この研究は、アメリカ、中国の研究機関の研究論文です。
掲載誌:Frontiers in Food Science and Technology
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
植物性チーズに「生きた菌」を加えるための研究
植物由来の乳製品代替品の市場は急速に広がっています。著者らによると、こうした製品の多くは従来の乳製品の味や食感の再現を主眼としており、プロバイオティクス(体に良い働きが期待される生きた微生物)の添加といった機能面の強化はあまり進んでいません。
プロバイオティクスを食品に加えるには課題があります。菌は加工時の力や熱、冷蔵流通、胃の強い酸などに弱く、そのまま混ぜただけでは製造から保存、消化までの間に生きたまま残るとは限りません。そこで用いられるのが、菌を小さな粒の中に閉じ込めて守るマイクロカプセル化という技術です。
研究チームは以前の研究で、大豆たんぱく質(大豆分離たんぱく質)と、海藻由来の多糖類であるアルギン酸ナトリウムを壁材とし、カルシウムで固めた微粒子を開発していました。この微粒子は「水中油中水型(W/O/W)二重エマルション」と呼ばれる構造を持ちます。菌を含む小さな水滴を油の中に分散させ、その油滴をさらに外側の水相に分散させた、入れ子状の構造です。
今回の研究の目的は、二つの壁材の配合を変えることで、この微粒子の食感を塗り広げられるタイプから半硬質タイプまでのチーズのように調整しつつ、乳酸菌の一種であるラクトバチルス・ラムノサスGG株の保護性能を保つことでした。論文は、この微粒子を植物性チーズ代替品の新しい構成素材として使うことを想定しています。
配合を系統的に変えて性質を調べる
研究チームは、大豆たんぱく質の濃度を3.0〜6.0%、アルギン酸ナトリウムの濃度を0.5〜2.0%の範囲で、それぞれ3段階に変えました。これらを組み合わせた9通りの配合に、中央の配合の繰り返しを加えた計11回の試作を行っています。結果の解析には応答曲面法を用いました。これは、複数の条件を変えたときに結果がどう変化するかを数式で近似し、条件同士の影響の関係を見通す統計手法です。
調べた項目は、粒の大きさ、水分量、菌の封入効率、硬さ、べたつき、色です。加えて、胃と腸の消化液を模した液に浸したときの菌の生存数と、4℃で2か月間冷蔵したときの菌の生存数も測定しました。顕微鏡観察と赤外分光分析により、微粒子の内部構造や成分間の結合の様子も確認しています。
アルギン酸は硬さと粒の大きさ、大豆たんぱく質は菌の保護に効いた
論文によると、アルギン酸ナトリウムの濃度は微粒子の硬さと粒の大きさを強く左右しました。粒の大きさ(中央値)は約99〜334マイクロメートルの幅で変化し、アルギン酸が多いほど大きくなりました。大豆たんぱく質の影響は比較的小さいものでした。著者らは、アルギン酸が水相の粘りを高めて液滴が細かく分かれにくくなることや、カルシウムによる強い架橋(分子同士の橋渡し)が関係していると考察しています。
硬さも配合によって大きく異なりました。測定値は、最も柔らかい配合で約113グラム、最も硬い配合で約1万4600グラムでした(いずれも測定機が示す力を質量に換算した値)。見た目も、塗り広げられるような状態から、ぼろぼろと崩れるような粒の集まりまで変化しました。著者らは、こうした幅広さが、塗るタイプや崩れやすいタイプの植物性チーズに見合う食感の範囲をカバーし得ると述べています。一方、色は配合によって大きくは変わりませんでした。
菌の保護では、大豆たんぱく質が重要な役割を果たしていたと報告されています。模擬消化液による試験では、大豆たんぱく質とアルギン酸が最も少ない配合で、胃を模した段階の後に菌数が検出限界を下回りました。大豆たんぱく質を多く含む配合では、腸を模した段階まで比較的多くの菌が残りました。冷蔵2か月後の菌数は、配合によって差はあるものの、どの配合でも1グラム当たり10の7乗前後の水準が保たれていました。
顕微鏡観察では、菌が油滴の近くにまとまって存在し、その周囲を大豆たんぱく質とアルギン酸の網目が取り囲む多層構造が確認されました。著者らは、連続したたんぱく質の網目が油滴を包むこの構造が、天然や植物性のチーズに見られる微細構造に似ていると指摘しています。赤外分光分析の結果も、アルギン酸とカルシウムが結合していることと整合するものでした。
食感と菌の保護を配合で調整できる素材
この研究は、壁材の配合を変えることで、微粒子の硬さや粒の大きさといった目に見える構造と、菌を生かして守る機能をそれぞれ調整できることを系統的に示しました。論文は、大豆たんぱく質とアルギン酸による系が両者の橋渡しとなり、プロバイオティクスを強化した植物性チーズ代替品の調整可能な構造基盤になると結論づけています。なお、今回の研究では官能評価(人が実際に食べて評価する試験)は行われておらず、口当たりの感じ方は未評価であると著者ら自身が述べています。
著者:Toshifumi Udo(Department of Food Science and Technology, University of Georgia)、Ethan He(Signature School)、Gopinath Mummaleti(Department of Food Science and Technology, University of Georgia)、Yang Jiao(College of Food Science and Technology, Shanghai Ocean University)、Jinru Chen(Department of Food Science and Technology, University of Georgia)、Rakesh K. Singh(Department of Food Science and Technology, University of Georgia)、Fanbin Kong(Department of Food Science and Technology, University of Georgia)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Toshifumi Udo, Ethan He, Gopinath Mummaleti, et al. Tailoring soy protein isolate–alginate double emulsion composite gel microcapsules for cheese-like texture and probiotic protection in plant-based cheese analogues. Frontiers in Food Science and Technology 2026-10-12. DOI: 10.3389/frfst.2026.1972949. 原著ライセンス:CC BY.