著者の所属・活動拠点の国は、中国です。

掲載誌:Foods

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

茶殻に残る多糖類に着目した研究

お茶を淹れたあとに残る茶殻には、まだ多くの成分が含まれています。著者らによると、ポリフェノールやカフェインのような小さな分子は抽出されやすい一方、多糖類と呼ばれる大きな分子は茶殻に残りやすく、有効活用の余地がある資源とされています。

この研究で扱ったのは、中国福建省永春県で生まれた烏龍茶の品種「仏手茶」の茶殻です。研究チームが注目したのは、植物の細胞壁に含まれるペクチン系の多糖です。ペクチンは、ガラクツロン酸という酸性の糖が多くつながった骨格を持つ多糖です。仏手茶の多糖については、構造や腸内細菌に利用される性質がほとんど分かっていませんでした。

多糖のはたらきは、分子の大きさや糖のつながり方に左右されるといわれます。そこで研究チームは、薬品を使わずに分子を短く切ることができる超音波処理に着目しました。仏手茶のペクチン多糖を超音波で処理すると構造がどう変わり、乳酸菌の一種がそれを利用しやすくなるのかを調べました。

抽出方法の比較と超音波による構造の変化

研究チームはまず、茶殻から多糖を取り出す方法を二つ比べました。一つは熱水だけで抽出する方法、もう一つは、セルロースを分解する酵素で細胞壁をゆるめてから熱水で抽出する方法です。条件を最適化した結果、乾燥重量あたりの収率は熱水抽出で6.74%、酵素を併用した抽出で11.10%と報告されています。

精製した多糖には、強さと時間を変えた4通りの条件で超音波を当てました。その結果、見かけの分子量は未処理の約1080キロダルトンから、処理後には690〜824キロダルトンへ下がりました。最も小さくなったのは120ワットで45分処理した試料で、その後の実験にはこの試料が使われています。著者らは、この条件があらゆる場合に最適だという意味ではないと断っています。

処理後の試料では、ガラクツロン酸などの酸性の糖(ウロン酸)の割合が14.34%から23〜24.6%に増え、ブドウ糖の割合は減りました。電子顕微鏡で見ると、未処理の多糖は滑らかで詰まった塊でした。これに対し、処理後の多糖は穴が多く、細かく崩れた形をしていました。分子の立体的な秩序を調べる色素試験でも、超音波処理によって規則的な高次構造が崩れたことを示す結果が得られています。

超音波処理した多糖について、糖どうしのつながり方も詳しく分析されました。その結果、ガラクツロン酸が直線状に連なる部分が多く、アラビノースやガラクトースを含む枝分かれ構造がわずかに含まれていると推定されました。ただし著者らは、これは暫定的な構造モデルだとしています。糖の並び順や各部分のつながり方は確定できておらず、超音波でどの結合が切れたのかも今回のデータからは特定できていません。

乳酸菌による利用と、菌の中で起きた変化

次に研究チームは、ヒトの便から分離された乳酸菌ラクトバチルス・サリバリウスBXP5株を使い、試験管内で培養実験を行いました。培地には、糖を加えないもの、ブドウ糖を加えたもの、未処理の多糖を加えたもの、超音波処理した多糖を加えたものの4種類を用意しました。

菌の増え具合を濁りで測ったところ、超音波処理した多糖を与えた培地では、12時間後と24時間後のいずれも、未処理の多糖より菌が有意に多く増えていました。ペクチンを分解する酵素の活性も、超音波処理した多糖の培地の方が一貫して高くなりました。24時間後の値は、未処理の多糖で1ミリリットルあたり12.91単位、処理した多糖で18.00単位と報告されています。

