著者の所属・活動拠点の国は、中国です。

掲載誌:Frontiers in Microbiology

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

伝統発酵食品の機能を調べる

漿水(ジャンシュイ)は、中国北西部で親しまれてきた発酵食品です。季節の青菜、あらかじめ作った小麦粉のスープ、熟成した漿水の種を使い、主に野菜の表面にいる微生物の働きで発酵させます。栄養に富み、特に夏に清涼飲料として飲まれてきました。一方、伝統的な作り方には、製造に時間がかかる、日持ちが短い、雑菌が混入しやすいといった課題があります。著者らによれば、これまでの研究は菌の分離が中心で、原料に注目した機能性の研究は限られていました。

漿水で最も多い微生物は乳酸菌です。乳酸菌には血糖値を下げる働きがあるという報告が積み重なっています。また、食用・薬用に使われる植物のタンポポ(モウコタンポポ)には、血糖や脂質に関わる成分が含まれることが知られています。ただし、これまでは乳酸菌製剤とタンポポ由来の製品を別々に調べた研究が中心でした。漿水由来の決まった乳酸菌の組み合わせでタンポポ漿水を丸ごと発酵させた場合に、代謝にどう影響するかは、あまり分かっていませんでした。

そこで研究チームは、乳酸菌を接種して発酵させたタンポポ漿水を作りました。そして、高血糖状態にしたマウスで、血糖に関わる指標、炎症、酸化ストレス、膵臓と腎臓の組織、腸内細菌への影響を調べました。著者らは、機能性発酵食品として開発するための予備的な根拠を得ることを目的に掲げています。

発酵飲料の作り方と動物実験の設計

使った乳酸菌は3株です。いずれも、自然発酵させたタンポポ漿水から研究チームが以前に分離・選抜したもので、ラクチプランチバチルス・プランタルム1株とラクチカゼイバチルス・パラカゼイ2株です。湯通ししたタンポポの葉と小麦粉のスープを混ぜて殺菌し、菌を1株だけ、または2〜3株組み合わせて加え、28℃で36時間発酵させました。組み合わせは計7通りです。濁り、色、香り、味を10人の評価者が採点したところ、3株を同じ割合で混ぜた組み合わせの評価が最も高くなりました。沈殿がなく澄んでいて、香りが爽やかで、酸味がほどよいという評価でした。動物実験にはこの組み合わせを使い、出来上がった飲料には1ミリリットルあたり約6.67億個の生きた乳酸菌が含まれていました。

動物実験では、雄のマウス45匹を15匹ずつ3群に分けました。普通の餌を与える正常群、高糖・高脂肪の餌に加えて膵臓の細胞を傷つける薬剤ストレプトゾトシンを注射して高血糖にしたモデル群、そしてモデル群と同じ処置をしながら発酵タンポポ漿水を毎日口から胃へ投与した漿水群です。漿水の投与は高血糖の状態を作るのと同時に始めました。発症後に治療する形ではなく、予防的に投与する設計です。正常群とモデル群には同量の生理食塩水を投与しました。

研究チームは、体重と空腹時の血糖値を継続して測定しました。さらに、ブドウ糖を飲ませた後の血糖値の推移を見る糖負荷試験も行いました。ほかに、過去一定期間の血糖の高さを反映する糖化ヘモグロビン(HbA1c)、肝臓に蓄えられた糖であるグリコーゲン、血液中の炎症に関わる物質、肝臓の抗酸化酵素、そして膵臓と腎臓の顕微鏡像を調べました。14週目にはふんを採取し、腸内細菌の構成を遺伝子解析しました。

血糖値や関連指標に見られた変化

発酵の前後で飲料の成分を分析したところ、ポリフェノールの一種であるクロロゲン酸、カフェ酸、イソクロロゲン酸AとCは、発酵前には検出されませんでしたが、36時間の発酵後には検出されました。クロロゲン酸は1リットルあたり約1158マイクログラムで、調べた5成分の中で最も多くなりました。ルテオロシドも1リットルあたり52.59マイクログラムから89.33マイクログラムに増えました。

