著者の所属・活動拠点の国は、タイ、アメリカです。
掲載誌:Medical Sciences
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
世界的に高齢化が進むなか、タイは2021年に60歳以上が人口の約20%を占める社会となりました。加齢に伴って食欲が落ちたり、栄養の吸収が変化したりすることが知られており、低栄養は身体機能の低下や感染症、生活の質の低下などと関連すると報告されています。
特に、寝たきりの高齢者は自分で動いたり食べたりすることが難しく、食事を介護者に頼る場面も多いため、低栄養に陥りやすいと考えられます。しかし、この集団で低栄養にどのような要因が関わっているかについては、タイ南部を中心に情報が限られていました。そこで研究チームは、タイ南部ナコンシータマラート県の寝たきり高齢者を対象に、低栄養と関連する要因を調べました。
何を調べたか
この研究は、2021年2月から6月に同県の一次医療の拠点で行われた別の調査のデータを、責任者の許可を得て改めて分析したものです。ある一時点の状態を調べる「横断研究」と呼ばれる方法で、対象は無作為抽出などを組み合わせて選ばれた寝たきり高齢者210人でした。
栄養状態は高齢者向けの栄養評価票(MNA)で「正常」「低栄養のおそれ」「低栄養」に分類されました。寝たきりの人は体重計や身長計での測定が難しいため、膝の高さ、腹囲、ふくらはぎや上腕の周囲長などを直接測り、そこから体重・身長・BMIを推定しています。食事の内容は、主な介護者が前日24時間に食べたものを思い出して答える方法で集められました。
210人のうち栄養状態が正常だったのは2人だけで、比較には少なすぎるため分析から除かれました。残る208人について、「低栄養のおそれ」の人と「低栄養」の人を比べ、性別、食事のとり方、腹囲、日常生活動作の自立度、奥歯の本数、炭水化物・たんぱく質・脂質の摂取量を同時に考慮する統計手法で、低栄養と独立して関連する要因を探りました。
主な結果
分析対象208人のうち、19.23%が低栄養のおそれ、80.77%が低栄養と判定され、寝たきり高齢者の多くが栄養面で厳しい状態にあることが示されました。年齢の中央値は82歳で、寝たきりの期間の中央値は30か月でした。
単純な比較では、低栄養の人は低栄養のおそれの人に比べて、ふくらはぎや上腕の周囲長、BMI、腹囲が小さく、日常生活動作の点数も低い傾向がありました。一方、炭水化物・たんぱく質・脂質の摂取量や総エネルギー摂取量には、両グループで統計的な差はみられませんでした。
複数の要因を同時に考慮した分析では、性別と腹囲が低栄養と関連していました。女性は男性に比べて低栄養である見込み(オッズ)が約2.3倍高く、腹囲は1cm大きいごとに低栄養のオッズが約5.2%低いという関連が報告されています。これに対し、食事のとり方(自分で食べる、介助を受ける、管から栄養をとるなど)、日常生活動作の点数、奥歯の本数、各栄養素の摂取量は、他の要因を考慮すると低栄養と有意な関連を示しませんでした。
著者らは、女性で低栄養が多い背景として、もともとの筋肉の蓄えが少ないことや、閉経後のホルモン変化、長期の寝たきりによる筋肉の減少などが関わる可能性を考察しています。また、対象者全体のエネルギー摂取量の中央値は1日約671kcalと低かったものの、介護者による聞き取りのため、実際より少なく報告されている可能性にも触れています。
研究が示すこと
この研究は、タイ南部の寝たきり高齢者では低栄養が非常に多く、女性であることや腹囲が小さいことが低栄養と関連していたことを報告しています。ただし、一時点の調査であるため因果関係は分からず、対象は一つの県に限られ、比較した「低栄養のおそれ」のグループが40人と少ないことから、著者らは結果を慎重に解釈する必要があるとしています。
著者らは、寝たきり高齢者に対して定期的な栄養評価を行う重要性を指摘しています。腹囲は栄養面の弱さを見つける手がかりの一つになり得るものの、それだけで判断するのではなく、総合的な栄養評価とあわせて用いるべきだとしています。
原著論文の著者・所属:Sopida Thipsawat(School of Nursing, The Excellence Center of Community Health Promotion, Walailak University, Nakhon Si Thammarat 80161, Thailand)、Rachadaporn Jantasuwan(School of Nursing, The Excellence Center of Community Health Promotion, Walailak University, Nakhon Si Thammarat 80161, Thailand)、Tipwan Ponthophong(Pak Phaya Subdistrict Health Promoting Hospital, Nakhon Si Thammarat 80000, Thailand)、Ruth B. Grubesic(Nursing and Public Health Sciences, Schreiner University Main Campus, 2100 Memorial Blvd., Kerrville, TX 78028, USA)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Sopida Thipsawat, Rachadaporn Jantasuwan, Tipwan Ponthophong, et al. Factors Associated with Malnutrition Among Bedridden Older Adults in Nakhon Si Thammarat, Thailand: A Secondary Cross-Sectional Analysis. Medical Sciences 2026-09-26. DOI: 10.3390/medsci14060606. 原著ライセンス:CC BY.