研究チームはさらに、培養液に含まれる代謝物と、菌が作るタンパク質を網羅的に調べました。超音波処理した多糖と未処理の多糖を比べると、差のある代謝物が165種類見つかり、核酸の材料となるプリンやピリミジンの代謝に関わる経路で変化が目立ちました。タンパク質では359種類に差がありました。そうしたタンパク質は、タンパク質合成を担うリボソーム、ビタミンB1(チアミン)の代謝、ペントースリン酸経路などの経路に集中していました。ペントースリン酸経路は、糖から核酸の材料を作る代謝の道筋です。著者らは、これらの結果から、超音波処理した多糖が菌の増殖に関わる代謝をより活発にしている可能性を示唆しています。

この研究が示すこと

この研究は、茶殻から取り出したペクチン多糖を超音波で処理すると、分子が小さくなり、酸性の糖に富む部分の割合が高まることを示しました。そして、そうした構造の変化とともに、特定の乳酸菌株による試験管内での利用が高まることを報告しています。

ただし、今回の結果は一つの菌株を試験管内で培養して得られたものです。著者ら自身も、複雑な腸内細菌の集団やヒトの健康への影響をそのまま表すものではないと述べています。また、精製後もわずかに残ったポリフェノールが結果に影響した可能性は、完全には否定できないとしています。それでも本研究は、これまでほとんど調べられていなかった仏手茶の茶殻由来の多糖について、超音波による構造の変化と菌による利用のされ方を結びつけて示した点で、茶殻という資源の性質を理解する手がかりとなる報告です。

原著論文の著者・所属:Meng Sun(College of Food Science, Fujian Agriculture and Forestry University, Fuzhou 350002, China)、Juqing Huang(Fujian Key Laboratory of Agricultural Product (Food) Processing, Fuzhou 350002, China; Institute of Food Science and Technology, Fuzhou 350003, China; Key Laboratory of Processing of Subtropical Special Fruits and Vegetables and Mushrooms, Ministry of Agriculture and Rural Affairs, Fuzhou 350002, China)、Ruofei Zheng(College of Food Science, Fujian Agriculture and Forestry University, Fuzhou 350002, China)、Jiaxin Chen(College of Food Science, Fujian Agriculture and Forestry University, Fuzhou 350002, China)、Lingyue Zhong(Fujian Key Laboratory of Agricultural Product (Food) Processing, Fuzhou 350002, China; Institute of Food Science and Technology, Fuzhou 350003, China; Key Laboratory of Processing of Subtropical Special Fruits and Vegetables and Mushrooms, Ministry of Agriculture and Rural Affairs, Fuzhou 350002, China)、Jie Li(Fujian Key Laboratory of Agricultural Product (Food) Processing, Fuzhou 350002, China; Institute of Food Science and Technology, Fuzhou 350003, China; Key Laboratory of Processing of Subtropical Special Fruits and Vegetables and Mushrooms, Ministry of Agriculture and Rural Affairs, Fuzhou 350002, China)、Xuefang Guan(Fujian Key Laboratory of Agricultural Product (Food) Processing, Fuzhou 350002, China; Institute of Food Science and Technology, Fuzhou 350003, China; Key Laboratory of Processing of Subtropical Special Fruits and Vegetables and Mushrooms, Ministry of Agriculture and Rural Affairs, Fuzhou 350002, China)、Qi Wang(Fujian Key Laboratory of Agricultural Product (Food) Processing, Fuzhou 350002, China; Institute of Food Science and Technology, Fuzhou 350003, China; Key Laboratory of Processing of Subtropical Special Fruits and Vegetables and Mushrooms, Ministry of Agriculture and Rural Affairs, Fuzhou 350002, China)、Yafeng Zheng(College of Food Science, Fujian Agriculture and Forestry University, Fuzhou 350002, China)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Meng Sun, Juqing Huang, Ruofei Zheng, et al. Ultrasonic Degradation Improves the In Vitro Utilization of Oolong Tea Pectic Polysaccharides: Structure Characterization and Multi-Omics Insights. Foods 2026-08-05. DOI: 10.3390/foods15152749. 原著ライセンス:CC BY.