マウスでは、14週目の空腹時血糖値が正常群で4.42ミリモル毎リットル、モデル群で12.46ミリモル毎リットルでした。これに対して漿水群は9.11ミリモル毎リットルで、モデル群との差は統計的に意味のあるものでした。糖負荷試験では、モデル群の血糖値は120分後も20.32ミリモル毎リットルと高いままでした。漿水群は120分後には投与前をわずかに上回る程度まで下がり、モデル群より有意に低い値でした。体重の増え方は、モデル群では正常群より小さくなりました。漿水群ではモデル群より体重の増え方が大きく、正常群との間に有意な差はありませんでした。

漿水群では、モデル群に比べてHbA1cが有意に低くなりました。肝臓のグリコーゲン量は、モデル群の1グラムあたり0.81ミリグラムに対し、漿水群では2.01ミリグラムでした。炎症については、炎症を抑える物質IL-10が14週目にモデル群より有意に高くなりました。一方で、炎症を促す物質TNF-αとIL-6は10週目に一時的に上昇しており、変化は一様ではありませんでした。肝臓では、14週目に抗酸化酵素の一つであるカタラーゼの活性がモデル群より有意に高く、脂質が酸化されたときにできる物質MDAは有意に低くなりました。

顕微鏡で組織を観察すると、モデル群の膵臓には細胞の壊死や萎縮、むくみなどが見られました。漿水群ではこうした変化が軽くなっていました。腎臓でも、モデル群に見られた糸球体の腫れや炎症細胞の集まりが、漿水群ではより軽度でした。腸内細菌では、漿水群で多様性の指標がモデル群より高い傾向を示しました。代謝の健康との関連がよく指摘されるアッカーマンシア属の割合も、漿水群で高くなっていました。

研究から分かること

著者らは、3株の乳酸菌で発酵させたタンポポ漿水が、高血糖モデルのマウスで、血糖値の上昇の抑制、糖を処理する能力の改善、炎症と酸化ストレスの偏りの緩和、膵臓や腎臓の傷の軽減、腸内細菌の変化と結びついていたと結論づけています。血糖、炎症、酸化、組織、腸内細菌という複数の側面で同じ方向の変化がそろって見られた点を、著者らは予備的な根拠として位置づけています。

一方で、著者らは解釈に慎重な姿勢も示しています。アッカーマンシア属の増加は関連として観察されたもので、この菌が血糖の改善を直接もたらしたことを示すものではないとしています。また、既存の治療薬と比較する群がなかったこと、使った動物モデルと投与方法が一つだけであること、詳しい仕組みは直接確かめていないことを、研究の限界として挙げています。この研究は、伝統的な発酵食品を決まった乳酸菌で作ったとき、マウスの体にどのような変化が見られるかを多面的に示した、初期段階の成果だといえます。

原著論文の著者・所属:Xian-Gang Meng(Department of Bioengineering, School of Biological and Pharmaceutical Engineering, Lanzhou Jiaotong University)、Jia-ni Lu(Department of Bioengineering, School of Biological and Pharmaceutical Engineering, Lanzhou Jiaotong University)、Hui Yao(Department of Bioengineering, School of Biological and Pharmaceutical Engineering, Lanzhou Jiaotong University)、Qing-kai Jin(Department of Bioengineering, School of Biological and Pharmaceutical Engineering, Lanzhou Jiaotong University)、Yi-xin Zhang(Department of Bioengineering, School of Biological and Pharmaceutical Engineering, Lanzhou Jiaotong University)、Zhi-hui Wang(Department of Bioengineering, School of Biological and Pharmaceutical Engineering, Lanzhou Jiaotong University)、Tuan-Jie Che(Innovation Center of Functional Genomics and Molecular Diagnostics Technology of Gansu Province, Engineering Laboratory for Biochips of Gansu Province, Lanzhou, China)、Yan-Wen Gui(Department of Bioengineering, School of Biological and Pharmaceutical Engineering, Lanzhou Jiaotong University)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Xian-Gang Meng, Jia-ni Lu, Hui Yao, et al. Effects of lactic acid bacteria-fermented dandelion Jiangshui on blood glucose levels in hyperglycemic mice. Frontiers in Microbiology 2026-08-13. DOI: 10.3389/fmicb.2026.1910064. 原著ライセンス:CC BY.