、Ying Peng(Key Laboratory for Analytical Science of Food Safety and Biology of MOE, College of Chemistry, Fuzhou University, Fuzhou, Fujian 350108, China)、Chen Lin(Key Laboratory for Analytical Science of Food Safety and Biology of MOE, College of Chemistry, Fuzhou University, Fuzhou, Fujian 350108, China)、Yongning Wu(NHC Key Lab of Food Safety Risk Assessment, Food Safety Research Unit (2019RU014) of China Academy of Medical Science, China National Center for Food Safety Risk Assessment, Beijing 100021, China)、Feng Fu Fu(Key Laboratory for Analytical Science of Food Safety and Biology of MOE, College of Chemistry, Fuzhou University, Fuzhou, Fujian 350108, China)、Yue Lin(Key Laboratory for Analytical Science of Food Safety and Biology of MOE, College of Chemistry, Fuzhou University, Fuzhou, Fujian 350108, China)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Junfeng Liu, Yuting Yang, Ying Peng, et al. Evaluation and comparison of the in vitro and in vivo bioavailability of mercury species in various types of seafood for assessing seafood mercury risks. Journal of Hazardous Materials Advances 2026-08-01. DOI: 10.1016/j.hazadv.2026.101483. 原著ライセンス:CC BY.