著者の所属・活動拠点の国は、マカオ、中国、アメリカです。
掲載誌:Ultrasonics Sonochemistry
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的:海苔のたんぱく質で植物油を「脂身」のような形に
肉製品に使われる動物性脂肪は、風味や口当たりを生み出す一方で、飽和脂肪酸を多く含みます。飽和脂肪酸は心血管疾患などのリスクとの関連が指摘されています。家畜生産の環境負荷への懸念もあり、液体の植物油を固形に近い状態に変えて動物性脂肪の代わりにする方法が研究されています。
有望な方法の一つが「高内相ピッカリングエマルションゲル」です。エマルションは油と水が混ざり合った状態のことで、通常は界面活性剤で安定させます。ピッカリングエマルションでは、界面活性剤ではなく微小な固体粒子を油滴の表面に付着させて安定させます。油の割合が74%を超えるものを高内相と呼びます。この方法を使うと、植物油の脂肪酸組成を変えずに、半固体状の素材にできます。
ただし、陸上植物のたんぱく質を大量に使うと、食料作物と農地や水を奪い合うという課題があります。そこで研究チームは、年間生産量が100万トンを超える海苔(スサビノリ)に着目しました。海苔はたんぱく質を豊富に含みますが、エマルションの安定化への利用はほとんど調べられていません。研究チームは、海苔たんぱく質を化学的に改変し、さらに多糖類のアルギン酸ナトリウムと組み合わせることで、安定した高油分のエマルションゲルを作ることを目指しました。
どのように粒子を作ったか
研究チームはまず、アルカリで溶かし出して酸で沈殿させる方法で、海苔からたんぱく質を抽出しました。抽出率は約19.0%、たんぱく質の純度は約73.7%と報告されています。次に、このたんぱく質に「スクシニル化」という化学修飾を施しました。スクシニル化はたんぱく質にスクシニル基という化学構造を結合させる処理で、たんぱく質の表面に負の電荷を増やし、形を変化させます。修飾の度合いは最大で約74.4%に達しました。
続いて、酸性条件で正に帯電させたたんぱく質と、負に帯電したアルギン酸ナトリウムを混ぜました。プラスとマイナスが引き合う力によって両者が結びつき、複合粒子ができます。その後、50℃に保ちながら超音波を当てて、粒子を細かくしました。超音波の出力と処理時間を変えて調べた結果、450Wで30分処理したときに粒子が最も小さくなりました。
研究チームは、粒子の大きさや表面電荷、赤外分光法やX線回折で調べた分子構造、粒子が油と水のどちらになじみやすいかを示す接触角を測定しました。さらに、凍結した試料を観察する電子顕微鏡や蛍光顕微鏡を使って、エマルション内部の構造も観察しました。
主な結果:改変と複合化で油滴が小さく安定に
論文によると、スクシニル化したたんぱく質とアルギン酸の複合粒子は、改変していないたんぱく質を使った複合粒子より小さくなりました。平均粒径は約2.6マイクロメートルで、未改変の場合は約3.6マイクロメートルでした。スクシニル化によってたんぱく質の立体構造も変わり、βシートと呼ばれる構造が減って、αヘリックスやβターンが増えました。一方、アミノ酸組成はほとんど変わりませんでした。このため著者らは、乳化性能が向上したのはアミノ酸組成の変化ではなく、たんぱく質の形と表面電荷の変化によるものと考えています。
粒子が油と水の境界で安定して働くには、接触角が90°に近いこと、つまり油と水の両方に同じ程度なじむことが望ましいとされています。スクシニル化したたんぱく質だけでは接触角は90°を下回っていました。アルギン酸と複合化すると、接触角は90°に近づきました。顕微鏡で観察すると、複合粒子は油滴の周りに密な殻をつくって包み込んでいました。スクシニル化たんぱく質を使った複合粒子では、油滴がより小さく、密に、整然と並んでいました。
10日間保存すると、たんぱく質だけ、またはアルギン酸だけで作ったエマルションは、水や油が分離しました。これに対し、複合粒子で作ったエマルションでは分離がほとんど見られませんでした。配合条件を検討した結果、粒子濃度3%以上、たんぱく質とアルギン酸の比率2対10、油の割合75%が最適と報告されています。たんぱく質を多めに配合する例が多い他の研究とは異なり、多糖類の多い配合が最適になった点も特徴です。
この研究が示すこと
この研究は、これまでエマルションへの利用がほとんど調べられていなかった海苔のたんぱく質でも、化学的な改変とアルギン酸との複合化を組み合わせれば、油を75%含む安定したエマルションを形づくれることを示しました。陸上作物に頼らない海洋由来の素材で植物油を固形に近い状態に変えるという、動物性脂肪の代替素材づくりの新しい選択肢を示した研究といえます。
原著論文の著者・所属:Xinxin Si(Faculty of Chinese Medicine, Macau University of Science and Technology, Taipa, Macao 999078, China; Department of Food Science, Zhaoqing University, Zhaoqing, China)、Zhuozhen Li(Faculty of Chinese Medicine, Macau University of Science and Technology, Taipa, Macao 999078, China)、Yixi Chen(Faculty of Medicine, Macau University of Science and Technology, Taipa, Macau)、Bingheng Li(Faculty of Science, The University of Hong Kong, Baiyun District, Guangzhou, China)、Li Zhang(Faculty of Chinese Medicine, Macau University of Science and Technology, Taipa, Macao 999078, China)、Jiefu Hai(Faculty of Chinese Medicine, Macau University of Science and Technology, Taipa, Macao 999078, China)、Yichen Zhang(Faculty of Chinese Medicine, Macau University of Science and Technology, Taipa, Macao 999078, China)、Boyao Su(Faculty of Medicine, Macau University of Science and Technology, Taipa, Macau)、Xiao Feng(College of Food Science and Engineering/Collaborative Innovation Center for Modern Grain Circulation and Safety/Key Laboratory of Grains and Oils Quality Control and Processing, Nanjing University of Finance and Economics, Nanjing, China)、Tian Zhong(Faculty of Medicine, Macau University of Science and Technology, Taipa, Macau)、Ying Xiao(Faculty of Medicine, Macau University of Science and Technology, Taipa, Macau)、Xi Yu(Faculty of Medicine, Macau University of Science and Technology, Taipa, Macau; Department of Environmental Health, Harvard T.H. Chan School of Public Health, Boston, USA; Zhuhai MUST Science and Technology Research Institute, Zhuhai, China. Electronic address: [email protected])
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Xinxin Si, Zhuozhen Li, Yixi Chen, et al. Succinylated nori protein–alginate complex particles prepared using temperature-controlled ultrasonication for the formation of high internal phase Pickering emulsion gels as plant-based fat analogues. Ultrasonics Sonochemistry 2026-08-26. DOI: 10.1016/j.ultsonch.2026.108029. 原著ライセンス:CC BY.