著者の所属・活動拠点の国は、北マケドニア、ブルガリア、インド、韓国です。

掲載誌:Frontiers in Nutrition

ライセンス: CC BY 4.0 対象: 公開論文 確認元: Crossref

捨てられてきたホエイを資源として見直す

チーズをつくると、牛乳が固まった部分とは別に、黄緑がかった液体が大量に残ります。これがホエイ(乳清)です。著者らによると、ホエイは加工された牛乳の体積のおよそ85〜90%にあたり、有機物を多く含むため処理が難しく、長く乳業の廃棄物や環境負荷として扱われてきました。一方で、ホエイには乳糖、良質なたんぱく質、ビタミン、ミネラルが含まれ、牛乳の固形分のおよそ半分が残っています。そのため微生物を育てる発酵の原料として非常に適しています。

この論文は、新しい実験の報告ではなく、これまでの研究をまとめた総説です。研究チームは、ホエイを乳酸菌などで発酵させた飲料を「ポストバイオティクス」の供給源ととらえ、その成り立ち、成分、報告されている生物学的な働き、さらに機能性飲料や食品包装への応用の可能性を一つの流れとして整理しました。著者らは、ホエイの有効利用、プロバイオティクス、ポストバイオティクス、発酵乳製品はこれまで別々に論じられることが多く、これらをつなぐ全体像が欠けていたと述べています。

ポストバイオティクスとは何か、どう調べたか

プロバイオティクスは、適切な量をとると健康に役立つとされる「生きた」微生物です。これに対しポストバイオティクスは、加熱などで不活化した(生きていない)微生物やその構成成分を指し、代謝産物を伴う場合もあります。著者らが用いた定義では、適切な量で健康上の利益をもたらすことが、適切な根拠によって裏付けられていることも条件に含まれます。生きた菌を必要としないため、保存や加工の段階で安定しやすく、免疫の弱い人にも扱いやすいこと、成分を特定しやすく量をそろえやすいことが利点として紹介されています。

文献は、Web of ScienceとScopusというデータベースで「ホエイ発酵」「ポストバイオティクス」「乳酸菌」「機能性飲料」「アクティブ包装」などの語を組み合わせて検索し、主に2016〜2026年の論文から選ばれました。ただし著者ら自身が、これは決まった手順で網羅的に選別する系統的レビューではなく、研究の質の正式な評価や複数の著者による独立した確認も行っていないと明記しており、文献の網羅性や再現性に限界があることを認めています。

発酵の過程と、用語をきちんと区別する重要性

著者らによると、ホエイの乾燥成分の約70〜75%は乳糖で、たんぱく質が約10〜14%を占めます。発酵では、微生物が乳糖をブドウ糖とガラクトースに分解して有機酸などをつくり、たんぱく質を分解して小さなペプチドやアミノ酸を生み出します。ホエイには、レンネットという酵素で固めた中性に近い「スイートホエイ」と、酸で固めた酸性の「酸ホエイ」があり、酸性度やミネラル量の違いが使える菌の種類や発酵の進み方を左右します。

論文が特に強調しているのは、発酵そのものは菌を壊す工程ではなく、生きた菌を増やし、菌の外に代謝産物を放出させる工程だという点です。ポストバイオティクス製剤をつくる場合には、その後に加熱殺菌、超音波、酵素処理などで菌を不活化する工程を別に設けます。そのうえで著者らは用語の使い分けを提案しています。乳酸、GABA(γ-アミノ酪酸)、短鎖脂肪酸、微生物がつくるビタミンは「発酵由来の代謝産物」、ホエイたんぱく質から生じるペプチドは「ホエイ由来の生理活性ペプチド」と呼び、ポストバイオティクスとは区別します。菌を取り除いた培養液の上澄みも、条件を満たさない限り「無細胞の発酵画分」と呼ぶべきだとしています。発酵ホエイ飲料も、生きた菌を含むもの、定義に合うポストバイオティクス製剤を加えたもの、特定の代謝産物を強化したものなどに分類され、発酵させただけでは自動的にポストバイオティクス飲料とはいえないと整理されています。

発酵ホエイ由来の成分については、抗酸化、抗菌、抗炎症の作用や、腸の健康に関わる働きが報告されていると紹介されています。ただし本文で示されている根拠の多くは、試験管内の実験、化学的な測定、動物実験によるものです。

食品包装への応用と、この総説が示すこと

著者らは、飲料にとどまらない利用先として食品包装にも注目しています。ホエイたんぱく質は、透明でしなやかな、食べられるフィルムをつくることができ、酸素や油を通しにくい性質があります。一方で水に弱く、強度にも限りがあるため、改良や他の素材との混合が必要になる場合があります。乳酸菌の培養上澄みには有機酸、バクテリオシン(菌がつくる抗菌性のたんぱく質)、ペプチド、酵素などが含まれるため、こうしたフィルムに組み込んで、微生物の増殖を抑え食品の品質を保つ「アクティブ包装」に使える可能性があると論じられています。

課題としては、ホエイの成分が動物の種類、季節、飼料、製造方法によって大きく変わり、発酵の再現性に影響することや、栄養の追加や工程調整にかかる費用が挙げられています。

この総説は、ホエイを処分すべき廃棄物ではなく、発酵によって価値ある成分を生み出す資源としてとらえ直す視点を示しています。同時に、何を「ポストバイオティクス」と呼べるのかを明確に区別して扱う必要性と、現時点の知見に残る空白を整理した点に、この論文の意味があります。

原著論文の著者・所属:Marija Menkinoska(Faculty of Technology, Goce Delcev University, Stip, North Macedonia)、Zhivka Goranova(Faculty of Food Technology, Institute of Food Preservation and Quality, Agricultural Academy, Sofia, Bulgaria)、Darko Andronikov(Faculty of Technology, Goce Delcev University, Stip, North Macedonia)、Aleksandra Angeleska(Faculty of Veterinary Medicine - Skopje, Ss. Cyril and Methodius University in Skopje, Skopje, North Macedonia)、Radmila Crceva Nikolovska(Faculty of Veterinary Medicine - Skopje, Ss. Cyril and Methodius University in Skopje, Skopje, North Macedonia)、Elizabeta Dimitrieska Stojkovikj(Faculty of Veterinary Medicine - Skopje, Ss. Cyril and Methodius University in Skopje, Skopje, North Macedonia)、Igor Esmerov(Faculty of Veterinary Medicine - Skopje, Ss. Cyril and Methodius University in Skopje, Skopje, North Macedonia)、Risto Uzunov(Faculty of Veterinary Medicine - Skopje, Ss. Cyril and Methodius University in Skopje, Skopje, North Macedonia)、Ljupco Angelovski(Faculty of Veterinary Medicine - Skopje, Ss. Cyril and Methodius University in Skopje, Skopje, North Macedonia)、Nishant Kumar(Amity Food and Agriculture Foundation, Amity University, Noida, India)、Anka Trajkoska Petkoska(Faculty of Technology and Technical Sciences – Veles, University St. Kliment Ohridski Bitola, Veles, North Macedonia)、Anka Trajkoska Petkoska(Department of Materials Science and Engineering, Korea University, Seoul, Republic of Korea)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Marija Menkinoska, Zhivka Goranova, Darko Andronikov, et al. Postbiotics: the route from whey fermentation to functional beverages and food packaging materials. Frontiers in Nutrition 2026-10-01. DOI: 10.3389/fnut.2026.1943948. 原著ライセンス:CC BY.