やりいか(生)の寿命は、ほぼ1年と考えられています。秋に出回る小ぶりなものが育ち、冬から春には大きなものが水揚げされます。刺し身の歯ごたえだけでなく、春には子持ちの味も楽しめる食材です。

身はやや薄めで、筋肉質です。コリコリした歯ごたえがあり、甘みも持ち味です。青森では「冬いか」と呼ばれ、西伊豆には、昼の一本釣りと活魚出荷を特徴とする認定食材「仁科のヤリイカ」があります。9月の今は、こうした冬の食べどきを少し先に控えています。

沖合で育ち、春には産卵のため岸へ近づきます

やりいかは、細長くとがった体が槍の穂先に似ていることから名づけられました。北海道南部以南の各地に分布し、産卵のため沿岸へ寄ってくるところを、定置網や釣りで漁獲します。

北海道周辺では、春に生まれた稚イカが春から夏に沖合の深い場所へ移り、秋も沖合で成長します。冬には次第に岸へ近づき、成熟が進みます。春になると、産卵のため浅い沿岸へ移動します。

産卵を終えると、雌も雄も一生を終えます。冬に近づく岸辺は、漁の場であるとともに、次の世代を残す場所でもあります。

雄は雌よりも大きく育ちます。春に出回る小さなものには、卵を持った雌もあります。産卵の際には、寒天質の袋に入った卵を、海藻や海底の岩などに産みつけます。

「冬いか」の漁は、地域によって春まで続きます

青森県では、やりいかは12月から4月頃にかけて漁獲されます。刺し身では透明感のある身の甘みや旨み、ほどよい歯触りが特徴として紹介されています。

北海道では、同じやりいかでも漁の時期に幅があります。南西部沿岸では10月から翌1月、渡島・檜山では3月から5月に漁獲されます。春の水揚げまで含めると、「冬いか」の季節は長く続きます。

9月は、ここで挙げた地域の漁期をこれから迎える時期です。やりいかは秋から冬に成長して甘みが増すともいわれます。食べどきは、成長や産卵に伴う移動と重なっています。

仁科のヤリイカは、10月から翌3月が旬・水揚げ時期

西伊豆町の仁科では、秋から冬にかけてやりいかの水揚げが最盛期を迎えます。旬は10月から翌3月です。青森の漁期は12月から4月頃、渡島・檜山では3月から5月ですが、仁科は秋から旬を迎えます。

「仁科のヤリイカ」は、2012年に「しずおか食セレクション」に認定された食材です。肉厚な身と特有の甘みを持ち、生きたまま出荷される高級活イカです。

漁場の一つは、駿河湾の石花海(せのうみ)です。仁科では昼に出航し、海底近くにいるやりいかを一本釣りで揚げます。

釣り上げてからも、表皮を傷めないよう素手では扱わず、手袋を使って活魚槽へ入れます。港へ向かう間はポンプで海水を入れ替え、槽に衝撃が伝わらないよう船の速さにも配慮します。荷揚げに使うのも、結び目のない網のタモです。

一連の扱いは、生きた状態で市場へ届けるためのものです。仁科のやりいかは、肉厚な身の柔らかさと、とろりとした甘みが持ち味とされています。

刺し身の栄養は、生のやりいかの値で見られます

刺し身で食べるときの栄養は、生のやりいかの値が参考になります。たんぱく質は、可食部100gあたり17.6gです。主な成分をまとめました。

成分
エネルギー79kcal
たんぱく質17.6g
脂質1.0g
炭水化物0.4g
食塩相当量0.4g

ほかに、脂肪酸の仲間であるDHA(ドコサヘキサエン酸)は170mg、EPA(イコサペンタエン酸)は75mgを含みます。これらも生の可食部100gあたりの値です。

数値は内臓などを除いた食べる部分のもので、しょうゆや薬味を含みません。また、仁科産だけの成分値ではなく、やりいかという食品の値です。詳しい成分はやりいかの食品ページに掲載しています。

秋の小ぶりな身は、糸造りにする食べ方もあります

刺し身の仕立て方の一つは、身を長さ5cmほどの細い短冊にするものです。秋の小ぶりなやりいかを、さらに細く切った糸造りにする食べ方もあります。しょうがとしょうゆを合わせ、ご飯にのせる食べ方も紹介されています。

刺し身になるのは胴だけではなく、耳やげそもです。足を生食に使う場合は、吸盤を取り除いて食べやすい大きさに切ります。生食には、適切に処理された生食用のものを使います。

生食時の注意:いかにはアニサキスが寄生することがあります。内臓の除去や細切りだけでは対策にならず、しょうゆやわさびでも死滅しません。予防方法は厚生労働省の案内を参照してください。

冬から春には、大きな身の刺し身に加え、子持ちのやりいかも出回ります。子持ちを煮つけると、身とは別に卵のほくほくした食感が楽しめます。

秋に出回る小ぶりなやりいかも、春の子持ちも、ほぼ一年の成長の中にあります。身の歯ごたえを味わう刺し身から、卵の食感を楽しむ春の煮つけへ。やりいかの旬は、姿と食べ方を変えながら続いていきます。

参考資料