この研究は、インドネシアの研究機関の研究論文です。
掲載誌:GEMA Lingkungan Kesehatan
ライセンス: CC BY-SA 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
何を目的とした研究か
幼児期の低栄養は、インドネシアをはじめ多くの国で依然として公衆衛生上の課題であり、体重の不足だけでなく身長の伸びの停滞や感染症のリスクとも関連すると指摘されています。著者らは、こうした状況に対して身近な食材を活かす方法に注目しました。
取り上げられたのは、カムルチー(学名 Channa striata、現地名ガブス)という淡水魚を加工した「でんぶ(フロス、ほぐし身をそぼろ状にした保存食)」です。研究チームによると、この魚は熱帯地域で入手しやすく、たんぱく質やカルシウムなどを含み、加工すれば保存や配布がしやすい一方で、実際に低栄養の幼児の成長や食事内容を改善するかを対照群と比べて検証した研究はまだ限られていました。
そこで本研究は、西カリマンタン州ポンティアナック市の保健センター管轄地域に住む生後24〜59か月の低栄養の幼児を対象に、このでんぶを1か月与えることで体重・身長と、エネルギーや一部の栄養素(たんぱく質、脂質、炭水化物、カルシウム)の摂取量が改善するかを調べることを目的としています。
どのように調べたか
研究チームは、介入の前後に測定を行い、介入群と対照群を比較する準実験デザイン(無作為割り付けではなく、条件を満たす対象者を目的に沿って選ぶ方法)を採用しました。年齢に対する体重の指標で低栄養と判定された幼児20人を選び、介入群10人と対照群10人に分けています。魚アレルギーのある子どもや、栄養状態に影響しうる慢性疾患・先天的な異常がある子どもは対象から除かれました。
介入群には、カムルチーのでんぶを1日30gずつ30日間連続で与えました。製品はカムルチーを主原料とし、カルシウム源としてナマズ類の骨粉、食物繊維源および乳化剤としてクルウィ(パンノキの一種)を加え、香辛料やココナッツミルクなどで調味したものです。100g入りの袋を10gずつ3回分に分け、食事の副菜として供されました。対照群にはこのでんぶは与えられていません。摂取の記録は保護者が毎日つけ、研究者が週1回の家庭訪問で確認しています。
体重はデジタル体重計、身長はマイクロトワズを用い、訓練を受けた測定者がWHOの手順に沿って介入前後に測りました。食事は24時間思い出し法(前日に食べたものを保護者に聞き取る方法)を、平日2日と休日1日の連続しない3日間について介入前後に実施し、栄養計算ソフトで平均摂取量を算出しています。統計解析では、各群内の前後変化をWilcoxonの符号順位検定で、両群の変化量の差をMann–WhitneyのU検定で比較し、有意水準は5%未満としました。研究は保健省ポンティアナック・ポリテクニックの倫理委員会の承認を得て、保護者の書面同意のうえで行われています。
報告された主な結果
介入群では、群内の前後比較で体重が9.44±1.24kgから9.68±1.11kg(差0.24kg、p=0.007)へ、身長が84.77±6.74cmから84.88±6.66cm(差0.11cm、p=0.016)へと有意に増えたと報告されています。摂取量についても、エネルギーが168.20kcal(p=0.005)、たんぱく質が4.92g(p=0.009)、炭水化物が20.84g(p=0.005)、カルシウムが59.00mg(p=0.009)増加し、脂質は有意な変化がありませんでした(p=0.859)。
著者らが判断の主な根拠としたのは、両群の変化量の差です。体重の増え方(U=11.0、p=0.002)、身長の増え方(U=25.5、p=0.042)、エネルギー摂取量の増え方(U=7.0、p=0.001)は、介入群のほうが有意に大きいという結果でした。一方、たんぱく質(p=0.082)、脂質(p=0.307)、炭水化物(p=0.174)、カルシウム(p=0.112)については、群間の差は統計的に有意ではありませんでした。つまり、これらの栄養素については、でんぶを与えた場合に与えない場合より摂取量が増えるとまでは示せなかった、と論文は述べています。
論文は結果の解釈に慎重な姿勢を示しています。対照群でも体重がわずかに増えていることから、変化の一部は子ども本来の成長や研究期間中の食事の変化による可能性があると指摘しています。また身長については、直線的な成長は長い時間をかけて積み重なる過程であり、30日間の変化は「追いつき成長」が起きたことを示すには足りず、初期の変化と見るべきだとしています。カルシウムについても、製品に骨粉を用いてはいるものの、子どもの体内のカルシウム状態は測定していないため、摂取量の増加を体内の状態や骨の形成の改善と同一視することはできないとしています。さらに、対象が20人と少ないこと、介入期間が30日と短いこと、群への割り付け方法が明確でなく選択バイアスの恐れがあること、24時間思い出し法は日々の変動や保護者の記憶に左右されること、感染症や社会経済状況など調整しきれていない要因があることを限界として挙げています。
この研究が示すこと
著者らは、1日30gのカムルチーのでんぶを30日間与えた群では、与えなかった群に比べて体重・身長・エネルギー摂取量の伸びが大きかったと報告しています。とりわけエネルギー摂取量の増加は、体重の変化を説明しうる筋道として位置づけられています。ただし、たんぱく質や脂質、炭水化物、カルシウムの摂取については群間の差が示されず、結論を出せる段階にはないとされています。
論文は、この製品が計量しやすく扱いやすい形であることから、地元の食材を活かした補助食として可能性があるとしつつ、広く実施すべきと結論づけるには証拠が足りないと述べています。研究チーム自身が、これらの結果は少人数・短期間の予備的な証拠であり、より大きな規模とより強固なデザインの検証なしに一般化すべきではないと位置づけています。
著者:Widyana Lakshmi Puspita(Department of Nutrition, Poltekkes Kemenkes Pontianak, Pontianak, Indonesia)、Suaebah(Department of Nutrition, Poltekkes Kemenkes Pontianak, Pontianak, Indonesia)、Sopiyandi(Department of Nutrition, Poltekkes Kemenkes Pontianak, Pontianak, Indonesia)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Widyana Lakshmi Puspita, Suaebah, Sopiyandi An Intervension Using Gabus Fish Flakes to Improve Body Weight, Height and Nutrient Intake in Undernourished Toddlers. GEMA Lingkungan Kesehatan 2026-08-31. DOI: 10.36568/gelinkes.v24i3.570. 原著ライセンス:CC BY-SA 4.0.
本紹介記事の文章(題名・見出しを含む)は、CC BY-SA 4.0で提供します。原著論文をもとにNutriMap Japanが日本語で要約・説明を加えています。対象は本紹介記事の文章に限り、ヒーロー画像・サイトのロゴ・画面デザイン・他の記事・データベース全体は含みません。