著者の所属・活動拠点の国は、中国です。
掲載誌:Foods
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
捨てられてきた残渣に着目した研究の目的
血液中の脂質が異常に高くなる高脂血症は、動脈硬化を進める要因とされ、肥満の広がりとともに大きな健康課題になっています。治療薬はありますが、肝臓や腎臓への副作用が知られています。論文は、副作用の少ない食事面からの対策が求められていると述べています。
その候補の一つが食物繊維です。食物繊維は胆汁酸と結びついて脂質の吸収を遅らせます。また、小腸で消化されずに大腸で腸内細菌に分解されるため、腸内細菌の構成にも影響します。
研究チームが注目したのは、食用・薬用キノコとして広く食べられているキクラゲ(Auricularia heimuer)です。キクラゲからは産業的に多糖類が抽出されていますが、その際に大量の残りかすが出て、多くは廃棄されています。著者らは、この残渣からまだ使える食物繊維を取り出し、その構造と脂質を下げる働きを調べることを目的としました。
取り出した食物繊維の特徴と試験管内での働き
研究チームは、熱水で多糖類を抽出した後のキクラゲ残渣を、セルロースを分解する酵素(セルラーゼ)で処理し、食物繊維を取り出しました。得られた物質は、総食物繊維の大部分が水に溶けるタイプの水溶性食物繊維でした。そのため「ASDF」と名付けられました。
分析の結果、ASDFは分子量が約340.7キロダルトンの多糖でした。主な成分はグルコース(約61%)とマンノース(約18%)です。電子顕微鏡で見ると、表面に孔のある中空の球状をしていました。結晶部分と非結晶部分が混在する「半結晶性」の構造で、熱にも比較的安定していました。著者らは、この中空で多孔質な形によって表面積が大きくなり、コレステロールや胆汁酸塩を捕まえやすくなっている可能性があると考察しています。
試験管内の実験では、ASDFはコレステロールの吸着と胆汁酸塩との結合で強い能力を示しました。それぞれの働きが半分に達する濃度(IC50)は、0.5731 mg/mLと0.5730 mg/mLと報告されています。さらに、ASDFは三つの消化酵素の働きも抑えました。脂肪を分解するリパーゼと、糖質の消化に関わるα-アミラーゼ、α-グルコシダーゼです。
肥満マウスでの結果
次に研究チームは、雄のマウスに高脂肪食を8週間与えて肥満状態にしました。その後も高脂肪食を続けながら、ASDFを体重1kgあたり100、200、400 mgの3段階の量で、6週間にわたり胃に直接投与しました。比較のため、通常食のマウス、高脂肪食のみのマウス、薬剤オルリスタットを投与したマウスも用意しました。
その結果、ASDFは量に応じて体重の増加を抑えました。血液検査では、次の値が下がったと報告されています。中性脂肪(TG)、総コレステロール(TC)、いわゆる悪玉のLDLコレステロール、そして肝臓の状態を示す酵素AST・ALTです。一方、いわゆる善玉のHDLコレステロールは増えました。肝臓に脂肪がたまる状態(脂肪肝)も軽くなり、脂肪の合成や燃焼に関わる遺伝子(SREBP-1c、FAS、CPT-1)の働きが調節されていました。
腸内細菌を遺伝子解析で調べると、高脂肪食で乱れた細菌の構成がASDFによって変化しました。バクテロイデス属やムリバキュラム科の細菌が増えていました。また、高脂肪食で過剰に増えていたアッカーマンシア属やブラウティア属の増加が抑えられていました。
血液中の代謝物を網羅的に調べる解析(メタボロミクス)も行われました。ASDFはコハク酸と20-ヒドロキシエクジソンを減らし、13(S)-HODEを増やしました。高脂肪食で生じた異常な変化を、元に戻す方向に働いていたことになります。著者らは、これらの変化が脂質代謝、胆汁酸の代謝、そして脂質代謝の調節に関わるPPARシグナル経路に関係していると報告しています。
研究が示すこと
この研究は、これまで廃棄されてきたキクラゲの抽出残渣から、特徴的な構造をもつ水溶性食物繊維を取り出せることを示しました。試験管内とマウスの実験では、この食物繊維が幅広い変化と結びついていたことが報告されています。脂質の吸収に関わる働き、血中脂質、肝臓の脂肪、腸内細菌、血中代謝物です。著者らは、この成果を二つの方向に向けた理論的な基盤と位置づけています。キノコ副産物の高付加価値な利用と、脂質を下げる機能性食品の開発です。
原著論文の著者・所属:Tianci Wang(College of Plant Protection, Jilin Agricultural University, Changchun 130118, China; Engineering Research Center of Edible and Medicinal Fungi, Ministry of Education, Jilin Agricultural University, Changchun 130118, China)、Zikun Jia(College of Plant Protection, Jilin Agricultural University, Changchun 130118, China; Engineering Research Center of Edible and Medicinal Fungi, Ministry of Education, Jilin Agricultural University, Changchun 130118, China)、Heriban Mei(College of Plant Protection, Jilin Agricultural University, Changchun 130118, China; Engineering Research Center of Edible and Medicinal Fungi, Ministry of Education, Jilin Agricultural University, Changchun 130118, China)、Wenbo Yan(College of Plant Protection, Jilin Agricultural University, Changchun 130118, China; Engineering Research Center of Edible and Medicinal Fungi, Ministry of Education, Jilin Agricultural University, Changchun 130118, China)、Ling Su(College of Plant Protection, Jilin Agricultural University, Changchun 130118, China; Engineering Research Center of Edible and Medicinal Fungi, Ministry of Education, Jilin Agricultural University, Changchun 130118, China)、Qi Wang(College of Plant Protection, Jilin Agricultural University, Changchun 130118, China; Engineering Research Center of Edible and Medicinal Fungi, Ministry of Education, Jilin Agricultural University, Changchun 130118, China)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Tianci Wang, Zikun Jia, Heriban Mei, et al. Multi-Omics Analysis Reveals the Hypolipidemic Effect of Dietary Fiber from Auricularia heimuer Residue. Foods 2026-10-26. DOI: 10.3390/foods15213828. 原著ライセンス:CC BY.